添乗報告記●パタゴニア2大トレッキング
バックパッカープラン14日間(2012年2月)

国立公園の入り口で姿を現す見事な岩山のパイネタワー(パイネ国立公園)

●2012年2月11日〜2012年2月24日 文●小林勝久(東京本社)
 ついに! 7年ぶりに復活しました。南米パタゴニアをバックパッカー気分で旅をしてみようというこの企画。パンフレット日程を見る限りでは、通常のツアーとあまり大きな違いはありませんが、実際に現地へ行くとそれが良く分かります。ガイドが付かない、レストランもアポ無しの現場対応などなど、パタゴニアに詳しい添乗員がガイドも兼ねて同行するのです。ある程度行き当たりばったり的なため、当然、ハプニングも起きたりします。でも、そのハプニングも旅の楽しさと割り切り、添乗員もお客様も一緒に力を合わせて旅を進めていきます。そんなパタゴニアツアーに同行してきました。さて、今回はどんな旅になったのでしょうか・・・


パタゴニアのグルメタウン!? プエルトナタレス

 チリの首都サンチャゴを飛び立ち、約3時間、チリパタゴニアの玄関口プンタアレーナスへ到着です。空港を出ると早速、パタゴニア名物の強風がお出迎え。深い藍色に染まったマゼラン海峡を見ながらプンタアレーナスのバスターミナルへ。軽く昼食を取った後、長距離バスに乗り、いざプエルトナタレスへ。
プンタアレーナスを出てしばらくするとパタゴニアの大地が見え始めました。どこまで走っても変わらない景色。パタゴニアにやってきた実感が沸いてきます。こうしてバスが走ること3時間、静かな入り江のウルティマエスペランサ湾が見え、プエルトナタレスに到着です。1〜2時間もあれば殆ど歩けてしまうくらい素朴な町ですが、ここに来るといつもどことなくホッとした気持ちになります。以前と比べ、だいぶ観光客向けのお店やレストランは増えましたが、素朴な町の雰囲気は変わっていません。

 そんな素朴な町プエルトナタレスですが、実は私が一押しのグルメタウンでもあるのです。ここに来て必ず訪れたいお店は2つあります。ひとつは「LA BURUJA(ラ・ブルハ)」、もうひとつは「ASADOR PATAGONICO(アサドール・パタゴニコ)」です。

 前者はセントージャと呼ばれる南極カニを食べられるレストランで、ほぐした新鮮なカニの身をたっぷりと味わえます。このセントージャは捕獲量も少なめで、どこでも食べられるものではないので、新鮮なカニ料理が食べられる貴重なレストランです。
 そして後者は肉料理のお店。ここの一押し肉料理はコルデーロと呼ばれる子羊の炭火焼です。羊の肉と言うと、クセがあり、苦手意識がある方が多いと思いますが、このコルデーロはひと味も、ふた味も違います。パタゴニアの天然の草を食べて育った子羊のため、肉も柔らかく、驚くほど臭みも無く、美味。セントージャもコルデーロも皆様に大好評でした。
 
 ちなみに、このツアー、食事をするレストランの予約は事前には一切行っていません。つまり、添乗員が現地へ行ってから直接探すスタイル。そんな訳で毎回その日のレストランを探すのですが、いつも都合通りに行くとは限りません。サンチャゴ到着日が日曜日だったため、休業のレストランが殆どで、散々歩き回ってやっと1軒見つかったり、プンタアレーナスに到着した日の昼食は時間に余裕が無く、急遽、スーパーマーケットのフードコートで軽食を食べたり、普通のツアーではありえない状況になります。
 
 これは裏話になるのですが、日程に含まれている食事は当然、添乗員が現地で直接一括で支払います。ただ、今回、予想以上の物価高騰により、初日の昼食から青ざめるくらいの支払いで、毎回毎食電卓を叩きながらの旅となりました。幸いだったのが大食いのお客様がいなかったため、軽めの昼食で浮いた食費を要所要所でワイン代や豪勢な内容にへとシフトし、何とかお客様にひもじい思いをさせることなく、終えることが出来ました。



いざ!パイネ国立公園へ

 チリパタゴニアのハイライト、パイネ国立公園へ出発です。プエルトナタレスを出て、しばらく走ると遠くにパイネ国立公園の山々が見えてきました。右には見事に切り立ったパイネタワー、左には角のような形をしたクエルノスが見えます。そんな眺めが見えたので、皆さんも気持ちが高まってきました。走るにつれパイネの眺めの迫力がどんどん増してきます。
 走ること約2時間半、国立公園内の山小屋へ到着です。国立公園内では2泊し、日帰りのトレッキングに挑戦。今回一番の目的はラストーレストレッキングです。これは切り立ったパイネタワーを眺めるベースキャンプまでのトレッキングで、パイネ国立公園の中でも一、二を争う人気のコースです。山小屋をスタートし、川を渡ると、上りが続いていきます。しばらくの間ひたすら上りが続くので、ちょっときつく感じます。


 ちょうどこの日のスタート時の天気は生憎の曇り時々雨。パイネタワーが雲にすっかり隠れてしまっていましたが、晴れることを信じて上っていきます。上りきると眼下に谷間が広がり、迫力ある眺めが展開します。せっかく上ったと思ったら、今度はくだりが続き、中継地点の山小屋へ到着。人生もトレッキングもアップダウンの繰り返し、そう簡単にはいきません。上ってきて2時間ほど経過しましたが、雨は止む気配がありません。気持ちを奮い立たせ、皆さん先へと進んでいきます。山小屋を過ぎると緩やかなアップダウンを繰り返し、森の中のトレイルを進んでいきます。森の中で雨をしのいでお弁当タイム。しばし休息の後、再び歩き始めます。この頃になると、雨が止み、空もうっすら日差しが見え始めました。皆さんの気持ちも高まり始めました。

 しかし、トレッキングルートはここから難所を迎えます。森を抜けると岩がごろごろとしたガレ場が広がります。かなりの傾斜の急な上りと歩きづらいトレイルが続きます。残り1時間弱の行程ですが、ゴールが遠くに思えてきます。ふと気づくと青空も広がりはじめてきました。パイネタワーにはまだ雲がかかっていますが、若干薄くなってきたので期待が膨らみます。一歩一歩着実に歩き、ついに展望ポイントのベースキャンプに到着です。

 目の前には見事に切り立ったパイネタワーが4本聳え立ち、麓には氷河湖が広がっています。タワーを覆っている雲が切れるのを期待しながら待ちます。しばらくすると次第に雲が薄くなり、4本のタワーが見え始めました。残念ながら完璧に雲が消えることは無かったですが、迫力あるパイネタワーの姿を眺めることが出来て、ここまで来た甲斐がありました。


青く輝くペリトモレノ氷河

 チリのプエルトナタレスから陸路で国境を越えてアルゼンチンのカラファテへ。チリからアルゼンチンへ入ると果てしなく続く荒涼とした大地が広がります。こうして走ること約4時間、カラファテへ到着です。ここからさらに旅は続きます。右手にコバルトブルーの湖面が輝くアルヘンティーノ湖を見ながら目指すはペリトモレノ氷河へ。

 カラファテから走ること約1時間半、目の前に青々と輝くペリトモレノ氷河が見えてきました。今日は快晴のため、氷河もひときわ美しく見えます。
まずは、船に乗り、氷河の近くまでクルージングをします。船は徐々に氷河に近づき始めていきます。氷河から吹き降ろす風の冷たさが、徐々に迫ってくる氷壁を実感させます。遠くからでも十分な迫力ですが、近くに接近するとよりその巨大さに驚かされます。皆さんもその迫力に圧倒され、言葉が出ないくらいの感動に包まれています。船は右に左に旋回しながらこれでもかというくらい氷河を見ます。

 約1時間のクルーズを終えた後、今度は展望台から氷河を見物します。クルーズが氷河を見上げる感じだったのに対し、今度は氷河を見下ろすような感じになり、また違った氷河の眺めを楽しめます。かなり広い展望台で一番前の展望台まで行くのに意外と時間が掛かります。それにしても目の前に広がる氷河の全貌には圧倒されてしまいます。

 皆さんも思い思いの場所で氷河をじっくりと眺めています。氷河は光の加減で白くなったり、青くなったりと面白いように変化をします。時折、”ペキッペキッ”という音が聞こえ、気がつくと轟音をとどろかせて氷河が崩れます。ほんの少し崩れただけなのにまるで爆弾が爆発したようなすごい音がします。時間を忘れ、夢中になってみてしまいます。ですが、時間に限りはあります。皆さん後ろ髪を引かれる思いでペリトモレノ氷河を後にしました。


パタゴニアの白い妖精フィッツロイ

 アルゼンチンパタゴニアのハイライト・フィッツロイトレッキングへ向かいます。カラファテからバスに乗りトレッキングの基点の町チャルテンへ。この日も快晴で青空が広がっています。バスがしばらく走った後、フィッツロイの姿が見えてきました。運が良く完璧に晴れています。しかし、油断は禁物、このフィッツロイは晴れていてもすぐにガスが掛かって姿を隠してしまうことが多いのです。


 実際、バスが国立公園管理事務所に到着する頃には案の定、山の中腹に雲が掛かり初めていました。こんな気まぐれのフィッツロイですが、この日は何か予感めいたものを感じたため、予定を変更し、初日にフィッツロイトレッキングを行うことに。ホテルにチェックイン後、すぐに準備をし、トレッキングのスタート。最初こそ上りが続きますが、ある程度上りきると緩やかなアップダウンになるため、比較的楽にあることが出来ます。しばらくは全くフィッツロイの姿が見えません。晴れているのか!? はたまた雲に隠れてしまっているのか!? 期待と不安にワクワクしながら進んでいきます。歩き始めて約1時間半を過ぎた頃、視界が開けたと思うと、そこには完璧なまでのフィツロイの雄姿が広がっていました。快晴の上に、雲ひとつないフィツロイ! 下で見たときの雲は全て消えていました。ある程度想像はしていたもののそれを上回る素晴らしい眺めに皆さん興奮を抑えられないでいます。パタゴニアへ何度も足を運んでいるさすがの私もここまで完璧なフィッツロイを見るのは13年ぶりのため、お客さんと一緒になって興奮をしていました。

 展望ポイントでお弁当を食べながらフィッツロイの眺めを楽しんだ後、先へ進んでいきます。先のルートはそれほどアップダウンは厳しくないため、目の前にフィツロイを見ながらの楽しいトレッキングです。先ほどの展望ポイントはまたちょっと違った角度で眺められるポイントでしばし時間を過ごし、チャルテンへ戻りました。翌日は完全に曇ってしまったため、初日にフィッツロイ方面を歩いて大正解でした。完璧なフィッツロイの雄姿、それはまさに白い妖精の名にふさわしい素晴らしい眺めでした。


チャルテン村のちょっとイイお話

 実は今回のお客さんのお一人がこの旅の中で誕生を迎えられました。ちょうどその日はチャルテン滞在にあたる日。プレゼント自体はプエルトナタレスで既に購入していましたが、気がかりはバースデーケーキでした。
当初、こんな片田舎の村だからまずケーキは用意できないだろうからシャンパンやワインで祝おうと考えていました。一応、駄目もとでホテルのフロントで聞いてみると、案の定、”難しいわね~”というリアクション。でも、もしかしたら、ここにあるかもと言って紹介されたのが、パンとお菓子のお店でした。
とりあえず、店へ行ってみるとケーキはあったものの、チーズケーキのようなタルトのみ。あきらめて帰ろうとしたら、店主が引き止めてくれ、少し時間をくれれば何とか用意をすると言ってくれました。この店主さんはチャウラさんという女性で、突然来て “2時間後までにバースデーケーキが欲しい” というわけの分からない東洋人にもとても親切に対応してくれました。ケーキの内容や誕生日の人の好みや名前など細かいことを聞き出してくれて、オリジナルのケーキを作ってくれました。
 
 何とか無事ケーキの仕込みは出来たものの、そのケーキを持ち込めるお店を探さないといけません。案の定、”悪いけど持込はダメ” とか “予約がいっぱいでダメ” などの返事が続き、片っ端から当たった後、肉料理のお店が快く引き受けてくれました。しかも、ケーキが出来上がり、店に持ち込んだ際に、店のオーナーが “こっちのロウソクの方がよりきれいだよ” とカラフルなロウソクを提供してくれました。 
こうして、チャルテンの温かくそしてプロフェッショナルな人々に助けられ、お客さんも大喜びのサプライズバースデーは大成功を収めました。この日の出来事を見て、仕事というのは人助けなんだなぁ、としみじみ思いました。


 チリ・アルゼンチンパタゴニアの旅でしたが、お客様にも天気にも恵まれた14日間でした。
もし、まだパタゴニアを訪れていない方がいらっしゃいましたら、ぜひ一度は地球の裏側パタゴニアへ足を運んでみてください。

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