添乗員報告記●草原ゲル作りキャラバン8日間

2008年8月10日~8月17日  文●荻原文彦(東京本社)

「キャラバン・・・」。実にいい響きです。 キャラバンの意味は大辞林によると、①砂漠を隊を組んで行く商人の集団。隊商。②ある目的のために、隊を組んで遠征したり各地を回ること。また、その集団。とあります。 『風のモンゴル』のツアータイトルに「キャラバン」の文字が輝くコースはいくつかありますが、最もこの言葉があてはまるのが、『草原ゲル作りキャラバン』ではないかと思います。 これから、その『草原ゲル作りキャラバン』の様子をご紹介します。

舞台はウランバートル南西140km地点

KAZEバスでウランバートル市の境界門を越え、更に南西に3時間半ほど草原の中を走ると、ゲル作りキャラバンの舞台となるバヤンウンジュールに到着します。 途中“ほしのいえ”のある大草原地帯アルタンボラグを通過していきます。 時には車の天井に頭をぶつけそうになるくらい、揺れに揺られてバヤンウンジュールを目指すのには訳があります。 バヤンウンジュールは、ウランバートル近郊にしてはとても自然の変化に富んだところだからです。 草原も砂丘も岩山もあり、キャラバン中はそれらモンゴルの大地をぐるりと周遊することができます。 月夜の砂丘を訪れ、朝露の草原に昇る朝日に目覚め、岩山に沈む夕陽を眺めるなんて、想像するだけでも楽しくなってしまいます。

キャラバン開始

ゲル作りキャラバンの一行は、乗馬スタッフと共に乗馬を楽しむ騎馬隊と、解体したゲルを運ぶラクダ隊、そして大人数のグループツアーのみ、食料や水や皆の荷物を運ぶKAZEバス、の三部隊に分かれます。まず、キャラバン出発地点となるツーリストキャンプ“アルブルドキャンプ場”で1泊して、ラクダと馬両方に乗ってみて足慣らし(鞍慣らし?)をします。ラクダは乗り降りが結構怖く、背骨もとがっていてお尻にあたり、今回は全員馬を選びました。とは言っても、ラクダが引くゲルを乗せた荷車に便乗して、ゆっくり進んだり、いよいよ疲れたらお昼にKAZEバスと合流した後、バスに乗って移動したりと、キャラバンのスタイルは変えられます。

初日に、乗馬スタッフが馬に鞍を乗せて、メンバーと馬の組み合わせをします。あぶみの長さを調節し、乗り方下り方、手綱の持ち方など教えてもらいます。基本的には、最初に決まった組み合わせでキャラバンを終えますので、自分の馬の特徴がなんとなくわかったり、日に日に馬への愛着もわいてきます。馬同士もいつも仲良くくっつくのがいたり、個性があって見ていると面白いものです。


いよいよキャラバン出発!

ラクダ車で解体したゲルを運ぶ


ゲルを運ぶラクダ車を連れて、歌いながら草原を行くスタッフ見送って、私たち騎馬隊も騎馬トレックを開始します。最初は全員まとまってポックリポックリ馬上散歩から始め、2日目以降は駆け足をするグループと歩くグループで分かれて、それぞれ楽しみました。まず目指すのはKAZEバスと合流するお昼の休憩ポイント。途中、井戸で愛すべき馬に水をあげます。地下10m前後に掘られた井戸にバケツを落とし、冷たい水をくみ上げ、丸太をえぐった馬用の水受けに流すと、実に美味しそうに競うように馬達が水を飲み始めます。乗馬スタッフもくみ上げた水を豪快に飲みます。彼らは夏の間ツーリストキャンプで働いていますが、たくましい皆遊牧民達です。私たちも乗馬でギクシャクする膝を抱えて座り、ペットボトルのミネラルウォーターを飲んでしばし休息。

真夏、モンゴルの草原の日差しはとにかく強烈で、体感温度は38度以上はあったと思います。おまけにこのあたりは木陰なども無く、思いのほか体力を消耗します。ですので、遠くに昼食の準備をする黄色いKAZEバスが見えると、一同にまるでオアシスを発見したかのような歓声があがりました。昼食は毎回360度の自然のなかでのピクニック。同行のコックさんとサブコックさんが、薪と家畜の乾燥した糞を燃料に、スープや炒め物、“ゴイモントイシュル”という肉野菜うどん、サラダなどをふるまってくれます。あまり量は食べられませんが、肉も牛肉であっさりめの味付けをしてくれているのがよくわかりました。 食後は陽が傾くまで、バスの影やタープの下で昼寝。皆が寝静まると、馬の嘶きや風の音と虫の羽音だけが聞こえてきました。風が止むと耳鳴りがするくらいの静寂に包まれます。


冷たい井戸水は馬へのご褒美

果てない青空、草原、静寂に
包まれてお昼寝タイム


ゲルを建てる!

“ゲル”は、中国では“パオ”と呼ばれる組み立て式の遊牧民の家です。軽量でコンパクト、さらに機能的なゲルは、長い歴史の中で培われてきた遊牧民の知恵の集大成とも言われます。午後、多少日差しの和らいだ中を再び騎馬トレック。午前と同じように時々井戸で休憩し、丘を越えたり駆け足をしてみたりしながら移動します。まだかまだかと思ううちに、その日の宿泊地に泊まっているKAZEバスとラクダ隊を見つけて、再び歓声があがります。しかし、立派なツーリストキャンプがある訳ではなく、皆でゲルを建てる作業が待っています。ヘルメットとチャップス(乗馬用のスネあて)を外したら、いよいよゲル作りに取り掛かります。初日は、てきぱきとゲルを建てていくスタッフの横で、手伝い方法もわからずにいましたが、2日目には積極的に手伝い、3日目にはツアーメンバーだけで(ほんの少しだけスタッフの手を借りました)一つのゲルを組立てることができました。それもしわしわの“梅干ゲル”ではなく、割と立派な“ほっこり饅頭ゲル” を建てられたのでした。

~ 最もシンプルなゲル完成まで ~


1. 蛇腹式の壁「ハナ」を広げる

2. 南にドアを設置

3. ゲルの天窓「トーノ」と柱「バガナ」を中心に立てて、屋根の骨となる「オニ」を差し込む



4. 枠組みに屋根フェルトと壁フェルトをかぶせる

5. トーノをふさぐふた「ウルフ」をかぶせる

6. 2本の縄で固定して完成!


電気も水道もないけれど

さっきまで何も無かったところに、ゲルが建つ。すると360度を自然に囲まれた自分たちだけのツーリストキャンプが出来上がります。電気も水道もなく、トイレも草陰や草原鼠かプレーリードッグの巣穴跡に目隠しをしただけという不便な環境ですが、“いかに楽しむか”、“いかに快適に過ごすか”など人間の暮らしの原点に触れたような貴重な体験をもたらしてくれます。そんな手づくりツーリストキャンプでは、お茶を飲み、フリスビーやサッカー、バレーボール、コックさんの手伝いや周辺散策など、モンゴルの自然の中で思い思いに過ごします。スタッフを交えてスイカ割り大会も行いました。


スイカ割り大会

薪と家畜の乾燥した糞を燃料に腕をふるうコックさん

満点の星空のもと、流星観測


夕食を食べて語らい、昼間とはうって変わる冷え込みの中、満天の星空を眺めて眠り、日の出と共にまた新しい1日が始まり、ゲルを解体して再びキャラバンを開始・・・。最初は何もない草原にポツンといることが皆不思議でしょうがなかったのですが、日を重ねていくとそんな生活にも慣れて行きました。 3泊4日と短い期間(美味しい所取り)ですが、馬やラクダで住居ごと移動するという遊牧民の疑似体験をすることで、モンゴルの自然の広がりや、遊牧民の暮らしの奥深さを感じることができたと思います。

参加者の感想でとても印象に残っている一言があります。 「モンゴルって何にもなくても、不思議とあたたかい気持ちがするところよね。」


手作りツーリストキャンプ

はるか彼方に砂丘を望む

暮れなずむ大平原


ラクダ隊と騎馬隊とKAZEバスが行く、草原ゲル作りキャラバンは、乗馬未経験者でもご参加いただけます。 乗馬ももちろん楽しいのですが、ゲルを建てたり解体したり、コックさんの料理を手伝ったり、燃料になる乾燥した家畜の糞を集めたり積極的に何かを体験していく楽しみがあります。 ツアー参加者同士はもちろん、バヤンウンジュールの頼もしく楽しいスタッフ達と「移・食・住」を共にすることのできるこのコースは、やはり「キャラバン」の響きがしっくりきます。


月夜の宴
旅仲間との語らいも自然と弾みます

全員集合!



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