続 秘めたる可能性・小笠原の魅力

再び小笠原へ

2/18日(水)から再び小笠原を訪れた。父島の二見港には、11月にお会いした懐かしい顔が待っていた。今回は、小笠原ホエールウォチング協会(以下OWAと省略)の皆さんと具体的にツアー作りの協議をすることになっている。昼食後、OWAの佐藤文彦氏とガイドの吉井信秋氏と早速下見のトレッキングに出掛けた。何はともあれ現場を見ないと始まらない。

大洋島を実感!

小笠原トレッキングツツジ山(標高302m)コースは、通常は1日かけて父島の植生をゆっくり観察しながら歩く。今回は、残念だが、半日しか時間がない。吉井さんは、ご自身では「接客業は向いていないんだよなあ」と照れながらおっしゃるが、中々の勉強家で風土社発行の「小笠原の植物フィールドガイド」にも執筆している。朴訥としたしゃべり口調でじっくり聞かせ、安全面への配慮も子細に渡っている。峰々の向こうに真っ青で広大な海が広がり、あちこちでザトウクジラが潮を噴きジャンプする。話しには聞いていたが実に素晴らしい。しかも、吉井さんのようなガイドがつくと興味深さがぐんと増す。そもそも、小笠原は、裸の島だった。ようやくたどり着いた動植物は環境に適合し独自の種になっていく。しかし、隙間だらけの植生は、後の外来種にも絶好の場を与え在来種は征服されてしまう。そんな大洋島の気の遠くなるようなスパンの営みが、インタープリテーションを通 して浮かび上がり、新鮮な驚きが生まれてくる。小笠原は、そんな自然を肌で感じられる島である。

下山後、車でウェザーステーションに周り海に沈む夕日を眺めた。ちょうど、OWAの主任研究員の森恭一氏が、「鯨観察会」を行っていた。森さんは水産学博士で、小笠原では「クジラ博士」として知られている。少し遠いが、夕日をバックにザトウクジラが潮を吹く。いつもこんな眺めを独り占めしている小笠原の人々は贅沢だ。

南島はかくも美しい

翌日は、OWAのスタッフ一木重夫氏に南島を案内して頂いた。一木さんも海草が専門の水産学博士だ。小笠原に惚れ込んで移住し「南島ガイドマニュアル」を作り上げた。環境省や都の南島調査に加わり、自らも調査に足を運んでいる。そんな調査の時のエピソードなども織り交ぜながら解説してくれた。南島は、全体が石灰岩からなり独特なカルスト地形をなしている。扇池の美しさは、幻想的だ。南島の観光には、都の認定ガイド付きで1回に15人、1日に100人まで、一回の利用時間は2時間以内、年に3ヶ月入島禁止というルールがある。こんなルールがどうしてできたのか。南島に上陸してみればなるほどと納得する。小笠原を称して「ガラスの生態系」とはよく言ったものだ。何とかこの美しい島を残しつつ、多くの人に紹介しその貴重さを実感して欲しい。

素朴さに満ちた母島の魅力

翌日は、母島に渡った。「母島までの航路は、鯨の通り道になっていますからきっと見られますよ」果たして佐藤さんのおっしゃる通り、間近でブリーチするザトウ鯨の親子に出会った。「うわあ〜!」乗客の大きな歓声が上がる。正直、こんなに迫力があるものなのかと驚いていると、「鯨って時々船に向かって来るんですよ。小さな船だと、船底を横切られたりもするんですよ。でもぶつかったりはしないんです。」なるほど、当たり前だが、佐藤さんは流石に鯨の習性をよくご存知だ。「すごい!」だけじゃなく「なるほど」と思えてくると「海の中で鯨はどうしているんだろう」と益々興味が湧いてきた。

母島に到着。母島のツアー作りは母島観光協会に協力して頂くことになっている。会長の山崎止さんと、ペンション「ラ・メーフ」のおかみさんで副会長の平賀洋子さんらとその夜は早速打ち合わせ。いろいろ話す中から、マグロ漁と母島の農業に焦点をあてツアーを作ることを考えた。

到着の午後は、母島最高峰の乳房山(標高463m)トレッキングに出掛けた。ガイドは茂木雄二さん。本業は観葉植物を育てる農業を営まれている。この日は、小学5年生の息子さんを連れていらした。「お金をもらってガイドをするのは今回が2回目ですから、あんまり大したことはしゃべれませんが宜しくお願いします。」地下足袋に作業着、頭にはタオルを巻き、如何にも農作業を抜け出して来ましたという格好はなかなか味がある。経験の浅さを補って余り有るしっかりした知識を元に、生業の観葉植物栽培とも関連させながら楽しい解説をして下さった。そして、何よりも母島に暮す人々に共通した素朴で飾らない人柄が嬉しかった。乳房山は、尾根道に出ると、東側は切り立った絶壁である。頂上からは南方に南崎、その先に平島、姉島、妹島などの属島が一望出きる。息子さんが、頂上にある乳房山のレリーフの上に紙をかぶせ、クレヨンでこすって登頂証明を作るんだと教えてくれた。下山して観光協会の事務所にこれを持って行くと正式な証明書を発行してくれる。翌日も、早朝、茂木さんのガイドで小富士まで行った。小富士は、南崎の手前で、360度海に囲まれた景色が素晴らしい。眼下の海岸近くにザトウクジラが2頭やってきていた。「こんな凄い光景が日本で見られるのか」ととても不思議な気持ちがした。

昼間は下見、夜は、打ち合わせ。それが終ると懇親を兼ねて一杯。ああだこうだと話している内に少しずつだが互いの顔が見えくる。やっぱり机上だけじゃあツァーは作れない。時間と根気の要る作業だが、これが楽しい。何とかツアーができそうだ。そんな思いで二見港を後にした。

ガイドが作る小笠原の旅

小笠原に魅せられ移り住む若者が多い。父島では研究者やフィールドガイドになり、母島では農家や漁師になった人もいます。そんな方々が、みなさんのガイドとして手を上げてくれました。大洋島に暮す個性豊かな人々です。彼らを通 して小笠原がみなさんにぐっと近くなることと思います。ここでは、一部の方々しかご紹介できませんが、詳しいプロフィールは、パンフレットでご紹介致します。

※風・通信No19(2004年夏号)より転載

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