チベット人監督で初の劇場公開作品 映画『草原の河』が間もなく公開

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先日、先行試写会にご招待いただき、4月29日から岩波ホールにてロードショーが決まった、ソンタルジャ監督の『草原の河』を見てきました。この作品は2015年の東京国際映画祭ワールド・フォーカス部門上映作品です。(受賞時の上映題は『河』、英語題:River)

『草原の河』予告編


舞台はチベット東北部アムド地方。半農半牧生活(冬は定住して、夏は草原でテント生活)を送る家族(父と母、娘、出家した祖父)が主人公です。
幼い娘ヤンチェン・ラモは、母親が妊娠し、産まれてくる赤ちゃんに母親を取られてしまうことに心を痛めています。
ヤンチェンの父は、出家してしまった自分の父親が、かつて死の床にある母親より修行を優先したことを許せず、病気になった父親を見舞うことができません。そんな厳しい自然環境の中で暮らす家族の心情に、次第に変化が訪れて…というお話です。


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書いてしまうと本当にそれだけのシンプルなストーリーなのですが、人物のアップと、風景のロングショットを多用、無駄なセリフは極力排され、雨や風、そして雹の音やバイクのエンジン音、動物のいななき、息遣いなど自然の音が効果音として使われることによって、チベットの雄大で厳しい大自然の中で暮らす人々の心情が見事に描かれています。
監督のソンタルジャは1973年、アムド地方(青海省海南蔵族自治州)の牧畜民の出身。青海師範大学時代は美術を専攻。その後、チベット映画界を牽引する若手監督のペマ・ツェテンの作品で撮影を担当していたそうで、確かにその影像は力強く、美しいのです。


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特に注目は、チベットの大地の表情(天候)が登場人物の心情とシンクロしている(ように感じられた)こと。
チベット(特に草原地帯であるアムド)の天候は、普段は穏やかで暖かで豊かな草原は家畜を太らせてくれますが、一旦崩れると風が吹き荒れ、雨や雹や砂が叩きつけ、「この世には何の救いもない」とすら思えるような無力感、絶望感に襲われるほどなのです。
ストーリーの展開と共に、祖父と父、父と娘の間に横たわっていた凍った『河』が次第に融けてゆくのが、影像の力で伝わってきます。


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そして、豊かな表情で心情の変化を表した娘役のヤンチェン・ラモちゃんがとんでもなくかわいい! 全くの素人で演技の経験はまったくないというのに(監督の知り合いの娘さんだそうです)、映画初出演で上海国際映画祭で最優秀女優賞を受賞したという天才的な演技力には脱帽です。


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これまで、外国人監督によるチベット映画(『セブンイヤーズ・イン・チベット』や『クンドゥン』)、中国人映画によるチベット映画(『チベットの女 イシの生涯』、『ココシリ』、『ラサへの歩き方』など)は数多く公開されてきましたが、この作品は、「日本で初めてのチベット人監督による劇場公開作」ということでも注目されています。

これまでは「神秘的」「独自の文化・習慣」という外からの視点で描かれることの多かったチベット映画ですが、近年はソンタルジャだけでなく、ペマ・ツェテンを代表に国際的にも高い評価を受けている若手のチベット人の映画監督が現われ、チベット的な美意識に基づいた作品が多く発表されています。今後、彼等の作品が日本でも広く楽しめるようになるのではないかと思いますので、要注目です。

余談ですが、チベット映画の最近の状況については東京外国語大学のアジア・アフリカ言語研究所が『セルニャ SERNYA』という雑誌を発行しており、非常に詳細で興味深い記事を掲載しています。
詳細はこちらのチベット文学と映画制作の現在  ページでご確認ください。(この記事を書くにも大いに参考にさせていただきました)



『草原の河』公開情報

  • 日 時:4/29(土・祝)~
  • 会 場:岩波ホール(東京・神保町)ほか全国順次公開
  • 詳 細公式サイト

写真提供©GARUDA FILM 配給:ムヴィオラ



映画を見てチベット(アムド)に興味をもたれた方は、こちらのツアーで実際に行ってみませんか?



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