添乗報告記

添乗報告記●五感で感じる「自転車でヒマラヤ越え」 (2011年4月)

 
エベレストをバックに走る!
エベレストをバックに走る!
(クリックすると拡大)

コース名:自転車でヒマラヤ越え
2011年4月24日~5月7日 文●鈴木雅子(東京本社)

2011年のGW、「自転車でヒマラヤ越え」ツアーに添乗員として同行してきました。
チベットの聖なる都ラサから乾燥したチベット高原を走り、エベレストを眺め、ヒマラヤの峠を越え、中国とネパールの国境を越え、ネパールの首都カトマンズまで、自転車と車で走破するアドベンチャーツアー。ラサからカトマンズまでは約1,000km、その距離は東京から福岡までと同じくらい。そして自転車で越えた峠の最高所は5,150m、ゴール地点は600m、その標高差は実に4,550m。その間、景色、気候、植生、民族などがめまぐるしく変わっていきます。自転車でヒマラヤを越えることの一番の魅力はその環境の変化を五感全てを使って体いっぱいに感じることができることだ、と私は思いました。一体何がどう変化するのか、「五感」ごとに紹介してみることにします。


自転車でヒマラヤ越え ルート図

自転車でヒマラヤ越え ルート図



視覚

荒涼としたチベット高原から、湖、氷河、ヒマラヤの高峰、恐ろしく急峻な渓谷、棚田が広がる田園地帯へ。やっぱり目から入ってくる情報というのは次々と変わりゆく景観を余すところ無く伝えてくれます。
景観だけではなく人の顔も移り変わります。チベットの人の顔立ちは日本人に近いモンゴロイド系の顔立ち。それが国境の街ジャンムーに着くと急にネパール人を見かけるようになり、ネパールに入ると挨拶も「タシデレ」から「ナマステ」へ。
そして動物も。チベットでは広い草原にヤクや羊がのんびりと歩く姿が見られますが、ジャンムーが近くなるとヤクや羊はいなくなります。ネパールに入ると水牛や鶏が人と同じ車道を縦横無尽に歩いています。

まずはチベットの聖都ラサへ
まずはチベットの聖都ラサへ
tibet_tenjo020
ラサを出発、雪を被ったノジンカンサンが見えるヤムドク湖へ
ラサを出発、雪を被った
ノジンカンサンが見えるヤムドク湖へ
tibet_tenjo020
カロラ峠を越え、ノジンカンサンの氷河が目の前に迫る
カロラ峠を越え、ノジンカンサン
の氷河が目の前に迫る


荒涼としたチベット高原を快走
荒涼としたチベット高原を快走
tibet_tenjo020
エベレストを見ながら走る!
エベレストを見ながら走る!
tibet_tenjo020
5,150mのタンラ峠を越える
5,150mのタンラ峠を越える


峠を越えると急に谷が深くなる
峠を越えると急に谷が深くなる
tibet_tenjo020
ネパールに入ると棚田が一面に広がる
ネパールに入ると棚田が一面に広がる
tibet_tenjo020
にぎやかなカトマンズの街に到着
にぎやかなカトマンズの街に到着


聴覚

チベット高原はとても静かでした。起伏が少ない広い平原では音が直ぐに拡散してしまうのでしょう。しかも、ネパールへと続く中尼公路の道沿いには村がポツポツとある程度で、車通りも多くありません。風がないと「ピーン」と張り詰めた静寂な空気に包まれます。おまけに道も舗装されたばかりで綺麗なのでタイヤが回転する音が静かに「スーーーー」と流れて行き、なんとも気持ちがいいのです。
それが、ヒマラヤを越えて3,000mくらいまで標高が下がると「ゴー」という川の音が聞こえて来るようになり、標高が下がるにつれだんだんと川の音が大きくなっていきます。
ネパールに入ると中尼公路沿いにはいたるところに集落があって、人とすれ違うことが多く、人口密度が急に増えたように感じます。すれ違う時は私たちに「ナマステ!」と挨拶をしてくれます。バイクや車も増え、クラクションの音も耳に付くようになります。道路は舗装はされていても穴や段差があったり、舗装されていない部分もあり、自分の自転車もガタガタと音を立てながら走ります。チベットから来るとなんと賑やかな国にやって来たかと思います。

静寂が広がるチベット高原
静寂が広がるチベット高原
3,000mくらいまで下ると川の音が聞こえてくる
3,000mくらいまで下ると
川の音が聞こえてくる
クラクションの音を聞きながらネパールの田舎町を走り抜ける
クラクションの音を聞きながら
ネパールの田舎町を走り抜ける


触覚

チベットの空気はとても乾燥しています。しかも紫外線が強い。さらに自転車に乗れば、強風の中に身を置いているようなもの。肌には劣悪な環境なのです。悲しいかな、私の肌は日焼けして、ガザガザに。乾燥した空気で喉がイガイガになります(日焼け止めクリームと保湿クリーム、のど飴がお助けアイテムですよ)。
それが、標高が3,000mくらいまで下がると急に肌に湿気を感じられるようになり、その空気に懐かしさと安心感をおぼえます。これからネパールへの国境越え、旅の終盤だというのに、なんだか「帰ってきたなー」と感じてしまいます。それもそのはず、この付近は東京と同じ温暖湿潤気候でした。自然と喉の痛みも収まるのです・・・。

チベット高原は乾燥が激しく紫外線が強い
チベット高原は乾燥が激しく紫外線が強い
ヒマラヤの峠を越えると緑が増えてくる
ヒマラヤの峠を越えると緑が増えてくる


嗅覚

意外に思われるかもしれないですが、「匂い」の変化は私に大きな感動を与えてくれました。チベット高原は乾燥した高山気候。非常に乾燥しているからか、自転車で走っていても匂いはあまり感じられません。
それが、峠を越えて3,000mくらいまで標高が下がると、湿気を帯びた空気を感じたのと同時に急に「匂い」も変わります。針葉樹林系の樹木のエキスが空気中に溶けているのが分かります。杉か、それとも松でしょうか。懐かしい匂いが全身を包み、その感覚がなんとも言えず気持ちがよい。
さらに標高を下げ、温暖湿潤気候帯はあっと言う間に通り過ぎ、ネパールへ入ると今度は亜熱帯の世界。そしてまた匂いが変わります。日本にはない匂いなのでなんとも表現が難しいですが、埃とスパイスが混ざった匂いとでも表現できるでしょうか。ゴール地点のドラルガートに着くと、とたんに夕立が。今度は雨の匂いに変わりました。

標高を下げていると突然「ブワッと」樹木の匂いが!
標高を下げていると突然
「ブワッと」樹木の匂いが!
ネパールでは埃とほのかなスパイスの匂いが
ネパールでは
埃とほのかなスパイスの匂いが


味覚

代表的なチベット料理のチベット風餃子のモモとチベット麺のトゥクパ。今回のツアーでも何度か食卓に上がりました。実は、チベット料理はネパールでもチベット系民族に限らずとても一般的に食べられています。でも、チベットで食べるチベット料理とネパールで食べるチベット料理は結構「違う」のです。
チベットのモモは具材はヤクの肉が基本で、ソースは唐辛子を大量に使ったかなり辛いもの。ネパールのモモは中の具材がマトン、チキン、ベジタブルなど種類が豊富で、ソースはスパイスとトマトとヨーグルトを混ぜて作られた、ちょっと複雑だけどマイルドな味です。
トゥクパの方はというと、チベットの物は麺が太めで噛み応えがあり、スープは醤油ベースでヤクの骨や脂肪から取ったダシが効いていて、色は透明。ネパールのトゥクパは麺がちょっと茹ですぎた(笑)スパゲティのようで、スープはトマト風味のコンソメスープという感じで白濁しています。同じメニューでもそれぞれの土地ならでは食材を使っていて、どちらも美味です。

tibet_tenjo027_17
本家本元チベットのトゥクパ
ネパール風トゥクパ
ネパール風トゥクパ

こんなにもダイナミックな変化を感じられるルートは、世界広しと言えどもそうは無いでしょう。そして、その変化を感じ取るには、車では早すぎて、徒歩では遅すぎます。正に自転車がピッタリなのです。是非、その変化していく「感覚」を自転車というツールを使って多くの人に体験してほしいと思います。