第108回●ニマ ~かるぴか君~

tibet_ogawa108_1ラサ郊外で見つけたソーラークッカー

昨年7月、チベット薬草ツアーに同行した際、村や街のあちらこちらでソーラークッカーを見かけた。パラボラのように開いた銀色パネルの中央に太陽光(チベット語でニマ)を集めてお湯を沸かすというもの。ソーラークッカーの傍で日向ぼっこをしているお爺さんに価格を訪ねたところ490元(約6,000円)と教えてくれた。現地の人にとっては、やや高い買い物のようにも思えたが、これだけ庶民に普及していることを考えると、ガスや薪が貴重なチベットでは生活に欠かせない優れものなのだろう。「これはいい!」とツアー参加者のみんなと覗きこみ、一家に一台あればいいなあ、と羨望の眼差しで見つめていた。

tibet_ogawa108_2かるぴか

そして、帰国後の8月、小諸の街角でスマートなソーラークッカー「かるぴか」を見つけたとき、まるで、チベットの遊牧民が来日して、お洒落に着飾っているような不思議な感覚を覚えた。標高700メートルの小諸は日本第2位の日照時間を誇る太陽都市。太陽光発電の普及も進んでいる。27,800円(専用鍋付き)という値段に少し迷ったけれど、「風のチベットガイドたるもの、常にチベット人らしくあれ」と強引に自分を納得させて購入することにした。

tibet_ogawa108_3かるぴかを組み立てる滝沢さん

かるぴかを製造販売しているのは小諸の隣、佐久市にお住まいの滝沢さん。ソーラークッカーを作って普及せねばと脱サラし、中古の工場を買い取ったその情熱は、かるぴかのごとく光り輝いている。田園に囲まれた中にある滝沢さんの工房あまねに到着すると、玄関前でかるぴか君(以後、君づけ)がせっせとお湯を沸かしながら僕たちを出迎えてくれた。早速、購入したい旨を伝えると、滝沢さんが華麗な手つきで組み立ててくれ、まるで我が子を嫁に出すように丁寧に取り扱いを説明してくれた。

すべてに共通することだけれど、生産者の顔が見えると安心感、信頼感が生まれる。チベット薬だって、チベット医みずからが作るからこそ患者からの信頼が得られるのだ、とこれまた強引にチベット医学と結びつけて納得してみた。ちなみに、チベット薬を作る際、薬草や丸薬の乾燥は基本的に電気を用いず天日で行われる。特に熱の性質の代表であるザクロは1週間近くも天日乾燥され、太陽の熱が薬に取り込まれる。一方、涼の性質を持つ石膏は月光の下で作られる(第19話)。

小諸の自宅兼「チベット医学・薬草研修センター」に持ち帰り、早速設置してお湯を沸かしてみた。僅か20分で約700ccのお湯が沸騰するどころか、真ん中に黒い紙を置くと、一瞬で発火してしまうほどの集光力。これは凄い!チベット人もビックリ。もしライフラインが止まっても、かるぴか君さえいれば、なんとか生きていけるな、と頼もしく感じた。それからは毎朝、起きるとまず、かるぴか君を太陽に向けてセットし、せっせとお湯を沸かしてはポットに溜めることに夢中になった。ホットケーキだって美味しく焼けるし、カレーのような煮込み料理にも大活躍だ。溜めたお湯は麺の茹で汁や、油料理の洗い物の際に有効利用する他、余ったらお風呂に入れてお湯の足しにし、冬場は湯たんぽに使っている。かるぴか君と太陽の共同作業で育てた「お湯」を1滴たりとも無駄にはさせない。太陽を崇めた古代の人々の気持ちが良く分かる。

また、かるぴか君の功績は環境に優しいことやガス代の節約以上に、場を盛り上げてくれることにある。友人が我が家を訪れてかるぴか君に出会うと、みんな「なにこれー!」と喜んでくれる。太陽光で入れたコーヒーを飲みながら、チベットの思い出話、環境問題の話などに一段と盛り上がりをみせる。自由業で家に居る時間が多いおかげで、僕はいつもかるぴか君と一緒。彼と同居を始めて半年、まだ倦怠期が訪れる気配はない。

どうぞ、この春、かるぴか君に会いに小諸にいらしてください。お待ちしています。

工房あまね http://w2.avis.ne.jp/~amane/
チベット医学・薬草研修センター http://tibetherb.blogspot.com/

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