第236回 シントウ ~神道~

塩田水上神社塩田水上神社

チベット人から「オガワは仏教徒か?」と尋ねられると、当初はなんとなく「無宗教」と答えていたものだった。しかし「無宗教」は海外では誤解を招くとともに、その誤解を解消するためには多大な解説を必要とする。そこであるときから「シントウ(神道)」と答えることが多くなった。シントウは(僕にとっては意外だったのだが)日本独自の宗教として海外にその名が知られている。

 積極的に神道を信仰してきたわけではないが、振り返ってみれば、僕は神道の影響を強く受けて育ってきた。まずは祖母の影響だ(第134話)。小さいころ、祖母は神棚に御飯を小さく盛って捧げ、手を合わせて何かをつぶやいていた。たぶん家族の健康を祈っていたのだろう。それは毎日のことだったからよく覚えている。そういえば、僕はなにかに困ったとき「神様、助けてください!」と反射的に祈りを捧げてきた。たぶん、自分が漠然と祈りの対象としていたのは神道の神様ではないかと思う。次に高校に入ると弓道として神道と主体的に関わった。弓道場は高岡市の射水神社の境内にあったことから、鳥居をくぐるときは必ず帽子をとって一礼をするのが部の決まりであった。試合の前には神棚にむかって神前礼拝という儀式が執り行われ、神聖な面持ちで柏手を打っていた。とはいえ神道とは何かについて、また、神道と弓道の関わりについて深く考えたことは一度もなかった。大学でも弓道を続け、大事な試合前には仙台の青葉神社に必勝祈願に参拝していたが、敗戦が続くと自然と神社から足が遠のいていった(第93話)。もちろんただの実力不足だったことは言うに及ばないし、そもそも個人の願い(欲望)を叶えるためだけの信仰であったことに、いまさらながら自戒の念が込み上げてきた。

東北大学弓道場にて 1991年
東北大学弓道場にて 1991年

 ふたたび神道との関わりが深くなったのは帰国後、2011年に妻と結婚してからである。毎朝、祝詞を唱え、伊勢や出雲、大神神社へとお参りに出かけるほど敬虔な妻のおかげで、自分が神道について不勉強なことに気がつかされた。そういえば上田市に縁ができたのは妻と神道のおかげだった。2013年の秋、(当時は早稲田大学院の学生)上田市の長野大学に講師として招かれた際、同行していた妻が大学の近くにある生島足島(いくしまたるしま)神社に心を惹かれた。創建の年代は不詳だが日本最古の神社の一つとされ、御神体は「土」という特色がある。「この神社の近くに住みたい」。なにげない妻の一言が切っ掛けで、なんの仕事の当てもないのに家探しをはじめたのは本当の話である。あいにく神社の近くには見つからず、半年後、神社から6キロ離れた別所温泉の現在の貸家に落ち着くことになった。
 別所に移住してから2年。「森のくすり塾」店舗建設のために、たまたま紹介された土地が自宅から2キロ離れた塩田水上神社と地続きの土地だった。当初、地域の人から神社の社務所だと思われていたくらい神社と薬房は一体化している。神社の象徴である杉の樹齢が300年以上なことから、少なくとも江戸中期からの存在は確かだが確かな起源はわかっていない。明治4年、廃仏棄釈令に伴う神社再編のさいに現在の名前となり、諏訪と熊野と住吉の三つの神様がそれぞれの祠で祭られている。薬房の駐車場は神社の上にあるため、お客さんは神社の杉並木のなかを通って来店することになる。店舗建設のために木を伐採したことで神社に光が射し、往来が増えて神社は少しだけ賑やかになったことで、神様が少し御喜びになられていたら幸いである。

別所神社 元旦別所神社 元旦

自宅のある別所温泉においては神社委員に任命され季節ごとに執り行われる別所神社の神事に参加している。毎年7月中旬には五百年続く雨乞い神事「岳の幟(たけののぼり)」が開催されるのだが、2017年には行列の先陣を務める「昇り龍」の大役を任された(それくらいに若手が少なくなっているのです)。年末は神社の御札を配りに各家庭を回り、元旦には朝6時から神社で参拝者に甘酒を振る舞った。こうして神道のおかげで地域社会に馴染むことができたと感謝している。
 いま、改めて宗教はなんですかと問われたならば「神道とチベット仏教」と答えたい。祈りとしての神道。また、地域との関わりを深めてくれる神道。いっぽう、毎朝読経をし、四部医典の翻訳に励み、縁起思想を学ぶチベット仏教。つまり、神道が「生活」ならばチベット仏教は「学問」として、僕のなかでは自然と役割分担がされている。

薬房から見上げる神社薬房から見上げる神社

「チベット」「薬草」「くすり」というキーワードだけではなく、神道や神社にご興味のある方も、是非、上田の「森のくすり塾」へお越しください。



リンク
生島足島神社 http://www.ikushimatarushima.jp/jinja/
別所神社   http://museum.umic.jp/map/document/dot14.html
塩田水上神社 http://senshoan.main.jp/koboku/mizukami-sugi.htm



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