添乗報告記

添乗報告記●ネパールはどうなっているか -ヒマラヤをたしかめにいく-

 
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2009年12月26日~2010年1月3日 文●嶋田京一(東京本社)

風カルチャークラブの講座で、北海道をホームグラウンドに自然解説の講師をしている三木 昇さんを海外に連れ出して、その国の自然はどうなっているんだろう? とたしかめにいくこのシリーズ。今回は神々の国、ネパールへと行って参りました。

ネパールは中国(チベット)とインドに囲まれた海のない国で、東西に約800km、南北に約150kmという北海道の約2倍の面積を持つ長方形の狭い国土。しかしながら、その北部にはエベレスト擁するヒマラヤ山脈、南部は標高100~200mのタライ平原と、実に標高差は8,500mを越えます。
バナナが繁る亜熱帯の風景の奥にヒマラヤの白い頂きが見えるポカラ。多様な気候とバラエティ豊かな地形。様々な民族が入り混じり、豊富な植生とそれに応じた鳥や動物。どんな木が生え、どんな花が咲き、そしてあのヒマラヤは、いったいどのように形成されたのか? 木の話、花の話、地形の話など、何気ない風景の中から様々な話を取り出してくれる三木さんと、ネパールの自然を何でも見てやろうという旅です。

* * *

今回の旅のポイントは、標高約100m~2,700mの垂直移動です。サイにワニ、トラまでいるチトワン国立公園でのサファリから一転、チベット高原のような荒涼としたジョムソン街道へ。この2つの違いをたしかめにいきました。

首都カトマンズを出て、トリスリ川沿いの急峻な山に囲まれた道を車で進むこと、約4時間強。谷あいの道が急に開け、道は森の中へと続いていきます。森の中に足を踏み入れてみると、今まで見てきた木と違った木々が生い茂っています。

「いったいこの木は?」 三木さんに聞いてみると、
「サルの木ぃ!」

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サラノキの森

という答えが帰ってきました。猿の木って、、、またまた冗談で煙に巻かれたか? と思ってしまったのは私の勉強不足で、この木はサルツリー、つまりサラノキのことで、仏教三大聖木のひとつ、お釈迦様が亡くなったときにそばに生えていた沙羅双樹のことでした。なるほど、インドが近いことを実感。

以前来たときは、かなり暑かったのですが、チトワン国立公園が近づいても空は晴れず、けっこう肌寒いまま国立公園の近くにあるソウラハという町のロッジに到着。ロッジ滞在中は、日替わりで午前と午後それぞれに、様々なアクティビティが用意されています。

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牛車で菜の花畑を往く

到着したこの日の午後は、この地に古来より住んでいるタルー族の伝統的な村を牛車に乗って訪問し、村の博物館では伝統的な暮らしの解説を聞きました。途中の畑には菜の花が満開で、一面に黄色い花畑が広がっていました。この辺も人が入る前は、先にみたサルの木の森が広がっていたんだろうね、と三木さん。実際、今でもタライ平原の森は切り開かれ、山岳地の民族が移住しているそうです。来るときに見た森も、もしかしたらいずれなくなってしまうのかもしれません。

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ワニが逃げるから静かに静かに…

翌日は、木をくり貫いた伝統的な作りの細長いカヌーでの川下りからスタート。水面近くを滑るように進むカヌーから、手を川に入れてみると思いのほか温かくて驚きました。温かい川面からは立ちのぼる霧が幻想的な光景を作り出し、カヌーの上からワニや数種類のカワセミの姿を見ることができました。

午後は、象乗りサファリに出発です。象の背中に括りつけられた座席に、木で作られた高い櫓?から象に乗り込みます。ゆっくりと大きく揺れる象の背中に揺られ、川を渡り、草原を抜け、うっそうと木が茂る森に入ろうとしていたとき、「サイがいる!」との声が。見ると、大きなサイが15mほど先でこちらを振り向いています。かなり怖い距離での遭遇でしたが、象の背中からなら安心です。これは楽しい! ほかにも大型の鹿(スポッテッドディア)も見られ、象と共に静かに進むジャングルサファリは興奮の連続でした。
アフリカのサファリと比べ、見られる動物の数も種類も少ないのですが、象の背に揺られながら野生動物と対峙していると、自分も象としてこの自然の中にいて、サイと出会っているような気がしてきます。象から降りたとき、再び人間に戻ってきた……。そんな風に感じてしまいました。

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四人が四隅を向いて進む
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鎧のような皮膚、尻尾がピタリと
収まるような型どりに驚く

チトワン国立公園には、ベンガルタイガーもいるのですが、夜行性の肉食動物を見るのはただでさえ難しいことに加え、かつて象に乗りながらのハンティングが盛んに行われたせいもあり、ここでトラを見ることはかなり難しく、今回も見ることは出来ませんでした。
ロッジのダイニングに往時の写真が飾られており、何十頭ものトラの毛皮が並べられたモノクロの写真には、さもありなんという感じです。

* * *

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ジョムソン空港到着!
目の前にはニルギリ(7,000m峰)が!

さて、たくさんの動物を見た我々は、チトワンを後にして、車でポカラへ向かい、そこから飛行機に乗り換えてチベットとの交易の要所ジョムソン(約2,700m)へといっきに移動しました。
ポカラからジョムソンへのフライトは、天候の問題で数時間遅れは当たり前。運が悪ければ飛べない日もあったりするのですが、今回は空港に着いてちょっと待っていただけであれよあれよという間にジョムソン空港の滑走路に降り立っていたのでした。
昨日までの多種多様な生き物がいた世界とうって変わって石ころだらけでほとんど草木の姿の見えない荒涼とした風景が広がります。

荒涼として乾燥した地域には、厳格なイメージのチベット仏教が根付いており、標高も低く湿潤で生き物達がにぎやかな地域には、生命感あふれる多神教のヒンズー教が根付いています。双方の地に実際に立ってみると、感覚的に腑に落ちるのですが、実際にはそんな感覚的な話ではないのでしょう、きっと。柳田國男が『蝸牛考』で提唱したような方言周圏説のような、あるもの(この場合は宗教)が発生し、伝播されていくなかでの状態のひとつなのかもしれません。

* * *

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比較する対象がないのでこの巨大さが
伝えきれないのが残念(クリックで拡大します)

そして、これからは徒歩と車移動を交えてジョムソン街道をひたすら下ります。出発前に、ヒマラヤがどういうわけでこんなに高くなってしまったのかを、三木さんが最近の学説を引用しながら説明してくれました。
 
今まで、インド大陸がユーラシア大陸にぶつかって、ぐぐっと押し上げられのがヒマラヤ山脈だ、というくらいの認識しかなかったのですが、じつはその過程には複雑でダイナミックな地球の動きがあるのだそうです。なんでも、大陸と大陸の間にあった海の底の堆積物がいったん地下深くまで地殻プレートとともに引きずり込まれ、その後、大陸のプレートの隙間にまた、ぶにゅっと押し出される、ということが、ヒマラヤ山脈の下では起こっているとのこと。そうしたところの地層の変わり目がジョムソン街道を下る過程で見られるのだそうです。
巨大で固い地面がぶにゅと押し出されるなんていう話はなかなか想像しにくいのですが、目の前にぐにゃりと曲がった巨大な地層の姿を見せられると、地球の力をもってすればそういうことも起きるのだろうな、という気にもなってきます。
 
三木さんはそうした話を、あるときは地図で、またあるときは図鑑や座布団などをつかいながら、インド大陸がユーラシア大陸にぶつかったときの様子を再現してくれます。そして、最後に必ず「という話なんだけどほんとかいなー」というセリフをあえて付ける三木さん。学説を疑うというわけではなく、そうした説があるけれども、まずは自分たちで実際に見てみましょう、という意識を大切にしようということなのです。

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地図を大陸に
みたてて説明
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座布団と布が大陸と地層、左がユーラシア
大陸で右がインド大陸だとして説明

川の上流部にあたるジョムソンの近くは、かつて海底だった部分の堆積物が持ち上がったところだそうで、風化・侵食されやすい堆積岩のところでは、川の水は周囲の谷を削り、広大な河原となっていたのですが、下流に進むと、あるところからは深く狭い谷へと景観がガラリと変わります。そこは、大陸と大陸の隙間の地下深くに潜りこみ、熱で変成した固い変成岩が押し出されてところで、川は谷を広げることなく、狭い谷を急峻な流れとなって流れ下っていました。地層の変わり目を境に川と谷の景観が一転している様子を、実際に目の当たりすることが出来たこと、地球上でももっとも地表がダイナミックに動いている(と私は思っている)場所でたしかめられることに感動しました。

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巨大な河原に供給される土砂は扇状地となり
しょっちゅう洗い流され裸地になるこうした
場所には、先駆性樹木のマツが育っていた
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狭く細い谷になったことで、
地層が固い岩盤に変わって
いることがわかる

地形にも意味があることがわかっていて歩くと俄然、興味も増してきます。その地形に応じて、植生も変わり、そこに暮らす人々の自然の利用の仕方も変わっていく……というように、ひとつのつながりとなって全てのものに興味が湧くから面白いものです。
そういった目線で、三木さんと一緒に「ほほーっ」とたしかめながら歩きました。

あれは何? あそこはどうなっているのだろう? そう思ったらそこまで行って見て、たしかめてみる。この素直な気持ちで、これからもいろいろなものを見ていきたいと思います。自分の目で見て、自分なりにたしかめてみる。

皆さんも、一緒にたしかめにいきませんか!?


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何だろうと思って近づいてみたら、、、
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大きな蜂の巣でした

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あの茶色くぶら下がっているものは何?
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はは~、葉っぱで巣を作る蟻がいるのか

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なるほど、こうして石を薄く割るわけか
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それにしてもうまいこと割れるもんだ

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この木、ポインセチアです
nepal_tenjo001_020民家の屋根にクジャクが!タルー族の村にて


講師の三木さんの手よる、更に詳しくて面白い旅行記が弊社季刊誌『風通信No.39』に掲載されています。どうぞそちらもお読みください!