添乗報告記●ブータンの薬草を見る、聞く、探す8日間(2011年9月)

小川さんの解説を聞きながら歩く
小川さんの解説を聞きながら歩く

2011年9月18日~9月25日
文・写真●田中 真紀子(東京本社)

いきなりですが、弊社のブータン・ツアーは大きく分けると2タイプあります。

  1. 定番のシリーズ・ツアー(2名様から、毎日発設定。パンフレット『風のブータン』をご覧ください)
  2. 特別企画ツアー(特別ガイドや講師同行、時季もの。ぺらパンフレットを随時発表しています)

今回私が同行したのはブータンへの「講師同行の特別企画ツアー」。講師は、弊社WEBにて連載「ヒマラヤの宝探し」を執筆いただいているアムチ(チベット伝統医)の小川康さん。薬草のエキスパートである小川さんが同行されたたいとる当ツアーは、その名も「ブータンの薬草を見る、聞く、探す8日間」。
今回のツアーの2本柱は、ハイキングなどを通じて「薬草王国」と呼ばれるブータンの植物にふれること、ブータンの医療現場を見学することにありました。テーマ性のある企画だったためか参加者の顔ぶれもユニークで楽しい道中となりました。


ハイキング=薬草観察会

ブータンには都市部から少し離れたところに今でもたくさんのハイキングやトレッキング・ルートがあります。そしてブータンの緑あふれる山中は草花の宝庫なのです。
コースについて詳しくは「巡礼路と生活路を歩く ハイキングで巡る西ブータン」をご覧いただくとして(笑)、ここでは各地で見られた花々の中から厳選してご紹介します。
(↓各地写真をクリックすると移動します)

トレッキングの終点、ワンデツェ・ラカン
サンゲガン・ハイク
ハイクの終点(折り返し地点)にあるワンデツェ・ラカン
タンゴ僧院
タンゴ僧院
チェレラ峠
チェレラ峠
タクツァン僧院
タクツァン僧院


サンゲガン・ハイキングにて

松林の中を歩くサンゲガン・ハイキングは終点で折り返し地点のワンデツェ・ラカンまで片道徒歩1時間強程。平坦な道なのでブータン到着初日でも気軽に散策できます。

デルフィニウム
デルフィニウム
ハナイカリ
ハナイカリ
こんな花も。
こんな花もありました


タンゴ僧院ハイキングにて

12世紀に創建され、現在は高等仏教学校でもある寺院へは駐車場から片道約1.5時間。往路はひたすら上り、復路はその逆だが、勾配はそれほどきつくありません。タンは馬、ゴは頭、の意。僧院の裏にある岩場からこの名がつきました。現在も高僧テンジン・ラプケなど活仏も現在修行を続けられている場所でもあります。

トリカブト
トリカブト
トリカブト
ツリフネソウ
アカネ
アカネ


チェレラ峠にて

パロとハの間にある3,800mの峠。天気がよければジョモラリ峰を遠望できる。標高が高いため、高山植物が多く見られます。

パンゲンナクポ
リンドウの仲間
チベット名:パンゲン・ナクポ
エーデルワイス
エーデルワイス
こんな花も
ムカゴトラノオ


タクツァン僧院にて

ブータン随一の聖地。片道徒歩約2時間。僧院に近づくと良い気が巡っているのか体が軽くなったと感じる人も(個人差あり)。私達が訪れた日は「恵みの雨の日」だったため、ブータン人の巡礼者もたくさんお参りにきていました。

タワ
ウスユキソウ
チベット名:タワ。
茎はもぐさの原料になる
こんな花も3
こんな花もありました
きのこ
キノコもたくさん見られた


またブータンでは植物以外でも動物・鳥の固有種もたくさんあります。
今回、出会った動物・昆虫をご紹介します。


西ブータンに生息するグレー・ラングール
西ブータンに生息する
グレー・ラングール
国獣ターキン
国獣ターキン
羽が輝いていた蝶
羽が青く輝いていた蝶



ブータンの医療現場

伝統医療院の薬学タンカ
伝統医療院の
オリジナル薬学タンカ
今回ブータンのティンプーにある西洋病院と伝統医療院「ナンピメンカン」、2つの病院を訪れました。訪問で特に印象的だったのは、伝統医療院で医師(ドゥンツォ)がとにかく問診に時間をかけ、患者の症状だけでなく、生活習慣、食生活、なども詳しく聞く様子でした。その上で脈診をし、人によっては「土いじりしないように」、「腎臓が弱っているから、卵、じゃがいも、かぼちゃは食べないように」とか「あなたは生物を食べないように。野菜も、魚もね。」など、その人にあったアドバイスをし、薬を処方していきます。診察室に迎えいれてくれた医師が「どうぞリラックスしてください。あなたの役に立つために僕はここにいるのだから遠慮しないで。…患者とコミュニケーションを取ることが一番大事なのですよ。」と語っている姿勢がとても印象的でした。

脈診の様子
脈診の様子

また西洋病院のお医者様に「患者さんにナンピメンカンへ行くように薦めることはありますか?」と質問したところ、「必ずします」と即答されたのも非常に心に残りました。西洋医学、伝統医学、どちらだけでいいということはない、共存し、お互い足りない部分は補足しあっている。患者はそのつど自分に合う方を選べばいい…。そんな風にいずれの医師も語り、ナンピメンカンの副委員長もお互いに数ヶ月に一度は打ち合わせをし、西洋病院と伝統医療院で連携を取るようにしています、と話してくださいました。
今回は参加者の中にも、薬剤師や病院経営されている方などもいらっしゃり、ご自身の専門分野やそこからくるご興味についての質問もそれぞれの場でされ、Q&Aコーナーは熱気のあるものとなりました。

伝統医療院「ナンピメンカン」
伝統医療院「ナンピメンカン」
西洋病院
第3代国王の名を冠した
ブータン最大の西洋病院


道端に咲く花も実は薬草かもしれない

解説中の小川さん
解説中の小川さん
ブータン最終日の朝、有志の希望者を募って、ホテルの周りで小川さんに薬草観察会を開いていただきました。表通りからホテルまでのたった100m 程の道端に咲く草花も、小川さんの手にかかると「これはスイカズラです。花弁は口内炎にきくといわれています。薬学では1-Bに分類されているので一般の人でも使えます。市販薬に使われるのは1-Aに分類されるものです。」など薬、アムチになったインド・ダラムサラ、昔の勤めていた仕事の話、などいろいろな話へとつながっていきます。

 
知らずに歩けば数分で歩けてしまう道の終わりに私たちが辿り着いたのは約30分後。それ位、多くの花に名があり、効用があり、物語があることに驚き、感心させられました。人々の生活の近くにこれ程多くの薬草が息吹いていること。これぞ薬草王国と呼ばれるにふさわしいな、と今回同行した中で一番の静かな感動がありました。

黄色の方が蜜が甘かった
スイカズラ
黄色い方が蜜が甘かった
時計草
時計草
収穫前のパロの田んぼ
収穫前のパロの田んぼ

朝の散策でみつけた四葉のクローバー
朝の散策でみつけた四葉のクローバー。「いいことありますように!」と参加者の方々と写真を撮りました

薬草は特別なものではなく、人々の生活のすぐ近くあり、そしてそこに生きる人々の知恵が草花を「薬草」たらしめているのだと実感できた旅でした。テーマのある旅や新たな視点を提案してくれる専門家同行の旅は、遊びながら学び、学びながら楽しめる、一旅で二度おいしい体験ができることでしょう。


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→ 小川康の「ヒマラヤの宝探し」