小川 康のヒマラヤの宝探し

第236回 シントウ ~神道~


塩田水上神社塩田水上神社

チベット人から「オガワは仏教徒か?」と尋ねられると、当初はなんとなく「無宗教」と答えていたものだった。しかし「無宗教」は海外では誤解を招くとともに、その誤解を解消するためには多大な解説を必要とする。そこであるときから「シントウ(神道)」と答えることが多くなった。シントウは(僕にとっては意外だったのだが)日本独自の宗教として海外にその名が知られている。 (more…)

第235回 ドクダミ ~薬草ブーム~


ドクダミドクダミ

薬草茶といえばドクダミ茶を連想する人が多いかもしれない。しかし、戦前までドクダミは主に湿布薬として利用されてはいたが、お茶としてはそれほどポピュラーだったわけではないというと意外に思われるだろうか。今回はドクダミを題材として戦後の薬草ブームの歴史を振り返ってみたい。 (more…)

第234回 ジンセン ~朝鮮人参~


人参を探す参加者人参を探す参加者

森のなかで下見をしていると竹節人参(チクセツニンジン)を10株ほど見つけた。3年ものだろうか。竹節人参は朝鮮人参と地上部がほとんど同じだが、根っこは竹の根のように節があることから竹節と呼ばれる。昔から解熱や鎮咳の薬として珍重され単価は朝鮮人参よりも高い。「一キロあたり5000円もする竹節人参をこの森のなかで探して見つけてもらいます。ただし見つけても声は出さないで私に目で合図を送ってください。発見したら合格です。」と薬草ワークショップの参加者12名に告げると、各自、森のなかに散ってもらった。 (more…)

第233回 ニンポ ~蘭引・ランビキ~ 


実験中実験中

江戸時代に作られた陶磁器の蒸留装置、それが蘭引(ランビキ)である。オランダ(蘭)から学んだから蘭引。もしくはアラビック(アラビアの)を語源としてランビキになったなど語源には諸説ある。三段構造になっていて、下段に薬草を入れて煮る。最上段には冷たい水を流し、中段の天井にあたった蒸気は冷やされて流れ落ち、受け皿に集められる仕組みである。江戸時代には蒸留酒や植物精油を製造するために使用されていた。現代では貴重なレプリカがいくつか製造され上田市の薬草園にも一つ展示されている。それを見ながら僕が「使ってみたいですね」と下心なく呟いたところ「じゃあ使ってみなさい。道具は使われてこそ価値がでるものですから」と責任者A先生は迷うことなくガラスケースを開けて僕に手渡した。「えッ……」と戸惑う僕。「もし、壊したら……」と意外と保守的な僕に「そのとき考えればいいじゃない」とA先生はどこまでも大胆である。 (more…)

第232回 タマ ~煙草~ 


タバコタバコ

鈍行列車に揺られながら1時間以上に渡って熟考していた。小学校の「ジュニア・サイエンス」の講師として招かれたのだが、下車駅が近づいても話す内容が浮かばない。お題目は「くすり」。おそらく一般的な薬には興味がないであろう小学校6年生を相手に90分(2コマ)、いったいなにを話せというのか。最近はすっかり講演慣れした感があった僕だが、久しぶりに焦りを感じていた。そうして熟考したまま小学校に着いてしまい、とりあえず校長室へ通された。「あのー、ちなみにこの授業枠で前回はどんな話しでしたか?」という僕の苦し紛れの質問に校長先生は「保健所の先生がきて、映像を使いながらタバコの害を教えてくれました」と答えてくれた。この瞬間Mr.アマノジャク(天の邪鬼)が僕の内部から起きあがった。「ちょっとすいません」と校長室を抜け出すと、近所のコンビニへダッシュしたのである。 (more…)

第231回 カンセン ~雪獅子~


雪景色 妙高高原駅の近くにて撮影雪景色 妙高高原駅の近くにて撮影

雪国ではひと冬のあいだに一度か、運が良ければ二度、積もった雪の表面がカチンコチンに固まる朝がある。するとどこでもどこまでも歩いて行ける解放感に身体がウズウズしはじめる。小さい頃、その現象を富山県高岡では「すんずら」、もしくはそのまま「かた雪」と呼んでいたが、日本語としては「凍み渡り(しみわたり)」が一般的な呼称のようだ。それは雪国の冬には滅多にない晴天の朝、放射冷却現象の朝に訪れる。 (more…)

第230回 ディ ~刃を研ぐ~ 


tibet_ogawa230_4薬房の看板

田舎のおじいちゃんはかっこいい。なかでも望月(現・佐久市)の農場(第43話)のおじいちゃんは最高にかっこ良かった。昭和三年生まれ。最年少飛行兵として14歳で入隊。「富山の出身です」と自己紹介すると「広島で新型爆弾が投下されたと無線で知ったのが、ちょうど富山の上空を飛んでいるときだったなあ」と述懐してくれた。戦後、実家の望月に戻り農業をはじめた。当時はまだ珍しかったトラックを先駆けて購入し、大根を積んで築地の市場まで往復したという。頻繁にトラックが故障するのだが、その度に自分で修理をしていたと楽しそうに語ってくれた。おじいちゃんは猟師で、畑の周りで悪さをする鹿を自ら撃っていた。鹿避けのために、畑の周りには仕留めた鹿の頭がたくさんぶらさげてあったのだが、 (more…)

第229回 チャムバ ~風邪薬~


tibet_ogawa229_3伝統薬

 珍しく風邪をひいた。これは貴重な機会とばかりに薬房で取り扱っている風邪薬を試そうと思い立った。その薬とは「橋本七度煎(ひちどせん)」。愛知県の知多半島に伝わる名薬である。七度煎はその名のとおり七回も煎じて服用する。薬問屋さんから「きっと小川さん好みですよ」と勧められて取り扱っていたのだが、あいにく試す機会がなく、お客さんから先に「風邪にすごく効きましたよ」と教えられていた。そして11月10日いよいよ試すチャンスが訪れたのである。 (more…)

第228回 メンジョル ~医師と薬~


tibet_ogawa228_11974年に完成した当時のメンツィカン校舎

 
 ナムゲル・ツェリン先生の授業が僕は好きだった。一語、一語、確かめるようにゆっくりと語ってくれるので、外国人の僕にはとても聞き取りやすかったことが一つ目の理由。もう一つ、1979~2001年まで22年間にわたってメンツィカン製薬工場で指揮をとっていたことから、他のどの先生よりも製薬(チベット語でメンジョル)に関して造詣が深かったことがある。そんな先生は患者を治療した体験談のあとには「おっと、みんな勘違いしないでくれよ。いまのは、私が医者として凄いという自慢話では決してないからな。医者が凄いのではない。いつだって患者を治すのは薬なんだ。薬が素晴らしいのだ」と慌てて付け足していたものだった。少しムキになりながら語る先生のこの台詞が僕は大好きだった。 (more…)

第227回 カラ ~チャイと砂糖~


チャイの屋台チャイの屋台

インド人同士の大乱闘に遭遇したことがある。遠巻きの群衆のなかにチベット人を見つけると「なにが原因ですか」と尋ねた。すると意外な答えが返ってきた。「チャイの砂糖の量が少ないとかで、チャイ屋の店主と客が喧嘩になったようだ」。 (more…)