添乗報告記●西ブータン三都周遊とパロの民家でホームステイ7日間(2012年4月)

2012年4月29日~5月5日 文●中台 雅子(東京本社)

ティンプーの時計広場で出会った学生たち
ティンプーの時計広場で出会った学生たち

ゴールデンウィークに「西ブータン三都周遊とパロの民家でホームステイ7日間」ツアーへ添乗員として同行してきました。普段は東京本社で企画・販売の仕事に携わっていますが、現場でお客様と一緒に旅という特別な時間を共有することができる添乗の仕事はとてもやりがいを感じます。また、私は東京本社に入社前、南米ペルーで旅行手配や通訳ガイドの仕事に携わっていた経験から、添乗に出ると、国ごとに千差万別な旅の楽しみ方を発見したり、ガイドの個性や仕事ぶりについつい目がいってしまいます。今回のブータンツアー報告記はそんな視点を交えながらブータンの魅力についてレポートしたいと思います。


ブータン流ハイキングの楽しみ方

チミ・ラカンへハイキング
のどかな農村の畦道を歩いて「チミ・ラカン」を目指します

ハイキングというと、「自然の景色や植物観察しながら歩く」という楽しみ方が一般的なイメージではないでしょうか。ですが、ブータンのハイキングはちょっと趣が異なります。
プナカ郊外にあるロペサ村のお寺「チミ・ラカン」を目指してハイキングを楽しみます。歩いていると、伝統衣装のゴやキラで正装したブータン人とたくさんすれ違います。子供連れの家族だったり、友人同士だったり、皆、楽しそうにお喋りをしながらお寺への道を往来していきます。今ブータンで流行りの「韓流スタイル」の髪型できめこんだ若者を発見! 思わず声をかけ「写真撮ってもいい?」と尋ねると、恥かしそうに笑顔で「いいよ」とポーズをきめてくれました。

参拝に向かう女性たち
伝統衣装「キラ(女性用)」を着たブータン美人
仲の良い友達同士でお寺へ参拝
韓流スタイルの若者
韓流スタイルの髪型できめこんだ若者
ちょっと照れながら「ハイポーズ!」

「かっこよく撮れたよ~」と写真を見せると
はにかみ笑顔で答えてくれました

日本では、お祈りのためにお寺を参拝するのは年に一度、大晦日くらいかもしれませんね。ですが、仏教の教えが生活に根付いているブータンでは、お寺への参拝が日常的に行われています。老若男女、韓流スタイルできめこんだ若者まで、お寺参りに勤しむ姿はなんともブータンらしい光景です。チミ・ラカンに到着すると、マニ車(回すと経文を読むことと同じ功徳が得られる仏具)を回す人や、仏壇の前で手を合わせる人、子供から大人まで一心に祈るブータン人の姿を目にします。お寺を目指して歩くブータンのハイキングでは、仏教の教えが基盤にある「ブータンの日常」が見えてくるところが面白いのです。


ホームステイ体験で触れるブータンの暮らし

ツェリン家外観
ブータン伝統様式の建築が趣のある
ツェリンさん宅でホームステイ

民家でのホームステイ体験も、ブータンの魅力をより体感できる楽しみ方と言えるでしょう。
今回のツアーでは、のどかな農村風景が広がるパロ郊外の一軒家、築約100年というブータンの伝統建築が美しいツェリンさん宅に2泊ホームステイをしました。お母さんのツェリンさんが、レストランでは味わえない手作りの家庭料理でもてなしてくれます。お父さんのクンガさんも交えて美味しい手料理を一緒に頂きました。ブータン料理の代表格、唐辛子のチーズ煮「エマダツィ」が食卓に並ぶと、お父さんが「右手でご飯を少し取って握ってから、こうやってエマダツィと一緒に食べるんだよ」と、ブータン式食べ方を私たちに伝授してくれました。伝統的なブータンの石焼風呂を体験したり、歌や踊りを交えての村人との交流を楽しんだり、ホームステイでは触れ合いを通して素顔のブータンが見えてきます。

ブータンへ行こう!と旅行を決められた方の多くは、「○○が見たい、○○を訪れたい」という世界遺産のような観光名所を訪れる旅よりも、幸せの国といわれる所以のブータンという国そのものや、ブータン人の暮らしや文化に興味を持たれる方が多いのではないでしょうか。そんなブータンの素顔の魅力に触れるには、日常の暮らしが垣間見られる「ハイキング」や「ホームステイ」が打ってつけだなぁと、ブータン人との交流を楽しんでいらっしゃるお客様の様子を見てしみじみと感じました。

お父さんに食べ方を教えてもらいます
お父さん(右)に教わりながら ブータン式食べ方に挑戦!
夜は村人との交流会
夜は村の女性たちも加わり、みんなで歌って踊って
盛り上がります!


ベテランガイド シンゲ・ナムゲル同行ツアー

今回のツアーには、ベテランガイド、シンゲ・ナムゲルが同行しました。日本に7年住んでいた経験から日本語だけでなく、日本人的感覚や日本の文化もよく理解しているので、仏教の説明だけでなくブータンの文化について話をする時も、日本とうまく比較しながら説明してくれるので、「なるほど」「そうなんだ」と分かりやすく理解することができます。
たとえば、「平均寿命は何歳ですか?」「ブータン人は自動車保険に入りますか?」「税金はどれくらいですか?」などなどブータンの国や暮らしに興味があるお客様からは多岐に渡る質問が飛び交いますが、「日本ではこうですが、ブータンではこうですよ」と切り返しができるのは、さすがです!

ブータンではお国柄から日本のように全てが秩序だって予定通りに進まないこともあります。そんな中、日程調整をうまく切り盛りし対応する能力がガイドに求められてきます。今回のツアーも例にもれず、やむを得ずスケジュールを変更するハプニングがあったのですが……そこはベテランガイドのシンゲ、お客様の要望にも出来る限り応えられるよう時間調整をうまくこなしコーディネートしていきます。

私はペルーで働いていた頃から今までに沢山のガイドに会ってきましたが、「ベテラン」の域に達するガイドは時に慢心な態度になっていくことがあります。ですが、シンゲにはそんな素振りがまったくありません。「せっかくブータンに来てくださったのだから、お客様には出来る限り楽しんでもらいたいです」と言い、ツアー中、忙しく動き回るシンゲの姿を見ていると、日本の文化を尊重し、ブータンを誇りに思う心意気が伝わってくるようでした。

プナカ・ゾンにてシンゲ・ナムゲル(右)と筆者
プナカ・ゾンにてシンゲ・ナムゲル(右)と筆者
気配りがさりげない
ホームステイ先にてバター茶を注ぐシンゲ
さりげない気配り上手


ブータン時間で過ごす ゆったり旅

道路工事現場
道路工事の現場を通過

前章でスケジュール変更について少し触れましたが、実は日程2日目の午前中、飛行機でパロに到着後、その足でプナカ・ゾンを訪れる予定だったのですが、道中の道路工事による交通規制のため、この日の訪問を翌日に延期することになりました。ですが、このハプニングが思いもよらない幸運をもたらしてくれたのです!
翌日、プナカ・ゾンでは、ブータン建国に功績を残したシャプドゥンの命日で法要が行われる日だったのです。法要の儀式が行われる会場は、大勢のブータン人で埋め尽くされ熱気で溢れます。経を唱え、五体投地を行うブータン人の「祈り」の姿にツアーの皆さんも圧倒され、ブータン人とその空間を共有できたことに興奮気味でした。

翌日に訪れることになったプナカ・ゾン
翌日に訪れることになったプナカ・ゾン
法要に合わせタンカがご開帳
法要に合わせシャプドゥンのトンドル(仏画)がご開帳
法要の会場でも交流
ブータン人と一緒に儀式に参加
人との交流がやっぱり思い出になります

若い女性たちも熱心にお経を唱えます

そして更に喜びのハプニングが! 法要に参加するため、現国王と王妃がプナカ・ゾンにいらっしゃったのです。私たちは幸運にも参拝に来られたお二人の姿を目にすることができました。(国王夫妻の写真撮影は禁止されているのでその様子をお見せできないのは残念です……)

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ブータン時間でゆっくり旅をすれば
もっとブータンの素顔が見えてくるかも?!

時間に追われる日本の生活では、物事が予定通りに進まないと、つい腹を立ててしまうことがあります。しかし、多くのブータン人はこんなとき「しょうがない」と状況を受け入れます。それは、人間ができることには限界があり、人間より大きな力の存在を認める仏教的考え方から来ているようです。予定とは違う状況に対しても、ブータン人のように受け入れてみると、意外にも今回のツアーのような嬉しいハプニングに遭遇することがあるかもしれませんね?!ブータン的時間の流れの中に身を委ね、ゆったりと旅を楽しむ。これもブータンの旅を楽しむヒントになるでしょう。