第209回 リモ ~いつか、別所温泉で~

tibet_ogawa209_1別所温泉駅

 別所温泉(以下、別所)に引っ越してきたときインドのダラムサラと雰囲気が似ているなあと感じた。妻も同じ印象を抱いたようだ。どちらもいろんな人々が訪れる観光地である点だけでなく、街の規模や人口、道の幅、坂道の傾斜、風景などひとつひとつがそっくりだ。また観光地であるおかげで旅人や移住者に対して寛容な点も素敵な共通項だ。だからダラムサラに初めて着いたときと同じようにこの街が直感的に好きになった。住処は大自然に囲まれていて、それでいて賑やかで、人と人の距離が近い街がいい。

tibet_ogawa209_3別所エスプレッソ

 近所のカフェ「別所エスプレッソ」は僕たち夫婦の大のお気に入り。30代のマスターが手と炭火で丁寧にコーヒー豆を焙煎している。七輪と備長炭での焙煎がはじまると店の周囲には香ばしいコーヒーの薫りが漂う。7名ほどしか入らない小さな店では初めての人ともすぐに会話が弾んで友達になってしまう。おかげで随分と早く街に馴染むことができたと感謝している。つい先日は天然酵母のパン屋&雑貨屋「まるふじとムスビ舎」がオープンした。パン好きの妻は大喜びして通っている。移住して10年になるNさん一家は別所神社の奉納イベント「大地の記憶」を企画するなど別所の街をとても賑やかにしてくれている。Nさんの家は千客万来。客の国籍もさまざま。小高い丘の上にある家では頻繁に宴会がはじまって笑い声が響き渡る。別所はもともと歓楽街なのでちょっとくらい騒いでも寛容な土地柄というのも嬉しい。移住して30年になる陶芸家ルミさんはアトリエ「アースワークスギャラリー」を営み、近日ゲストハウスをいよいよオープンする。街の外れにたたずむ「別所古道具店」もその名に相応しく別所にアンティークな魅力を加えてくれている。

別所は僕たちが移り住んで3年。いろんな人たちが次々と移住してきて、さらに賑やかになりつつある。僕の幼馴染はたまたま別所に遊びにきたことが切っ掛けで、半年後には東京から引っ越してきた。やはり人と人の距離が近いことが魅力的だったという。一級建築士として東京の仕事を請け負いながら別所ライフを満喫し、いまではすっかり宴会の主役になっている。11月末には新たに焼き鳥屋がオープンする予定だ。みんな経済的には安定していないけれど時間だけは豊富な自由業なので、できることは自分でやろうとするし、できないことは助け合い「ゆい」が自然と生まれてくる。

tibet_ogawa209_2アースワークスギャラリー

夕暮れどき、カフェや古道具店やルミさんの店に明かりが灯ると街の中に店が浮かびあがる。灯のなかでは若者たちが集って笑い合っている。小高い丘の上にあるNさんの家にも灯りが灯り、薪ストーブの煙が夕暮れの空にたなびきはじめた。その光景がたまらなく美しい。美しい絵画、街の芸術祭のようだ。そのとき一枚の絵画「マヨ―ル広場」、いや、正確には小説『いつか、マヨ―ル広場で』を思い出した。

私がそれを指差すと「マヨ―ル広場」と彼はいった。夕陽に暮れなずむ広場の中から、それに隣接して建てられた長屋のような場所で生活する人々の有様が活写されていた。長屋の一階ではバーやレストランが肩を寄せ合うように軒を連ねている。二階ではギターを弾いている男がいて、走りまわっている子供がいて、テーブルを囲んで何かを言い争っている男がいて、その隣の店のバルコニーでは愛を語らっているカップルがいる。    
  中略 その人間の営みのすべてに、夕陽がふりそそいでいる。無差別に、公平に、そして平等に。(小説より引用)


これはスペインのマヨ―ル広場の賑わいを描いた絵画を巡る男女の出会いの物語。大崎善生さんといえば『聖の青春』や『パイロットフィッシュ』など長編の代表作が挙げられるが、僕はこの短編小説がなぜか一番好きだった。そして、その「なぜか」の理由を10年越しに、いま、ようやく自覚することができている。別所温泉の絵の中に自分がいる。絵を眺めているのではなく、いま自分が絵の中に生きていて、絵(チベット語でリモ)をみんなといっしょに描いている。そう実感できることはとても幸せだ。「みんなと街を描き、街を創る」これもまた「森のくすり塾」によるチベット医学的な健康法の実践として認めてはもらえないだろうか。
 大自然に囲まれた野倉とともに、別所温泉の賑わいも満喫してみてください。「いつか、別所温泉で」お会いしましょう。


自宅がある別所温泉から店舗「森のくすり塾」がある野倉までは車で8分、歩いて40分です。

【リンク】

大地の記憶
別所エスプレッソ 
まるふじとむすび舎 
アースワークスギャラリー
別所古道具店



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