第226回 ハリエンジュ ~活力を生む木~

tibet_ogawa226_4薪木から出た新芽

 ハリエンジュの木々が生い茂る雑木林を駐車場にすべく、チェンソーで立ち向かった。伐って倒して、枝打ちして、丸太を短く伐って、運んでと、振り返ってみれば昨ヶ冬と昨冬のほとんどを費やしてしまったが、「大草原の小さな家(第192話)」のチャールズに憧れる僕にとって開墾はけっこう楽しい作業だった。体一つで森と相対している充実感。荒れた雑木林に人の手が入り、敷地に光が少しずつ差し込んでくる過程は充実感を味わことができる。頑張った甲斐があって明るい駐車場ができあがった。

 と思って油断をしていたら、この夏、地面からあっという間にハリエンジュの幼木が

あちらこちらからニョキニョキと伸びてきているではないか。マメ科に属するハリエンジュの種はその細長い莢が見事なまでに地面に突き刺さり、かなりの発芽率で繁殖する。普通、木の種はもうちょっと控えめに「機会がありましたら」と発芽してくるものだ。それが雑草の零れ種のように生えてくるのは驚かされた。なにしろ伐った丸太からさえも新芽が出てきていた。恐るべしハリエンジュ。しかも他の木々と比べて異常なまでに成長が速く、速いが故に根がしっかりと張らずに倒れやすい。油断ならないので幼木であろうと草刈機で刈れるうちに刈っておいた。繁殖と成長のランキングでは木々のなかで最速であろう。千曲川の河川敷がハリエンジュで占拠されるなど、外来繁殖樹として悪者扱いされているのもわかる気がしてきた。ちなみにハリエンジュ、チベットでの名は特にないがダラムサラには生えていた。

tibet_ogawa226_2
ハリエンジュとチベット僧

ハリエンジュは角材が採れるほどには太く育たず、割れやすい性質のため木材としての価値はほとんどない。しかし、割れやすい性質のおかげで薪としては最適である。そして火持ちがいい。そう考えるとせっせと薪丸太を作る意欲が湧いてきた。確かに斧で割ってみると硬そうに見えて意外と素直に割れてくれる。ちなみに前話で紹介した杉は柔らかいけれど粘りがあるので意外と割れにくく、火持ちは極めて悪い。

tibet_ogawa226_1積みあがったハリエンジュの丸太

長さ40㎝前後のハリエンジュの丸太がピラミッドのように積み上がった3月中旬。早稲田大学の若者が森のくすり塾を訪れた。若いが剣舞の師範代だという。彼は斧を手にすると見事な斧裁きで次々と丸太を薪にしていった。いかに力を抜いて「気」で木を割るか、そんなことを研究しているようだ。5月には上田市内の高校生がやってきた。総合格闘技の道場に通っているという。彼の割り方は若者らしくパワーである。薪割りをすると全身の筋肉のバランスが整うというが、こちらとしては有難すぎるトレーニング法である。その他、来店された方々に「薪割ってみますか」とお誘いするとみなさん楽しみながら挑戦して元気になって帰ってくれる。生きることの根源と結びついているからだろうか、薪割りには活力を生みだす不思議な「薬効」があるようだ。その他、養蜂家にとってはハリエンジュ、別名ニセアカシアの花は貴重な蜂蜜源であることも忘れてはいけない。

tibet_ogawa226_3薪割り青年

歴史を調べてみると明治時代、足尾銅山の禿げ山を緑化するために、わざわざアメリカから輸入して植樹したのが日本における起源だという。その後、炭鉱の跡地など禿げ山をあっという間に緑化してくれるので重宝された。そうして50年ほど前まで、まだ薪が燃料の主役だったころまでは自然界におけるハリエンジュのバランスは保たれていた。しかし暖房や台所の火力が石油やガスに変わるとともに薪の需要は激減し、ハリエンジュはただ繁殖し続けて邪魔者になっていったのである。

もちろんハリエンジュに罪はない。わざわざ海外から招聘され明治以降の日本を緑化して十分に活躍してくれた。もっと薪ストーブが普及したらいいのだが、なにしろ薪は人件費がかさむがゆえに買うと石油よりも高価である。将来、石油の供給が途絶えるか高騰したならば、きっとハリエンジュの評判は一気に回復するだろう。もっとも、そんな緊急事態にならなくともエネルギーがあり余っている若者たちに木を伐って薪を割ってもらったらいいと僕は考えている。たとえば中高校の剣道部は薪割りボランティアをすれば稽古にもなるし薪は安く供給できるし一石二鳥である。若者たちの熱いエネルギーは確実に温もりに変わる。ハリエンジュの繁殖が追い付かないほどに薪を割って環境バランスを取り戻してほしい。私も若くはないけれど山のなかで精一杯がんばっています。もしよかったら、薪割りを体験しに「森のくすり塾」までいらしてください。


【イベント】
企画中

【講座】


【旅行】