[モロッコ]アトラス山脈最高峰・ツブカル山 登山の実際

 
ベルベルの集落・アルメッド村
ベルベルの集落・アルメッド村



北アフリカのモロッコを訪れた方の中には、マラケシュの観光スポット・フナ広場から、案外近くに雪を戴く山が見えることに驚かれた人もいることでしょう。 “アフリカ大陸”と聞くと、灼熱の砂漠や、野生動物が闊歩するサバンナを思い浮かべがちですが、実はモロッコにも、夏でも降雪のある4,000m峰が存在し、世界中のトレッキング愛好家から登山対象として人気を集めているのです。それが、アトラス山脈の最高峰・ツブカル山です。


【DAY1】マラケシュ→イムリル村(1,740m)→ツブカル山中(3,200m)

マラケシュから車に揺られること1時間半。辿り着いた集落が、モロッコの最高峰でもあるツブカル山の登山口・イムリル村。現地の登山スタッフ達と合流し、不要な荷物をロバと馬の交雑種であるラバに預け、砂糖をたっぷり入れた甘いミントティーで英気を養います。

リンゴやクルミの林が広がるイムリルやアルメッドという集落を横目にして、ツブカル山の登山はスタートします。広い河原を通過すると徐々に不整地になってきますが、頑固で臆病者のラバが機嫌を損ねずに通れるくらいの道ですので、二本足の我々でも特に緊張を強いられるような場面はありません。山の民・ベルベルの生活や、のんびり放牧されている羊などを眺めながら歩いていると、気がつけばランチタイムになっているはずです。訪れると病気が治るという“聖者の家”近くのお店で食べた昼食は、アラブ風パンに野菜やツナ、イワシ缶詰などを挟んだ、シンプルでとても美味しいサンドウィッチでした。モロッコはパンも旨いのです。

歩きはじめのクルミ林
歩きはじめのクルミ林
広い河原を歩きます
広い河原を歩きます


食後もなだらかな登りが続きます。点在するオレンジジュースやアンモナイトを売る屋台を冷やかしながら、徐々に高度を上げていきます。標高3,000mを過ぎると緑はほとんどなくなり、目を見張るような岩壁が聳える光景は、日本の穂高や剱岳あたりを連想させます。

山中の3,200m付近には、フランス山岳協会の出資により改装された「ツブカル小屋」と、総工費に1,000万円かかったらしい大きな「ムフロン小屋」という、石造りの立派なロッジが2軒並んで建っていますが、いずれも設備はヨーロッパ風の“グローバルクラス”。日本の山小屋に慣れた私達にとっては大変快適に利用できます。一応、有料貸し出しの毛布もあるようですが、寝袋は日本から持参した方が安心でしょう。ベッドにはフカフカのマットレスが備え付けてあるので、銀マット等の敷物は不要です。滞在中の食事は、北アフリカらしい世界最小のパスタ・クスクスや、少ない水で調理できる鍋料理・タジンなど、美味しくて温かいモロッコ料理をコックさんが用意してくれます。トイレはもちろん水洗で、洋式とモロッコ式が数カ所にあります。シャワールームもあるのですが、高度障害への影響が考えられることと、熱いお湯が出ないことがあるので、こちらは避けておいたほうが無難でしょう。また、夜になるとモロッコのランプが良い雰囲気を醸し出しますが、残念ながら高所でのアルコール摂取は厳禁ですので、現地スタッフが作ってくれるモロカンウイスキー(ミントティー)をガブ飲みして堪える事になります。[歩行 約7時間]


荷物を運ぶラバ

ムフロン小屋

部屋の様子


【DAY2】ツブカル山中(3,200m)→山頂(4,176m)→ツブカル山中

アタック日。気温はおよそ同時期の日本アルプスか、それより少し暖かい程度でしょうか。私が訪れた9月中旬では、インナー+長袖シャツ+フリース、それに薄手の帽子と手袋といった格好で小屋を出発しました。稜線上は風が強いことも多いので、晴天でもウインドブレーカーを兼ねたレインウェアや防寒具が必要です。また、暗いうちから準備をしますので、両手が空くヘッドランプも必携です。不要な荷物はロッジにデポし、眠い目をこすりながら標高差約1,000mの道のりを歩きます。本日のルートはラバも歩かない純粋な登山道ですが、昨日同様、極端に息を切らす急登や手を使うような難所はなく、比較的歩きやすいガレ場をジグザグと登高していきます(5~6月はアイゼンを使用する場合もあります)。高所トレッキングでは、とにかくのんびり歩くことが成功の秘訣。ギリシア神話の「アトラス」が岩になり、天を支えているとも伝わる大きな山脈の展望を楽しみつつ、深呼吸や小休憩を挟みながら蝸牛の歩みを続けます。

春には残雪がある斜面
春には残雪がある斜面
大岩がゴロゴロのガレ場
大岩がゴロゴロのガレ場


薄い空気と闘いながら、氷河地形・カールのような広いガレ場を詰める事約3時間、主稜線手前の岩場まで到達すると、やっとここからツブカル山の山頂が顔を出します。目的地が見えると気分が高揚してしまい、気をつけなければならないと分かっていながらも、自然と歩くペースが早くなってしまうものです。しかし、ここまで来たらあと少し。焦る気を抑え、進路を北東に変えた尾根を更に1時間ほど歩けば、ついに三角のモニュメントが目印のツブカル山(4,165m)に登頂です! 頂上からは、登山口のイムリル村をはじめ、町並みが広がるマラケシュ近郊や、広大なサハラの入り口、そしてずっと先まで連なるオートアトラス(高)、モワイヤンアトラス(中)、アンチアトラス(低)の峰々など、まさに360度の雄大な景色を望めます。早朝出発で時間に余裕がありますので、気象条件さえ許せばゆっくり堪能する事ができるでしょう。

アトラス山脈の展望
アトラス山脈の展望
はるか遠くに町並みも見えます
はるか遠くに町並みも見えます


標高の高い山では「あの苦労は一体何だったの!」と思うほど、下りは楽に感じられるものですが、ここは慌てず騒がず慎重に歩くことを心がけましょう。ロッジに戻ったら、達成感と余韻に浸る贅沢な午後が待っています。[歩行 約6時間]

【DAY3】ツブカル山中(3,200m)→イムリル村(1,740m)→マラケシュ

復路は同じ道を下山します。さすがに往路では躊躇した、露天で売っている水晶やアンモナイトをお土産に求めても良いでしょう。すれ違うトレッカーに、各国の言葉で挨拶を交わすのも楽しいものです。名残惜しくも登山スタッフとイムリル村でお別れをし、一路マラケシュへ戻ります。[歩行 約4時間]


オレンジジュースの屋台

お土産のアクセサリー

ラバにお礼をしてお別れです

アトラス山脈の最高峰に登頂!というと、大変厳しい登山のようなイメージを持たれる方も多いかもしれません。しかし、登山道や山中の宿泊施設が整備されており、比較的高度順応もしやすい日程のため、顕著なピークとしては、世界的に見ても容易に登頂可能な4,000m峰の一つといって過言ではないでしょう。モロッコに支店を持つ風の旅行社の強力な日本語ガイドや、イムリル村の登山スタッフ、悲しげな目で荷物を運んでくれるラバ達のサポートと共に、ぜひ気軽に挑戦していただきたい世界の名峰です。