ネパール・チベット国境で発生した洪水について

8月26日の昼過ぎ、チベットの潘くんから「キロンで洪水みたいです」と連絡が入りました。動画を見て驚いていると、その直後にネパール支店からも「悲しいお知らせです」と、同じ洪水のニュースが入ってきました。

第一報では「やはり雨期は洪水が起きるんだな」程度の認識でしたが、その後、昨夜から今日にかけて次々と現地のニュースが更新され、徐々に被害状況が明らかになってきました。この原稿を書いている時点でネパール、中国の両国で150人以上の死者と1500人以上の行方不明者が出ていると報道されています。建物や道路などの物的被害だけでなく人的被害も大きなものになってしまいました。被害にあわれた方にはお見舞いを申し上げるとともに、一日も早い復旧をお祈りいたします。

洪水が発生したキロンとはチベット自治区とネパールの国境の町で、外国人観光客の出入国が行われるのはもちろん、中国から物資をネパールに運ぶ物流の大動脈としても重要な場所です。2015年にネパールとチベットの国境付近で発生した大地震の影響でそれまで外国人に開かれてた国境であるザンム/コダリが閉鎖された際に代替措置として開かれた国境で、地震の被害を受けたザンムの街と周辺の道路を大規模に拡大するという事で、そのまま対外的に開放されました。現在、外国人はコダリ国境と合わせて2か所の国境を通過できますが、観光客はキロンへ、物流はコダリへという方針が取られていると聞いているので、キロンには多くの観光客が滞留していたと考えられます。

チベット縦断 概念図

チベット縦断 概念図

この国境をネパール側からチベット側に抜けて北西に700㎞ほど走るとチベット仏教、ヒンドゥー教など4つの宗教の聖地であるカイラス山(チベット名:カン・リンポチェ)、マナサロワール湖まで2日から3日でたどり着きます。ヒンドゥー教でカイラス山はシヴァ神の住まうところとされ、麓にあるマナサロワール湖はガンジス川の源流とされています。そのため近年はインド人富裕層を対象としたカイラス山を巡礼するツアーが大人気で、このルートを盛んに利用しています。そのため報道のよれば今回の被害者・行方不明者の中でインド人が多く含まれているようです。実は昨年7月にもこの付近で大規模な洪水が発生、国境の橋が流されています。その時にも多くのインド人巡礼者が国境付近に閉じ込められて話題になりました。

ネパール側から見た中国側の国境

ネパール側から見た中国側の国境

私も2017年の冬にこの国境が開通してすぐに訪れたことがあります。ヒマラヤ山脈を見渡す5,000mを越える絶景の峠から、九十九折りの道を一気に駆け下る道中は3,000m以上の標高差、風景や植生が大きく変化し、まさに大冒険でした。そして、ほとんど平らな地面がないほど狭い深い谷底に国境のイミグレーションはありました。あの狭い空間にあの量の土石流が流れてくればとても逃げ道はなかったでしょう。街ごと飲み込むような巨大な洪水の映像に身がすくむ思いがしました。

昨今の気候変動で雨期のネパールでは洪水が頻発し、すっかりリスクの高いルートになってしまいましたが、今回の洪水の原因については、氷河の一部崩落に伴う雪崩や、河川の一時的な堰き止め・決壊など複合的な要因が指摘されており、氷河湖決壊の可能性も含めて調査が続いています。 雨のほとんど降らない乾期であれば、ほとんどリスクのないルートなのですが、雨季と乾季では全く違う表情を見せるものです。

被害にあわれた方の救済や、行方不明になった方の救助や捜索は最優先されるべきですし、そのために日本政府などにも全面的な協力をお願いしたいところです。ただ、今回の洪水の影響で心配なのは、これからトレッキングのベストシーズンを迎えるネパールへの観光客が減ってしまう事です。確かに今回の洪水は甚大な被害を出しましたが、実際に道路が通行止めになるなど大きな影響が出るエリアは限定的です。首都のカトマンズ、トレッキングの起点となるポカラなどは全く被害が出ていませんし、現地支店からは洪水の発生した地域に近かったランタン・エリアを除けば、アンナプルナ・エリア、クーンブ・エリアなどのトレッキング・エリアへの影響はほとんどないと報告を受けています。

今回は日本人5人が巻き込まれたこともあり。マスコミなどではセンセーショナルにニュースとして取り上げられますが、実際に洪水の影響がない地域への旅行を取りやめるようなことは、復旧復興を目指すネパールの観光業に大きなマイナスです。皆様には正確な情報をもとに冷静な判断をしていただきたいと切に願います。

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コメント一覧

ありがとうございます ネパール・チベット国境の土石流の日本人不明者の記事を見て この人達がどんなルートでここに行ったのか知りたかった 参考になりました 不謹慎ながらこうゆうルートもあるのかと感心しました 沢木耕太郎の天路の旅人のルートに近いので関心を持ってました 普通は空路でカトマンズに入るのが一般的なのに 風の旅行社興味持って見ていきます

岡崎 健一2026.08.30 06:39 am

岡崎様 コメントありがとうございます。 あまり知られてはいませんが、ルートとしては大変魅力的な場所です。 『天路の旅人』の西川さんに限らず、古来よりこのルートを通ってインド・ネパール、もしくはもっと西方とチベット、中国、そして朝鮮、日本へと多くの人や物が往来して文化を伝えてきました。 「なぜ、あんな危険な場所に行っていたんだ」と批判する方もいらっしゃいますが、それだけ魅力のある場所だというほかはないでしょう。一人でも多くの命が救助され、一日も早い復興復旧が進むことを願ってやみません。(中村)

スタッフの声2026.08.31 11:03 am

今回の洪水で亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げるとともに、ご不明な方々の一人でも多くの救出を願いっております。 洪水の詳細が知りたくて、風の旅行社さまのサイトを拝見させていただきました。 情報ありがとうございます。 中村さま 2000、2001年、チベットではありがとうございました。 あれから数年間、ヒマラヤの麓を東から西へと旅してきました。 ヒマラヤは脆い土地。落石、崖崩れ、土砂崩れとままならない工程でしたが、現地のドライバーさん、ガイドさんのおかげで旅することができ感謝しております。 そんな危険な場所になぜ? と問われれば、自然、人々の優しさ、信仰の深さ、何より、子どもたちの笑顔に迎えられたことです。 あの頃、秘境といわれた中国側チベットに今は鉄道が通り、ハイウェイが走り、中国とネパールに外国人も通過できる国境ができ、多くの観光客が行ける場所になったのですね。 今回の洪水のニュースを見て近代化とヒマラヤの自然との共存の難しさをあらためて感じさせられております。 被災されたみなさまにお見舞い申し上げるとともに、被災地の復旧復興が一日も早く進むことを願っております。

ティンク2026.09.02 04:47 pm

ティンク様 お見舞いありがとうございます。そして大変ご無沙汰しております。 チベットもネパールも、本当に魅力的な土地ですよね。 昔よりもインフラが整ってきたにもかかわらず、今回のような大きな災害が起きてしまったのは、開発ばかりを優先してきた人類へのしっぺ返しなのでしょうか。彼らが続けてきた「自然との共生」を見習うべきでしょう。 今日になってネパールから閉じ込められいた水力発電所から生存者が見つかったと報道がありましたね。暗いニュースの中に希望を見た気がします。中村

スタッフの声2026.09.04 06:37 pm

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