小川 康のヒマラヤの宝探し

第235回 ドクダミ ~薬草ブーム~

 
ドクダミドクダミ

薬草茶といえばドクダミ茶を連想する人が多いかもしれない。しかし、戦前までドクダミは主に湿布薬として利用されてはいたが、お茶としてはそれほどポピュラーだったわけではないというと意外に思われるだろうか。今回はドクダミを題材として戦後の薬草ブームの歴史を振り返ってみたい。

最初の薬草ブームは昭和40年(1965年)ころに起こっている。高度経済成長に伴う豊かさによって「生きる」こと、つまり「死なない」ことがようやく常識となり、健康・長寿への意識が強く芽生えはじめた。このころ紅茶キノコ、コンフリー、アマチャズルなどの薬草が癌に効くとして異常にもてはやされた。そして「○○に効く!」という健康食品業界の暴走を抑えるため、1971年(昭和46年)に四六通知が発布された(第184話)。

四六通知とは薬草を医薬品と食品に分類する法律である。このときドクダミはセンブリ、キハダ、ゲンノショウコなどとともに医薬品に分類されている。つまり当時は一般人がドクダミ(茶)を売買すると薬事法違反だったのである。それが1986年(昭和62年)の薬事法改正によって、その理由はわからないが、ドクダミは医薬品を解除され食品となった。法律が緩和されるや、それまでの規制の反動もあって健康食品業界はこぞって商品開発に乗り出しドクダミ茶ブームが起こったのである。なにしろ元プロ野球選手ならぬ「元医薬品」という肩書がある。「♪ハトムギ、玄米、月見草。ドクダミ、ハブ茶、プーアール。爽健美茶」の爽健美茶は1993年の発売である。群馬県中之条町に「薬王園」なる巨大な薬草テーマパークが1994年に完成。同様に岐阜の高山や伊吹など日本各地に薬草関連の施設が作られ薬草列車が運行された。しかし薬王園が2000年に閉鎖されたことに象徴されるようにドクダミに端を発した第二次薬草ブームは終息していったのである。(注1)

薬草の乾燥
薬草の乾燥

ブ-ムの欠点は「終わる」ことにある。事実、上記の薬草たちは現在ではそれほどは注目されていない。「終わる」だけならまだいい。ブームの反動で理不尽なまでに軽視されてしまうことが一番の問題点だと僕は捉えている。たとえば現在の若い医師、医学部生たちは薬草を「現代薬とはまったく別世界のもの」として捉える傾向がある。皮肉なことに、一般社会で薬草がブームになり「天然物は素晴らしい」と持ちあげるとともに、暗に現代薬に対する批判的意識が高まるほど、その反作用として医学・薬学の現場では薬草が遠ざけられていく。現代日本人は薬草と直接触れあわなくなったがゆえにドクダミに限らず薬草に過度な期待をするか、もしくは過度に軽視しすぎる傾向がある。
誤解しないでほしい。ドクダミの効果効能を疑っているわけでは決してない。6月、白い花(注2)が咲いた時期にドクダミの地上部を刈り取って乾燥し丁寧に焙じると特有の臭みが分解され、ハトムギ(第167話)やハブ茶(第82話)とブレンドすると美味しく飲める。ほんの少しだけ甘茶(第189話)を加えるとコクが出てさらに美味しくなる。また、ドクダミにはフラボノイドと呼ばれる成分が豊富に含まれていて血管を柔らかくしてくれる。カリウムが他の野草よりも豊富なので利尿作用に優れている。緩やかな下剤作用もある。これくらいの蘊蓄(うんちく)は語ってもいいのではないか。なにしろ十の薬効をして「十薬(じゅうやく)」という別称がつけられたのだから。ちなみにチベットにはドクダミは生えていない。

埼玉県東秩父村の地域の皆さん講座「森のくすり塾」では地域の皆さんの協力により講座の深みが増している

話をまとめたい。昭和40年以降、健康ブームと薬事法に翻弄されたドクダミであるが、ブーム以前のように、素朴な期待感のもとに使われてほしいと思っている。企業や学者ではなく田舎のおじいちゃん、おばあちゃんこそが薬草の主役であってほしい(注3)。ドクダミやゲンノショウコが軒先で乾燥されている、そんな農村の風景が復活してほしい。ちょっとした便秘や浮腫みには「それならドクダミ茶を飲んでみてください。お薬は必要ありませんよ」と、気軽に薬草を処方する医師・薬剤師が増えてほしい。ドクダミは過度に期待されても過少に評価されても、医薬品でも食品でも、僕がどんな評価をしても、その本質は古来より何も変わらない。ただそれを取り巻く人びとの意識が変わっただけのことである。そんな俯瞰意識を、千年を越えて平々凡々と受けつがれてきたチベット医学から学んだような気がしている(第205話)。

(注1)
第二次という名称は筆者による命名である。

(注2)
植物形態学的には花ではなくガク片とされている。

(注3)
東秩父村で開催している「森のくすり塾」は、昭和40年以前の薬草の素朴な営みを甦らせることを目的とした講座です。講座の主役は地元のおばあちゃん(おばさん)たちです。



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