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馬旅のススメ 〜馬と仲良くなる方法〜

 

文・写真●柳沢 純

広大な放牧地で楽しむ乗馬は気分爽快!(カナダにて)"
広大な放牧地で楽しむ乗馬は気分爽快!(カナダにて)

初めて通った乗馬クラブ

憧れてはいても、いざとなるとなかなか取っ付きにくい乗馬というスポーツ。初めて乗馬クラブに行って、自分よりはるかに大きい筋骨隆々とした馬体を前にすると、やや腰が引けてしまう人もいるでしょう。それでも勇気を絞って跨ってみると意外とおとなしい。嫌がることなくじっとして、合図を出せば動いてくれる。そして歩きだすと結構ゆれる。でも、そのゆれがなんとも心地いい。10分もすれば肩の力が抜けてきて周囲を見る余裕も生まれます。馬の背中から眺める視線はいつもより高くすこし偉くなったような気分。「気持ちいい!」、優雅に騎乗する自分の姿をイメージしていると、インストラクターの「それでは速足をしてみましょう」の声。言われるままに一生懸命合図を送ると、「あっ、走った!」、「うわっ、ゆれる!」、「うっ、お尻がイタイッ…」。

「速足でお尻が浮くことなく反動を受けられるようになればしめたものです。がんばって練習あるのみですよ、△△さん」やさしく諭してくれるインストラクター。しかし、何度乗ってもお尻は弾みイタクなるばかり。一向に上達しない自分自身に腹が立ち、「乗馬なんてキライだ…」。こうしてやめてしまう人は続けている人より多いかもしれません。では、どうすれば楽しく乗馬を続けることができるのか、なにか秘訣はあるものでしょうか。

まず馬という動物を知ろう

馬は、その大きな身体に似合わず臆病で繊細、そしてとても感受性の鋭い動物です。知能は一般的に人間の3〜4歳児程度といわれています。つまり、若干扱いづらいお年頃。褒めると悦び、叱れば落ち込みしゅんとします。そして、アメとムチのバランスが度を超すと、調子に乗りすぎたり、逆にいじけてしまうのも人間の子供と一緒です。また、記憶力が高いので、一度経験したことはなかなか忘れません。その特徴を利用して上手にトレーニングされた馬は、乗り手の合図をきちんと理解し動くことができる従順な乗馬に育ちます。一方、適正を欠いたトレーニングや飼われる環境などによりストレスがたまると、気性が激しく扱いづらい性格になってしまいます。人に対して恐怖やストレスを一度でも感じると、なかなかその性格は直りません。また、せっかく温和で従順な馬に育っても、その後の扱い次第では癖馬になってしまうことも珍しくありません。

放牧地でのびのび暮らす馬の親子
放牧地でのびのび暮らす馬の親子
見た目はかわいいロバですが気性は荒い
見た目はかわいいロバですが気性は荒い


品種、環境による違い

世界に200種以上いるといわれる馬。その中で乗馬として用いられる代表的なものがサラブレットに代表される軽種、また、北米産のクォーターホースに代表される中間種と呼ばれる品種です。
一般的に日本の乗馬クラブにいる練習馬は、その大半が軽種。元来が競走馬なので、勘が鋭く神経質です。見慣れないものや、聞きなれない物音には過敏に反応することがあるので、柵で囲った馬場内での反復練習は欠かせません。

カナダの馬は水陸両用
カナダの馬は水陸両用

一方の中間種は、アメリカ西部開拓時代に、人や荷物を運んだりするいわば道具として重宝されてきた馬たちです。頑丈で小回りがきき、温和で従順な性格が特徴です。めったな事に驚くこともないので、初心者用に適した馬が多くいます。
また、品種の違いに輪をかけて馬の性格を左右するのは、飼われている環境です。
海外の牧場で飼われている馬たちは、普段は広々とした牧草地に放牧され、青草を食みながらのんびりと暮らしています。
一方、日本の乗馬クラブで放牧地を持つところは残念ながらそう多くはありません。馬が自由になれるのは、狭い馬房の中だけです。外に出るときは人を乗せるか、つなぎ場で出番を待つかのどちらかで、時折馬場に放してもらい砂浴びを楽しむのが、ストレス解消の唯一の場。自然とストレスをためやすく、神経は尖りがち。ピリピリした雰囲気になりがちなのは、いたし方ないのです。

乗馬スタイルの違い

一般的なウェスタン鞍
一般的なウェスタン鞍

日本の乗馬クラブで主流なのは、「ブリティッシュ」と呼ばれる競技馬術のスタイルです。ヨーロッパからの流れを汲んだ伝統的な騎乗法です。オリンピックの種目にもある障害飛超や馬場馬術など、競技馬術はすべてこのスタイルで行なわれます。馬と乗り手が絶妙なバランスを保ち、人馬一体となって流れるような馬の運動能力を引き出せるよう、無駄のないシンプルな造りの鞍が使われます。その分安定性は犠牲にされるので、慣れるまで多少時間がかかります。
北米の「ウェスタン」はカウボーイに代表される労働が育んだスタイルです。放牧された牛の動きに合わせた俊敏さとロープを操る複雑な動きを馬上で要求されるため、鞍は安定感にすぐれ長時間の騎乗にも耐えられるように設計されています。ウェスタン鞍にはホーンと呼ばれる出っ張りがあります。本来はロープを操作する上で必要なものですが、いざというときつかまるにはちょうど良い位置にあるので初心者にとっては乗りやすい鞍です。日本の乗馬クラブでもウェスタン鞍から始めて、慣れてくるとブリティッシュ鞍に替えてレッスンを進めるところもあります。

馬との接し方

初めての馬には正面から声を掛けながら近づきましょう
初めての馬には正面から
声を掛けながら近づきましょう
こうして耳が倒れているときは警戒している証拠
こうして耳が倒れているときは
警戒している証拠

上述してきたように、品種や環境、トレーニングを担当する人により馬の性格もいろいろで、習うスタイルによっても相性が変わる乗馬。ですが、接し方は万国共通、どんな馬でも一緒です。
基本となるのは、声をかけながらのスキンシップ。やさしく話しかけながら身体をさすってあげることで、馬の警戒心を解します。
馬の感情は耳によく表れます。基本的には関心のあるほうに耳を向け、相手や対象物が発する音、言葉や声の調子などを聞き分けようとします。初めての馬に近づくときは、正面、または横からゆっくり声をかけながら、耳に注意を払います。こちらに向けてピンと立っているときは、急激な動作さえしなければ驚かせることはありません。しかし、警戒心の強い馬は、時折耳をピタッと後ろに倒すときがあります。これは不安や恐怖を感じ警戒しているときなので、それ以上不用意に近づかないように注意しなければなりません。
騎乗中にクルクルと耳がまわり、騎手のほうを向いていることが多いときは、乗り手の意向を汲み取ろうと集中しているしるしです。逆に耳の動きにメリハリがなくだらんとしているときは、気分が乗らず乗り手にもあまり関心がない証拠です。
大抵の馬は、人を乗せて2〜3歩も歩けば自分の背中に乗る人が初心者か上級者かを見抜きます。今日の相手がたいした事ないと判断すると、とたんに怠けるものもいます。そうした馬にあたったときは、断固たる態度で臨むしかありません。いくらお腹を蹴っても動かない、走らない…。そこであきらめてしまえば相手の思う壺。人の指示で馬が動く。この大原則が、動く馬に乗せられる、になってしまわないようにするのは、騎乗した人の責任です。

果たして秘訣はあるものか

さて、冒頭の疑問に対する答えを考えてみましょう。楽しく乗馬を続ける方法。その答えは、自分にあった乗馬スタイルを探すこと。これに尽きると思います。
近くに乗馬クラブがあって、相性のよいお気に入りの馬がいるならラッキー。多少離れていても、乗りたい馬がいるなら出かけましょう。馬場の中で反復練習を重ね、上達をすこしずつ実感するのは楽しいものです。それでも通ううちに行き詰まりを感じたり、熱意にかげりが出てきたら、視点を変えることが必要です。普段とは違う馬や人に出会える馬の旅。そこには、離れてはじめて見えるもの、新たな発見があるはずです。

耳がこちらに向いているときはフレンドリーなしるし
耳がこちらに向いているときは
フレンドリーなしるし

定期的に通う時間はないし、馬の相性なんてわからない。でも馬は好きだから…という人は、積極的に海外デビューしてみましょう。モンゴルの草原でもカナダの森林でも、日本とは違う環境で、日本とは違う馬に乗る。何事も、「楽しい!」と思えればすべてよし。経験もないのに海外ではなく、経験がないから海外と考えればいいでしょう。
乗馬は技術を高めるだけのスポーツではありません。馬との対話、心の交流に深く静かな感動があるものです。大自然の中で育った馬たちが、あなたになにを語りかけてくれるのか、馬旅を通して見つけましょう。

風通信」43号(2011年6月発行)より転載