特別記事

【キルギス】彼らこそ騎馬民族の真の末裔だ

 

「騎馬民族なら馬を使った民族の誇りとして勇壮な競技が存在するに違いない」モンゴル・キルギスに暮らした筆者が発見した騎馬民族の真の継承者は? 騎馬民族伝統文化研究者の清水隼人氏にご寄稿いただきました。

中央アジア・キルギスの騎馬競技

文●清水唯弘

緑の牧草地 草を食む馬たち
緑の牧草地 草を食む馬たち
牧畜文化をもつ民族
牧畜文化をもつ民族

暴れ回る騎馬の民を、現代内陸アジアに捜せ!

騎馬民族と言えば、モンゴル。ですが「伝統的な暮らしは確かに素晴らしいが、騎馬技術の祭典が継承されている訳ではないなぁ」伝統文化探求をテーマにモンゴルに渡り、一年半滞在した私にこんな疑問が湧いてしまいました。そしてモンゴル人自身へ「騎馬競技を伝えている土地」と尋ねると『キルギス』という答えが返ってきたのです。

天山の恵みと友に

さてそれから5年間もキルギスとのつきあいが始まったのでした。キルギスは天山山脈の国です。と言えば、キルギスの大体の位 置と牧畜文化を持った古代からの民族を頭に浮かべていただけるでしょう。乾燥し赤茶けた大地のイメージが殆どの中央アジアに於いて、天山山脈に抱かれたキルギスでは、白い峰々、緑の牧草地、青い湖など心和む色彩に出会えるのです。

騎馬民族の「動」の世界

キルギスに渡ってみると、人が住んでいるところは普通の街や農村です。牧畜は夏に高地へ家畜をあげる移牧の形態ですから、いつも馬が駈け巡っているという雰囲気ではありません。しかし、記念行事や催事となると馬が集められ勇壮な騎馬競技が展開されているのです。 太古に民族馬術が自分達の生活と密着していたことを忘れずに、民族の誇りとして体現するために現代に存続されていること。そして、実際眼前でぶつかり合う生の迫力に私は驚き、かつ本物を見つけた喜びも味わったのでした。
その競技を簡単ですがご紹介しましょう。


主な騎馬競技

【オーダルシュ】
騎馬相撲。日本の相撲を馬上で行うものです。行司も馬に乗って采配します。これが本当の「騎馬戦」と思われる競技で、馬から相手を引きずり落とせば勝ちです。

【コクボル(ウラク・タルトゥシュ)】
騎馬ラグビーチームを組み、山羊(ウラク)をボール代わりに奪い合い、自陣に運ぶポイント競うもの。もうこれは馬群のぶつかり合いです。まさに騎馬民族の戦闘訓練の再現以外の何物でもありません。

【ティーンエングメイ】
走行拾得技術 馬に乗り走りながら体を乗り出して、地面に置いてある物を拾い上げるというアクロバット的な個人技の競技。主に地面 にリボンを置いて何個取れるかを競っています。

【クズクーマイ】
娘追い一組の男女がそれぞれ馬を走らせ直線コースで男が女を追いかけます。追いつけば走りながら女性にキスをします(実際には抱きつくところまで)。逆に女性が追いかける時は、もし追いついたら何と後ろから鞭で相手を思いきり叩くのです。間合いを詰め、全力疾走しながら最後に鞭を振り上げようものなら、観客は大喝采です。クズクーマイは「騎馬の民なら女性も男を負かす程巧みに馬を扱う」ことの現代に見られる好例に他なりません。

【アトゥチャブシュ】
競馬もちろん競馬もあります。周回コースで20キロ、30キロレースや側対歩レースがあります。キルギス競馬の特徴は長距離レース。費用の点でなかなか実現しませんが、95年にトルクメニスタンからの1,000キロレースがありました。日を替え乗り継いで行う競馬の考えが現代にあるだけでも貴重と思われます。


オールダシュ
オーダルシュ
コクボル
コクボル
クズクーマイ
クズクーマイ
女の子が勝ったぞ!
お!女の子が勝ったぞ!

ここに紹介した競技は5月の戦勝記念日、8月末の独立記念日などで花を添えるものとして行われます。本来、昔から村で冠婚葬祭の時に催されたものが競技化されて現代に残っているのです。91年の独立後、経済混乱が落ち着くにしたがって、これら民族馬術の催しも増えつつあります。とくにコクボルは、競技連盟がリーグ戦を主催し、昨年第一回全キルギス大会が成功した程です。ソ連政権下で失われつつあった民族のアイデンティティ作りの一つに、騎馬競技の復興を賭けていると言っても過言ではないでしょう。シルクロードのちょうど中間に位置する天山連峰。その山麓に、古代よりの無形文化財の如く伝えられる騎馬競技の数々は、キルギス人の精神文化も背景にそびえる天山山脈の景色と共に、太古より何ら変わらないと誇っているかのように思えます。

※『風通信 NO.3』より転載


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