特別記事

「カルメリーナの家」ーグアテマラの風景

 
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グアテマラの宝物を習いに行く

今日は、カルメリーナの家に行く日。彼女のおばさんに織物を習う日なのです。
カルメリーナの家はおじいちゃんとおばあちゃん、結婚した弟やお嫁さんも一緒に住んでいて、総勢16人の大家族。すぐ隣にはおばさん家族が、その隣にはおじさん家族が住んでいます。そしてちょっと行ったところには、もうすぐ結婚するカルメリーナの許婚が住んでいるのです。

彼女の家は、私が住んでいるソロラからピックアップトラック(乗り合いの荷台車)で15分。そこから歩いて15分のところにあるタブロン。カルメリーナは私とスペイン語で話しながら歩いていても、行き会う人と交す挨拶は現地の言葉カクチケル語。この村の人々は100%ソロラテコ(ソロラの人をいう)。カクチケル語を話し、ソロラ独特のカラフルな民族衣装をまとっています。トウモロコシ畑の中を歩き、こんもりとした森の中を通り過ぎるとそこにカルメリーナの家はあります。私たちが着くと真っ先に飛び出してきてくれるのは彼女の弟たち。とびっきりの笑顔で迎えてくれます。

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カルメリーナが走って隣の家からおばさんを呼んできてくれると、織物が始まります。
今は慣れましたが初めはすべてのことにビックリしたものです。どんな小さな家でも、道具を縛り付けるのは家の柱や軒下の木材。けれどカルメリーナ家では青空の下で織るのです。暑かったり寒かったりしても場所をちょっと移動するだけ。その上道具が足りなくなると、おばさんがカルメリーナに「あの枝を折って」(カクチケル語での会話なのでこれは私の想像になりますが)と即席の道具にしてしまうのです。目の前の木の枝だったものが、今は私の織物の道具に!あるものを利用する。これはたしかに当たり前のこと。おばさんとカルメリーナを前にいつも納得させられます。
織物を教えてくれるときには、おばさんがカルメリーナにカクチケル語で、その後カルメリーナがスペイン語で私に説明してくれます。質問はその反対。カルメリーナのおばさんもスペイン語を少し話しますが、込み入ったことはやはり使い慣れたカクチケル語になるようです。
カルメリーナは織物をしません。おばさんや義理のお母さんが織る様子を見ているのでなんとなく分かっているのでしょうが、1つずつおばさんに聞きながら私に教えてくれます。
織物はマヤの時代から、1,500年以上続けられているグアテマラの誇る伝統文化。そして今もなお、多くの家庭で母親から娘へと大切に引き継がれているものなのです。
ここ数年織りを知らない女の子たちも増えています。勉強や外での仕事のために時間がないのが大きな要因のようです。

織物が伝えるグアテマラのこころ

織物をしていると、いつの間にか私の回りにはカルメリーナの弟たちが。9歳になる一番上の弟も小学校へ行っていません。お金がないから・・・とカルメリーナは言います。そのため彼らはグアテマラの共通語であるスペイン語を話しません。私はスペイン語しか話せず、ほとんど会話は成り立たないのですが、彼らの笑顔を見ていると、なんとなく一緒にいるだけでいいような気持ちになるのです。
お母さんに呼ばれると走っていって手伝いをこなし、それが終わるとまたかけてきて私が織物をするそばでなにやらしています。カルメリーナのお母さんも仕事の手を休めては時々様子を見にきてくれます。
庭のすぐ隣にある畑では鍬をふるうおじいちゃんの姿があります。トウモロコシとフリホーレス(インゲン豆)が植えてあるのです。
「もう80歳になるから畑仕事はやめるように、みんな言ってるんだけどおじいちゃんやめないの」とのこと。
グアテマラの主食はトウモロコシから作られるトルティーヤ。これを三食食べます。
トウモロコシはマヤの時代から伝わるグアテマラの人々の命の源。マヤの人々は全てに神が宿っていると考えています。もちろんトウモロコシの神もおり、マヤの時代から多くの石碑、土器、絵文書に描かかれている大切な神なのです。
2,000年以上人々の命を支えてきたトウモロコシを作ることは現在の人々にとってもかけがえのないこと。カルメリーナのおじいさんがこれを続けていることは、自然なことなのかもしれません。

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トルティーヤを焼くのは女性の仕事。食事の時間が近くなると薪を使った釜からうっすらとした煙がのぼりはじめ、パンパン、パンパンとトルティーヤを焼いている音が聞こえはじめます。
お母さんやおばあちゃんたちのそばで育つ女の子たちは、見よう見真似でトルティーヤを作り始めます。小さな手で一所懸命作っている姿のかわいいこと。その上私が作るよりはるかに上手でもあるのです。
グアテマラの都市部にはトルティーヤ屋さんがあり、そこで焼くトルティーヤを買う人も増えていますが、年季の入ったおばあちゃんやお母さんが作ってくれる焼きたてのトルティーヤに勝るものはありません。
こんな中でとりあえず織り続けているものの、織り目を取り損なってしまったり、とりすぎてしまったり。あわててカルメリーナのおばさんを呼んだり、自分で網目と奮闘したり。
グアテマラの女の子は5歳ぐらいになると織物をはじめるそうです。最初は小さなものから。徐々に大きなものを作れるようになり、3,4年後にはウイピル(女性の民族衣装の上着)も織れるようになるとか。年をとるとやはり老眼になってくるため細かい作業が出来なくなってきますが、おばあちゃんたちは現役を退かず、みんなが織るために糸巻きや糸張りやなどの下準備を、小さな子供たちとしながら過ごすのです。私の様子が気になるのかカルメリーナのおばあちゃんも時々様子を見に来てくれます。そしてカルメリーナをはさんで、ぽつぽつと話をしてくれます。
民族衣装の模様の意味、それはマヤの道であったり、マヤの人々が信じる大地。そして鳥、犬、七面鳥など身近にいる動物たちや自分たちの命をはぐくむ植物。また、神話上の生き物など。模様を指差しては教えてくれるのです。グアテマラの織物には、マヤの宇宙観(太陽、月、金星、星など)、東西南北を象徴する色(北は白、南は黄色、東は赤、西は黒)など様々なものが織り込まれています。若いカルメリーナも知らないことが多いようで、私と一緒にうなずきながら聞いています。

大切にしたいグアテマラの時間

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大きな愛に守られて育つグアテマラの子供たち

織物をしているとあっという間に時間が過ぎていきます。今私がいる場所が、カルメリーナと彼女の家族が生きている現在。いつもとても不思議な気持ちになります。織物をする母親のそばで育つ子どもたち。そこに流れるゆったりとした時間。いつもあったかいものを沢山もらってカルメリーナの家を後にするのです。
 
子供たちの笑顔。お母さんたちのあたたかさ。誇り高いお父さん。伝統を守り続けるおじいちゃんおばあちゃん。けして特別ではない、どこにでもあるグアテマラの風景。近代化の波におされ少しずつ失われている伝統文化。大切に守り続けてもらうために、小さいながらも私なりに出来ることしなければ思うのです。

風通信」38号(2008年10月発行)より転載