モンゴル研修報告記●番外編 予想のできない出来事(草原の祈りと地方ナーダム)

文●得田 充(東京本社)

これは、研修のオフの日の出来事。
ウランバートルから約4時間、バヤウンジュールという村でのお話です。

大地の目覚め

風の音で目を覚まし、一日が始まりました。
風に押され、重くなったゲルの扉を開けると、砂嵐です。海辺の砂の世界しか知らない私にとって初めての景色が広がっていました。
霧がかかったかのように、視界は遮られ、砂のカーテンに覆わた太陽は力なく、明るさだけを与えてくれる、そんな朝でした。

遊牧民にとって、「春の南風は草原に雨を連れてきてくれる」と喜ばれるそうです。
こうなるとただ風が通り過ぎるのを待つしかありません。

お昼前になり、ようやく視界が開けてきました。
しかし、そこは標識らしきものは見当たらない平原の真ん中、先にツーリストキャンプを出発した車のタイヤの後だけを頼りに目的地へと向かいます。


走る。

また走る。


何もない砂漠の中で、遠くの方に追いかけていた車を見つけ一安心です。

砂漠を抜け、しばらく走ると、馬や羊、ゲルが見えてきました。遊牧民は何もない草原でポツリポツリとゲルを構え、助け合って暮らしているのです。
いくつかのゲルを通り過ぎると、他の山とは一味違う白みがかった大きな岩山が現れました。

草原の祈りと地方ナーダム


草原の標識 大きな岩山

今日の目的は、この岩山に感謝して行なわれる競馬を見ることだったんです。
チベット仏教を信仰するモンゴル人と共にまずはこの山にあるオボーに祈りを捧げます。

今回の研修では、各地でオボー(石をいくつも積み重ね、青い布を巻きつけた場所)を見かけました。
旅人は旅の安全を祈って車を止め、周りを3週する、もしくは、クラクションを3回鳴らします。


山の神にウルグル
(お供え物)を捧げる

仏塔に祈りを捧げる

おばあちゃんの祈り


初めは誰もいなかった草原に、バイクの3人乗りや、缶詰状態の車で、大勢の人が集まってきました。
モンゴル競馬の始まりです。
準備の出来た子供たちが雄叫びをあげながら、 観客の周りを回りだします。
この声には、士気を高める意味と、山への祈りの意味があるそうです。今年は15頭が出場。例年は70頭ほどが出場するらしいのですが、今年は、雨がまだ少なく草の育ちが良くないため、馬が細く参加者が少ないのだそうです。

それでも15頭の馬が草原に並ぶ姿に、男の子心(私24歳)をくすぐられました。
騎手を務めるのは、小学校の低・中学年ぐらいの子供です。馬のスピードを出す為に、体重が軽く、振り落とされない彼等が選ばれるのです。


15頭の後姿

いざスタート地点へ


-ここでモンゴル競馬のルール-
最初の集合場所から、みんなでゆっくりと走り出し、スタート地点へと馬の息を上げながら向かいます。車が追走し、この車のクラクションの音と共に折り返し、最初の集合場所が観客の待つゴールにり、そこまで、ひたすら真っ直ぐ全力疾走です。

出場する馬と、そうでない馬を区別する為に、出場する馬の尻尾は紐で結ばれています。
たてがみが長い馬と、きちんと切りそろえられている馬がいます。それはなぜ?
2歳を向かえると、良い日を選んでたてがみを切り揃える習わしだそうです。(ちなみにモンゴル人の子供、男の子も女の子も、4歳まで髪を切らず、誕生日を迎えると、お祝いをし、丸刈りにします。なので小さい子の性別がとても見分けにくいのです。)

そろそろスタート地点かなと思い出すと、みんながけん制し合って前に出たがらなくなりスピードが落ちだします。それを車が後ろからけしかけ、この攻防が何度か繰り返された後、クラクションと共にみなが一斉に向きを変え、全力で走り出します。


準備OK! クラクションはまだ?

行け!ゴールを目指す


車でスタート地点まで並走していた我々も追いかけます。こちらのドライブも迫力満点です。道なき平原を、思わぬデコボコに、急ブレーキを掛けながらの猛追跡です。砂埃を上げ、懸命に馬を走らせる子供の姿は、とても逞しく見えました。


チョー、チョー 俺が勝つ

砂埃を撒き散らせ



馬の糞のゴールラインへ

5人の入賞者


歓声に包まれ馬の糞が並べられたラインにゴールです。
5位までに入賞した、馬と子供が表彰されます。馬に乗った小さな少年のなんとも誇らしい顔が印象的でした。

羊とウォッカと私

レースの後、この競馬を主催した方たちと共に、彼等の育った町のゲルを訪れることになりました。

帰り道、山のオボーに競馬の成功に感謝し、五体投地をし、ウォッカを撒き、そして飲みます。
ゲルに着くと、もちろんウォッカを飲みます。モンゴル人にとって水はとても大切なものです。草原に雨をもたらし、おいしいウォッカを造るのには欠かせません。

ホルホグ(羊肉の塊と野菜を大きな鍋で焼けた石と共に蒸し焼きにした料理)を焼くというので待ち時間、内臓を茹でたもの、レバーなどを食べ、ウォッカを頂きました。
完全にノックダウンです。しばし休憩。

モンゴル料理、ホルホグの作り方


1.まずは丁寧に羊をカット

2.焼けた石をどんどん投入



3.鍋で蓋をし、じっくり待つ

4.ホルホグの出来上がり
さあ召し上がれ


ホルホグが出来たとの声に、ゲルへ戻り、肉の塊にかぶりつき、そしてウォッカを飲む。お腹が落ち着いたところでみんなで集まり、ウォッカ飲む。歌を歌い飲む。そして飲む。(草原に行く際は、是非持ち歌のご用意を。)

お腹の中を、羊とウォッカで一杯にした私たちは、日が沈む前にツーリストキャンプへ戻ることにしました。 ツーリストキャンプまでは車で約40分、目印は山の形と道にうっすら残る轍です。

走り出すと、風が強くなり、気づけば砂嵐に。頼りの山が全く見えなくなりました。それどころか1メートル先の轍も見えなくなり、残る頼りは太陽の位置だけ。その太陽ももうじき沈もうとしてる。このままでは、砂嵐の中、車で朝を向かえる事に。
ツーリストキャンプは諦め、わずかにそこにあると分かる太陽を頼りに、引き返しました。
なんとか町に辿り着き、この日は昼間にお邪魔したゲルでホームスティをすることに。大草原で助け合って生きている遊牧民は、突然の訪問者を、当たり前のように泊めてくれました。

夜寝返りをうつと、横に見知らぬ人が寝ていました。この人も旅の道中だったのでしょうか?
朝、目を覚ますとその人はもういませんでした。

何にもない大草原には、日本には無いものが一杯詰まっていました。

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