「幸せの国」ブータンとビットコイン・マイニング

ドチュラ峠からのブータンヒマラヤ

ドチュラ峠からのブータンヒマラヤ

ヒマラヤの小国ブータンは、世界から「幸せの国」と呼ばれ、国民総幸福量(GNH)という独自の理念を掲げ、バランスの取れた開発、環境保護、文化や精神性を重んじる姿勢は、世界の注目を集めてきました。しかし、一般にはあまり知られていませんが、ブータンでは最近、ビットコイン(BTC)の採掘(マイニング)が国家戦略として進められていたのです。しかし、この政策は国内でも報道されることはほとんどなく一般のブータン人にもあまり知られていませんでした。その理由としてはGNHブランドとのイメージギャップなどがあったと考えられますが、ここ数年海外でも報道されるようになり一部の注目を浴びていました。

ブータンの主要産業は、農業、水力発電、観光業の3つです。ブータンはチベット文化圏では例外的に米が獲れ、牧畜による乳製品の利用とともに国民は自給自足的な生活をしてきました。近代になると、豊富なヒマラヤの雪解け水を利用した水力発電でインドへの売電が始まりました。そして量より質を重視する観光戦略で観光収入も国の重要な収入の柱となっています。

ファミリーやお手伝いの村人さんと食卓を囲む

ブータンの幸福な風景

しかし、耕作面積に限りのあるブータンでは農産物の輸出が大幅に増えることは期待薄、売電の売り先はインドに限定されており価格面で主導権を握られがち、観光業も「量より質」であるため大きく稼ぐことはできないと、どの産業も限界があります。そのため「若者の失業率の高さと海外流出」という深刻な問題に対応できません。

そこでブータン政府が目をつけたのが「BTCのマイニング」です。マイニングとはコンピューターによる大量計算で暗号資産の取引を承認する作業 。その際、「膨大な電力」を必要としますが、ブータンには豊富な水力発電があります。通常、夜間は電力需要が落ちますが、水力発電は24時間発電しっぱなしなので夜間の余剰電力を使えば低コストでコンピューターを稼働できます。しかも、化石燃料を使わないクリーンエネルギーです。

このマイニングで得られる利益はすべてBTCで支払われ、新しい外貨獲得の手段となりました。「幸せの国」と仮想通貨、意外に思われる組み合わせにも、理論的な裏付けがあったのです。こうして2020年以降、ブータンは世界有数のBTCの保有国となり、2023年には公務員の給与引き上げのため、ビットコインを1億ドル分売却しました。

クエルセル・ポダンから見おろすティンプー市街

クエルセル・ポダンから見おろすティンプー市街

その後、ピーク時の2024年に約13,000 BTC(130~170億円)を保有していましたが、2026年までに計画的な売却を進め、現在の保有量は4,000 BTC前後(40~60億円)まで縮小しています。(ちなみにブータンの年間の国家予算は700~800億円。1BTC=約1,000万円)これは、ブータン南部に建設中のゲレフマインドネスシティの準備費用が必要だったからと言われています。

そして実は、ブータンではすでにマイニングは停止しているのでは?と言われています。実際、2025年以降は政府系ウォレットへの新規BTC流入がほぼ途絶え、採掘による増加が確認されていません。2024年の半減期で採算性が悪化したことに加え、ゲレフのマインドフルネスシティ構想など新規プロジェクトへの電力需要が高まり、マイニングに回す余力がなくなったとみられます。こうした状況から、ブータンのBTCマイニングは「事実上の停止状態」にあるという見方が有力です。

ブータンは「幸福」という理念を守るために、静かに未来の技術を取り入れてきました。水力発電を活かしたBTCマイニングは、外貨獲得という現実的な課題に向き合うために有効な手段でした。そして今、保有資産の利益確定と新たな都市計画への投資を進めながら、伝統とテクノロジーの両立という独自の道を歩み続けています。ブータンの挑戦は、幸福を維持するための「静かな国家戦略」と言えるでしょう。

ブータンは保守的な国に見えがちですが、実は仏教的な「本質を見る姿勢」と「執着しない柔軟性」を背景に、必要と判断した政策には大胆に踏み込む強さを持っていると感じます。それはGNH政策にも表れています。ブータンのBTCマイニングの採用と撤退(?)は、仏教思想に通じる国家戦略であったのではないでしょうか?

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