ブータンの国策「GNH(国民総幸福量)」とは? 旅先で触れるその魅力

ブータンの「GNH(国民総幸福量)」とは?

ブータンの女の子たち(ハートマーク)

ブータンの女の子たち(ハートマーク)

近年、ウェルビーイング(精神的な豊かさ)への関心が高まる中、世界中から注目を集める国「ブータン」。ブータンは経済的な豊かさを競う国際社会の中で、独自の国家指標「GNH(Gross National Happiness=国民総幸福量)」を掲げ、国造りを進めています。「お金やモノの豊かさ」だけではない、ブータンが大切にする「本当の幸せ」の仕組みを紐解いてみましょう。

※以下の情報は、ブータン政府の直属機関である「ブータン研究所 (The Centre for Bhutan Studies & GNH Research = CBS)」により発表されているブータン公式のデータを参考にしています。

GNHと、GDP・GNI・GNPの違いとは?

ウラ・ラカンの門前で出会った手作りおもちゃを手にしたこど[caption id=

ウラ・ラカンの門前で出会った手作りおもちゃを手にしたこどもたち(ブムタン)

国際的に、国の豊かさを測る指標としては以下のような「経済指標」が一般的です。どれも国や国民の生活を「金額(お金)」に換算して評価するものです。

  • GDP(国内総生産): 国内で生み出されたモノやサービスの付加価値
  • GNI(国民総所得): 国民が国内外から得た所得の合計
  • GNP(国民総生産): 国民が国内外で生産した付加価値の合計

これに対し、1970年代からジクメ・センゲ・ワンチュク第4代ブータン国王によって提唱され、2008年の憲法にも明記されたのが「GNH(国民総幸福量)」です。

ブータン政府は「経済的な発展は手段に過ぎず、究極の目的は国民一人ひとりの幸福を最大化することである」と考え、国際社会の物差しとは異なる「精神的な豊かさ」を優先することを国の基本方針としています。
現在、ブータン政府は王政から立憲君主制に移行していますが、政府のすべての政策はGNHに基づいたものでは無ければならないとされていて、常に首相直属のGNH委員会によってチェックを受けています。また、5年に1度、国民に聞き取り調査を行っています。調査の結果、国民は幸福度に応じて「深く幸せ」「広く幸せ」「まずまず幸せ」「不幸せ」の4グループに分類され、特に「不幸せ」と判定された層を減らすための政策が集中的に打たれています。これは現在も持続されている、ブータンならではの先進的な取り組みです。

4つの柱と9つの領域から見るブータンの幸せ

ブータンのGNH(国民総幸福量)の理念は、「4つの柱」「9つの領域」で構成されています。
4つの柱とは、国造りの大きな方針であり、9つの領域において具体的に実現されるものだとされています。

4つの柱

1.持続可能な開発の促進(promotion of sustainable development)
2.自然環境の保全(conservation of the natural environment)
3.文化的価値の保存と促進(preservation and promotion of cultural values)
4.良い統治(ガバナンス)の確立(establishment of good governance)

9つの領域

1.「教育」(Education)、2.「生活水準」(Living Standard)、3.「健康」(Health)、4.「心理的幸福」(Psychological Well-being)、5.「コミュニティの活力」(Community Vitality)、6.「文化の多様性・弾力性」(Cultural Diversity & Resilience)、7.「時間の使い方」(Time-Use)、8.「良い統治」(Good Governance)、9.「生物学的多様性・弾力性」(Ecological Diversity & Resilience)

ここまで読んで、「少し難しい政治のお話かな?」 と思われるかもしれませんが、実はこれらはすべて、ブータンの人々が日常で大切にしている暮らしのルールや、私たちが旅行中に目にする風景そのものなのです

行ってみなくちゃわからない! 「暮らしに息づくGNH」

実際に、GNHの考え方がブータンの旅の中でどのように息づいているのか、「4つの柱」と「9つの領域」と関連付けて、現地の具体的な光景とともにわかりやすくご紹介します。

1. 持続可能な開発の促進

単に経済成長だけを追い求めるのではなく、環境保全や社会の公平性、文化の継承を大切にしながら、将来の世代にも配慮した豊かさをバランスよく高めていくことが重要だという考え方です。

  • 教育費(公教育)の無償化(教育):子供たち、学生たちとの交流
    ブータンではすべての公教育は無料。ゾンカ語(ブータンの公用語)以外の授業は英語で行われているので、町ゆく人も、店員さんも、皆さん英語が達者です。子供たちが元気に英語で話しかけてくることも珍しくありません。朝、お揃いの民族衣装(ゴやキラ)の制服を着て、元気に学校へ通う子供たちの姿をあちこちで見かけます。また、お祭り会場などでは晴れ着を着た子供たちや学生も大勢やってきます。
  • そうじ中だけど撮って~(ブータンの小学生)

    そうじ中だけど撮って~(ブータンの小学生)

  • 豊かな農村生活:市場や農村を訪ねて(生活水準)
    ブータンには大規模なショッピングモールや海外のブランドショップはありません。しかし、市場(カジャ・トム)に行けば、地元の農家が大切に育てた新鮮な野菜や果物がにぎやかに並び、人々が笑顔で買い物を楽しむ心豊かな日常に出会えます。ブータンでは日照量も多く水資源も豊富なので野菜がとてもおいしい! しかも、野菜のオーガニック化、無農薬化を目指していているのでとてもヘルシーです。また、政府の援助や助け合いの精神が生きていて、街中を歩いていても物乞いの姿を見ることはありません。
  • ブータンの野菜は個性が強い(おいしい)

    ブータンの野菜は個性が強い(おいしい)

  • 医療費の無償化、伝統医学の保護(健康):
    ブータンでは国籍を問わず医療費が無料です。また近代的な西洋医学の病院だけでなく、伝統医学の病院も大切にされています。自然のハーブや薬草を用いた伝統的な癒やしの知恵が、今も人々の健康を支えています。また、伝統薬の主な原料はブータンに自生する植物で、チベット文化圏では「薬草の国(メンジョン)」と呼ばれるほど植生が豊かです。薬草入りの石焼風呂(ドツォ)は身体が芯から温まります。
  • 脈診をする伝統医アムチ(ブータン)

    脈診をする伝統医アムチ(ブータン)

関連記事

2. 自然環境の保全

ブータン憲法には「国土の60%以上を森林として維持する」と定められています(現在はなんと70%以上!)。自然を破壊して経済利益を追うのではなく、自然とともに生きる姿勢が徹底されています。

森林浴をしながらハイキングを楽しめるのもブータンの魅力のひとつ

森林浴をしながらハイキングを楽しめるのもブータンの魅力のひとつ

  • トンネルも信号もない国(生物学的多様性・弾力性):
    ブータンの国土は多くの山と谷で形成されていて、日本であればトンネルを掘ってしまうような場所でも、谷に沿ってクネクネと道路が続いています。ブータンの宗教観では山は神や精霊がやどる神聖な場所であり、また環境への負荷を考えてトンネルを作らないのです。またブータンには全く信号がありません。ここでも経済効率より環境負荷や人々の信仰心が優先されています。車窓から見えるのは、見渡す限りの深い緑と澄み渡る青空。そして、排気ガスの少ない清らかな空気です。冬には越冬のために飛来する希少なオグロヅルで有名なポブジカは、村の電化が遅れることを承知の上で送電線を地下化したというエピソードでも有名です。

冬になるとオグロヅルがやってくるポブジカの集落

冬になるとオグロヅルがやってくるポブジカの集落



関連記事

3. 文化の保存と推進

急激な近代化の中で自分たちのアイデンティティを見失わないよう、独自の伝統文化や習慣、精神性をとても大切にしています。

  • 民族衣装の着用と伝統的な街並み(文化の多様性・弾力性):
    ブータンでは、民族衣装の「ゴ(男性用)」「キラ(女性用)」は正装とされ、常日頃から着ることが奨励されています。公務員や学生、エアラインのCAさんの制服としても採用されていますし、外国人を案内するガイドやドライバーにも着用が義務付けられています。お祭りともなれば一張羅の民族衣装を身にまとった着道楽たちが会場でファッションショーさながらに会場を闊歩します。また、一般の家屋だけでなく、街の商店などの建物も伝統的な建築様式を守った装飾が施されており、街全体が温かみのあるレトロな美しさに包まれています。
  • ポブジカのホームステイ先ホストファミリー

    ポブジカのホームステイ先ホストファミリー

  • のんびりした日常風景【時間の使い方】:
    夕暮れ時になると、広場や道端で家族や友人と集まり、穏やかにおしゃべりを楽しむ人々の姿があります。「何もしない贅沢な時間」を慈しむ姿は、慌ただしい日常を送る私たちにハッと気づきを与えてくれます。


関連記事

4. 良い統治(ガバナンス)

国民の声を聴き、国民の幸せを第一に考えた国づくりを行うことです。ブータン国王が自ら足を運び、国民一人ひとりと対話する姿勢は世界中でも知られています。

  • 国王の写真(良い統治):
    ブータンの人々のお宅を訪ねると、リビングの一番良い場所に歴代の国王の写真が大切に飾られています。誰かに強制されたわけではなく、心から国王を敬愛し、国を信頼している温かい空気が伝わってきます。
  • ツェチュ ブータンのお祭(コミュニティの活力):
    ツェチュやドムチェなど地域のお祭の時には、村じゅうの人が集まり、一緒に踊り、お弁当を食べ分かち合います。困った時にはお互い様、という地域みんなで支え合う絆(きずな)が今も息づいています。
  • 祈りの空間(精神的健康・心理的幸福):
    ブータンの人々は、日々の暮らしの中で「生きとし生けるものすべてへの感謝」を忘れません。朝、マニ車(祈りの車)を回しながら静かにお祈りをするおじいさん・おばあさんの穏やかな表情に、寺院での法要の際に高僧の説法を聞きに集まった人々の表情に、私たちの心まで洗われるような気持ちになります。

ブムタンのジャンペラカンでの法要に集まった人たち

ブムタンのジャンペラカンでの法要に集まった人たち



関連記事

まとめ:ブータンの旅が教えてくれる、わたしたちの「新しい幸せ」

ブータンが提唱するGNH(国民総幸福量)は、決して遠い世界の難しい理論ではありません。現地で出会う人々の笑顔、ゆったりと流れる時間、豊かな自然、そして温かい文化そのものです。急速な近代化が進む世界の中で、ブータンもまた伝統と変化の狭間で模索を続けています。しかし、「何が本当の幸せなのか」を真剣に考え続けるその姿勢は、日々に追われる私たちにとっても大きなヒントを与えてくれます。

「自分にとっての幸せとは何だろう?」

そんな問いの答えを探しに、数値だけでは測れない「本当の幸福」を体感しに、風の旅行社と一緒にブータンへ出かけてみませんか?

ホームステイや民家訪問での温かいもてなしや、巡礼者との出会いの場で、あるいは日常のちょっとした瞬間に、ブータン人の「心の豊かさ」を感じ取れれば、ブータンの旅の印象はさらに深まることでしょう。
数値だけでは計れない、ブータンの人々の穏やかな笑顔と、本当の幸せのカタチを体感しに行きませんか?



風のブータン ブータンツアー一覧