5月22日、ウィーン最後の夜です。6泊を同じホテルで過ごしました。明日午前10時半にホテルを出て空港に向かい、オーストリア航空025便に乗れば、24日の朝には成田に到着します。
プライベートで海外旅行をするのは2007年以来です。お恥ずかしい話ですが、仕事や添乗では数え切れないほど海外に行っているのに、プライベートで旅を楽しむことはほとんどありませんでした。時間が取れないことを言い訳にしてきましたが、こうして旅に出ると、わくわくする気持ちや抑えようのない興奮、膨らむ期待感を改めて感じます。正直申し上げて、そうしたお客様の気持ちをすっかり忘れていたような気がしています。無理をしてでも旅をすべきでした。これからは積極的に海外へ旅に出ようと思っています。
今回は、音楽を聴くことを目的にした旅です。ウィーン国立歌劇場で『ばらの騎士』『ラインの黄金』『オネーギン』を3夜で3公演鑑賞し、加えてウィーン楽友協会でリッカルド・ムーティ指揮によるウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の定期公演を聴きました。曲目はハイドンの交響曲第102番、第103番、第104番。なんとも贅沢で夢のような時間でした。
平土間前方から7列目のセンター通路側の席。あのリッカルド・ムーティの背中が目の前で揺れていました。リッカルド・ムーティといえば、クラシック音楽にまだそれほど詳しくない私ですら、その圧倒的なオーラに魅了されるマエストロです。ツアーの参加者の方々に伺ったところ、オペラもさることながら、「楽友協会、ウィーン・フィル、リッカルド・ムーティ」の三つが揃う定期演奏会のチケットは争奪戦で、個人でネットから入手することは九分九厘不可能だそうです。まさにクラシック音楽好きの方にとっても、一生に一度手に入るかどうかという貴重なチケットだったと言えるでしょう。
私は、コロナ禍以前はオペラにもクラシック音楽にも縁遠い暮らしをしていました。2020年1月から突然始まったコロナ禍で、旅行の仕事がすべて止まり、私の会社も売上ゼロという状況に追い込まれました。社員には本業を休業させ、副業に従事して収入を確保することを最優先にしてもらいました。私自身は、会社を維持するための諸々の仕事で毎日会社に来ていました。それでも17時頃には帰宅する生活が続きましたので、有り余る時間を使って映画を観たり、本を読んだりして過ごしていました。
そんな中、私が塾長を務める一般社団法人旅行産業経営塾のOBであるAさんが、数人でオペラ鑑賞会「旅するオペラ」を始め、私も誘ってくれました。コロナ禍に何かこれだという形あるものを残したいと思っていましたので、喜んで参加しました。
その「旅するオペラ」は2023年7月から始まり、既に16回を数えています。鑑賞会の当日、午前中に2時間ほどAさんによる事前講義を受け、午後は初台のオペラハウスや上野の文化会館でオペラを聴いてきました。もちろん、ワインを飲みながらのアフターも楽しみでした。そして、「いつかは海外にオペラを聴きに行こう」を夢物語のように合言葉にしてきましたが、夢も語り続ければかなうもので、今回、「旅するオペラ」の生徒5名でAさん企画の「ウィーン音楽の旅8日間」に参加したというわけです。
私は、ウィーンには2016年以来、2度目の訪問です。そのときは、音楽よりもベルヴェデーレ宮殿や美術史美術館、レオポルト美術館で、レンブラント、ルーベンス、クリムト、エゴン・シーレなどの絵を観て感激していました。しかし、それとても当時は西洋絵画の素養もほとんどない状態でしたから、まさに「見ただけ」でした。しかし、コロナ禍の間に西洋絵画もかなり勉強しましたので、今回は「ああ、この絵だ」と一つ一つ感慨深く観ることができました。ベルヴェデーレ宮殿で一枚だけ展示されていたゴッホの絵を遠くから見つけた時には、「ここでゴッホに会えるとは!」と驚きました。しかも、晩年のオーヴェル時代に描かれた作品だとすぐに分かりました。
実は、他の旅行会社のツアーに参加したのはこれが初めてです。6泊8日のツアーで、到着翌日の半日市内観光とインペリアルホテルでの昼食に加え、2回のウィーン国立歌劇場でのオペラ鑑賞、楽友協会でのウィーン・フィル定期演奏会鑑賞、さらに各1時間ほどのウィーン国立歌劇場と楽友協会のバックヤードツアー(これはなかなか秀逸でした)が付いています。一方、それ以外はほぼフリーでした。それなりの価格帯でありながら、こんなにも自由時間が多く、食事も朝食以外は昼食1回しか含まれていないことに最初は驚きましたが、終わってみれば納得でした。
というのは、『ウィーン音楽鑑賞の旅8日間』の肝は、音楽鑑賞のチケットを平土間の良い席で確保できるAさんの会社の価値にあり、それに参加者はお金を払っているからです。その他は、オプションでワーグナーの『ラインの黄金』やヴェルディの『スティッフェリオ』などのオペラ、あるいはピアニスト・角野隼斗のコンサートも追加でき、美術史美術館やシェーンブルン宮殿の観光を加えることもできます。
今回のツアー参加者21名のうち、初めてウィーンに来られた方で、自分であれこれ手配したり移動したりすることが困難だったり面倒だったりする方はオプションを利用し、何度か訪れて慣れた方は、音楽以外はご自身で手配して過ごされていたようです。現に、私たち5人もフリーの時間には、自分たちでシシィ博物館やベルヴェデーレ宮殿などを手配し、評判のカフェやレストラン、今は博物館になっているベートーヴェンが暮らしていた家を訪ね、その近くのホイリゲ(ワイン酒場)にも行きました。
リピーターが多く、長年こうした音楽ツアーを作り続けてきた結果として、主たる音楽鑑賞はきちんと確保し、その他はフリーにしてオプションを選択できる形にしているのだろうと思います。添乗員のつかず離れずの距離感も見事で、公共交通機関が発達し、誰でも容易に利用できるウィーンという街を知り尽くしたうえで、そのインフラを上手に活用した旅に仕上げています。当然ですが音楽チケットのみの販売はしないでしょうし旅としてトータルで提供するところに高い付加価値が生まれていると思います。
一方、弊社が扱うモンゴル、ネパール、チベット、ブータン、キルギスなどへのツアーは、コンサートチケットを手に入れるような特別なノウハウは要りませんが、個人ではなかなか行き難い国・地域へ、ツアーにお申し込みいただきさえすれば簡単に行けるようにするという価値があります。しかし、これだけなら弊社以外にもこうした国・地域へのツアーを作っている旅行会社はありますし、値段も弊社よりかなり安いはずです。
弊社は、個人ではなかなか行き難い国・地域へ単にお連れするだけではありません。弊社で観光ガイドやトレッキングガイドを育成し、健診システムを導入して高所トレッキングでの高山病対策を講じています。また、乗馬用のヘルメットやベストを揃え、乗馬の方法について現地スタッフと協議しながら、弊社のスタッフが現地に赴いて研修を行い、弊社でしか体験できないアクティビティとして作り上げています。つまり、「風の○○ツアー」という完成されたブランド商品として提供しているのです。それだけに責任も重大だと考えています。
改めて、同じツアー作りでも、こんなにも作り方が違うものかと今回は痛感させられました。弊社には『ウィーン音楽鑑賞の旅8日間』は到底作れません。ただ、そのノウハウは弊社も同じですが、一朝一夕に築けるものではないはずです。まして、高い質を維持しながら継続することはさらに大変だと思います。その大変さを乗り越えてこそ、唯一無二のツアーが生まれるのだと思います。
以前から申し上げていますが、弊社は自社のことを「旅のメーカー」だと自負しています。テレビや車を買うように、弊社の商品・ツアーを買っていただきたいと思っています。そして、良い商品を作ることを、会社とスタッフ、そして現地スタッフの誇りとしてきました。今後もそうありたいと思っています。
機会がありましたら、「旅するオペラ」と弊社のウェブサイトものぞいていただければ幸いです。