添乗ツアー名:キルギス・絶景騎馬トレック&キャンプ 9日間(2026年6月)
期間:2026年6月26日(金)~7月4日(土)
文・写真:中村昌文

美しい雪山と草原に咲く花々、そして馬たち これぞアラトーの恵み
アラ・トーの国・キルギスへ
キルギスは国土の約90%以上が標高1,000メートルを超える山国で、その大部分を占める天山山脈の山々を、現地では親しみを込めて「アラ・トー(雪を冠したまだらな山)」と呼びます。首都ビシュケクの中心には「アラ・トー広場」という国を象徴する巨大な広場もあり、キルギスの人々にとって“アラ・トー”は自然と文化を結びつける特別な言葉です。
夏のキルギスは、天山山脈の氷河を源とする雪解け水が大地を潤し、花が咲き乱れ、緑の草原が輝きます。牛や馬、羊などの家畜たちも元気いっぱいに草原を闊歩し、冬の厳しい乾燥と極寒を迎える前の、短くも豊かな季節が広がります。その大地は、まさに「シルクロードの別天地」と呼ぶにふさわしい表情を見せてくれます。
今回のツアーでは、天山山脈が育んだ力強い馬に乗り、針葉樹の森を抜け、谷を渡り、高山植物咲き乱れる緑の峠を越え、氷河や雪山を眼前に望む騎馬トレッキングを楽しみました。
「騎馬民族の国」キルギスだけに、騎馬トレッキングだからこそ見える景色、感じられる空気があり、「アラ・トーの恵み」を全身で味わうことができたと思います。
ここでは、その旅の一端をご紹介したいと思います。

旅人が集まる街・アルマトイ
今回のツアーには、旅慣れた参加者が多く集まりました。
風の旅行社のツアーのリピーターさんがお二人。どちらも世界中を旅してきた経験豊富な旅人です。さらに、モンゴルで乗馬に目覚めたお父さんと、その“お目付け役”として同行した息子さん。 その息子さんは旅好きの友人まで連れてきてくれました。若い二人ながら、辺境国へも個人旅行するなど、なかなかの旅経験者です。 さらに、アルマトイで2名が途中合流。ちなみに2人ともツアー合流までは一人旅。それぞれウズベキスタンやカザフスタンを楽しまれてきたそうです。こうして、年齢も旅のスタイルも異なるものの、総じて旅慣れた“歴戦の猛者感”あふれるパーティが自然と形成されました。
ガイドを務めるのは、キルギスの田舎タラス(タラス河畔の戦いで有名)出身で乗馬はオテノモノというキルギス青年アスハットくん。コロナ前には沖縄で4年も働いていたというので当然、日本語も流暢。しかし見た目はほぼ”ウチナンチュ”(笑)。ちなみに好きな歌は「島人の宝」だそうです。
カザフスタンとキルギスの国境にそびえるクンゲイ・アラトー
トイレ休憩はきれいなガソリンスタンのコンビニです旅慣れた皆さんで、打ち解けるのにも時間はあまり必要ありませんでした。アルマトイを出発し、天山山脈の支脈クンゲイ・アラトーを越え陸路でカザフからキルギスに入るとそれまでの乾いた大地が一気にみずみずしく変わります。緑が一気に濃くなり、キルギス名物の白いはちみつの原料になるエスパルセットの花畑も広がり、道路を渡る羊の群れに行く手を阻まれたりもします。山脈の北と南でこれほど景色が変わるのかと毎度驚かされます。
2日目の夜にはカラコルに到着。明日からの騎馬トレッキングに備えて早めに就寝します。
キルギスに入ると家畜の姿も増えてきます
エスパルセットの花畑馬との対面 アラ・トーの懐へ
さあ、いよいよ3泊4日の騎馬トレッキングが始まります。
朝10時過ぎに出発地点である牧場に行くとすでに乗馬スタッフたちが荷造りの最中でした。軽い準備運動の後、馬の乗り降りのやり方、進め方、止め方、曲がり方などの基本的なレクチャーを受けます。牧場内で足慣らしをしたら、いよいよ「アラ・トーの懐」へ出発です。
乗馬レクチャー中
乗馬開始です出発時には山のお天気を心配していましたが、登り始めると空はどんどん晴れ渡り、青さを増していきます。 歩くにはちょっときつめの角度でも馬なら力強く登ってくれます(もちろん馬は大変ですが…)。ただ、川沿いの林を抜ける際には、横枝や茂みが上半身に迫りくるので、よそ見は厳禁です。やがて尾根に出て振り返ると、青く高い空、白い雲、濃い緑の森、広がる緑の草原。そして眼下にはイシク・クル湖の青が空に溶け込むように広がり、境界が分からないほどの美しさです。「天上」の美しい風景に、皆さん思わず声を上げていました。

絶景の騎馬トレッキング
初日はイシク・クル湖に面した2,000m〜3,000mほどの丘を越え、標高2,400mほどの川筋の草原でキャンプにたどり着きました。「疲れたねー」と皆さんが口々に言う間もなく、スタッフたちはあっという間にキッチンテントを立て、食事の準備を始めます。 やがて温かな料理が出来上がり、食事の時間です。今夜のメニューはプロフとパンとサラダ。紅茶が体を温め、疲れた体にじんわり染みていきます。食後には、ささやかなキャンプファイヤーと、ガイドによるキルギスの歌(と「島人の宝」)のおもてなし。初日はお疲れなのか、皆さん早々とテントへと入っていきました。

夜はキャンプ・ファイヤー
「アラ・トーの花園」へ
1泊目のキャンプ
キャンプ撤収中翌朝、アラ・トーの奥へと進む2日目。
出発の準備をしていると、馬方さんから「昨日見ていたけど進みが少し遅い。このままだと最終キャンプまで行けないかもしれない」。その言葉に、皆さんの表情が一瞬だけ引き締まります。今日は急な上り下りが連続し、土の露出して滑りやすい個所も多いのです。
しかし、ここからが“歴戦の猛者”の本領発揮でした。「じゃあ、少しでも早く出発をしましょう」と寝袋やテントの撤収や荷物のパッキングを積極的に手伝ってくださり、急な上りも下り坂でも誰ひとり怯むことなく、馬の動きに合わせて体重を移動し、慎重に進んでいきます。参加者の皆さんの集中力と気迫が、馬にも伝わっているようでした。さらに、昨日より明らかに慣れてきているのを感じます。幸い、この数日は天気が良く、道中のぬかるみもほとんどありません。
標高が上がるにつれ空気は乾き、風は冷たくなりますが、馬たちは力強く歩みを進めます。休憩すると日に焼けて火照った頬に冷たい風が気持ちよく流れます。昼食の休憩地点に着く頃には、馬方さん(を通訳したアスハット)から嬉しい一言。「このペースなら、最終キャンプまで問題なく行けます」参加者の皆さんの顔に、安堵と達成感が広がります。

道中はまさに“アラ・トーの花園”。
標高3,000mの峠にはエーデルワイスをはじめとする高山植物が咲き乱れ、黄色、白、紫の花々が風に揺れ、まるで絨毯のように広がります。

アラトーの花畑
川に出ると馬たちは「ズオオオオ…」とすごい音を立てて水を飲み、カツカツと蹄鉄を履いた蹄が石を蹴る音、流れに逆らう音、冷たい飛沫…。急な薮を駆け上がる時には、枝の折れる音や引っかかる音、サドルバッグが擦れる力強い音が響き、馬体に強い力がみなぎるのを感じます。まさに、山を駆ける「重戦車」のようでした。
いくつもの峠を越えて、谷を渡り、そしてついにたどり着いた最終キャンプ。目の前には、氷河を抱いた雪山を望む広大な草原が広がっています。鞍と荷物を外すのを待ちきれずに、馬たちが転げまわって馬方さんたちに叱られます。

到着した絶景キャンプ
そんな風景を目の当たりにして参加者の皆さんのテンションは一気に爆上がり。
「すごい景色だ……」「これぞ楽園ですね」
疲れよりも、達成感と高揚が勝る瞬間でした。そして、添乗員とガイドは事故なく来れたことに心からホッとするのでした。

テントを張りました
氷河を目指して

氷河を目指して出発
翌朝、早起きできた人だけで近くの丘に登りご来光を拝む。
今日も氷河が美しい。朝食を待っているとどこからともなく馬の大群がやってきて、キャンプサイト脇の池にざぶざぶ入っていく。池の手前に咲いている黄色い花とその背景の氷河、そして池で戯れる馬、なんと絵になる風景。「まさに楽園」というありがちな言葉がついつい口をつく。「ほかに表現のしようがないな」と独り言つ。
乗馬3日目は、のんびり1日かけて氷河の舌端を目指し400mほどの標高差を登る。3,000mあたりが森林限界のようで、途中から背の高い樹木を見かけなくなります。その代わり氷河谷らしくごつごつした岩が増え、これまで目にしなかったような高山植物が目立ってきます。

氷河の手前まで馬で
2時間ほど登ったところで、岩場になり乗馬は終了。標高は約3440m。雪をまとった岩峰が壁のように立ちはだかり、氷河が運んできた堆積物(モレーン)でごつごつした茶褐色の世界です。岩陰には色とりどりの高山植物が咲いています。岩場をトラバースして15分ほど歩くと氷河が良く見える小さな池にでました。氷河湖というにはちょっと小さい気がします。

氷河湖というにはちょっと小さい氷河池

高山植物
普段、ヒマラヤでは標高3,400mは人が生活する高さですが、緯度の高いキルギスではこの高さで氷河ができるのです。しかし、馬方さんに聞くとこの10数年で氷河はかなり後退しているとのことでした。
キャンプまで戻るとこっそり荷物に忍ばせていたビールで乾杯です。実は朝のうちに冷たい流れにつけておいたので飲み頃です。高所ということで本当に「軽く一杯」でしたが、まさに至福の一杯でした。キャンプ最後の夜という事で皆さんがとっておきのおつまみを出してきて、いつの間にかコニャックも登場、旅好きのお客様ばかりという事もあってお喋りが止まらなくなりました。

夕日の絶景キャンプ
雨の下山、そして旅の終わり

朝、目覚めると霧の中
乗馬最終日の朝、キャンプサイトは霧の中でした。
夜も雲で星は見えず、正面の氷河も厚い黒雲で隠れがちです。
雨の降りだす気配がしますが、今日は乗馬の最終日。心の余裕が違います。

あいにくの雨の中出発
「せっかく用意した雨具の出番があってよかったですね」という軽口も許される雰囲気です。朝食を終えるとテントや寝袋などキャンプ用具の撤収です。すでに皆さん慣れたものです。
降るか降らないか怪しい天気の中、下山を開始。お昼休憩までに一気に700mも標高が下がります。針葉樹ばかりだった林も、白樺やポプラなどに変わり、野ばらがきれいに咲いています。人や家畜を見ることも増え、徐々に人里に降りてきた実感がわいてきます。

雨宿りしながらのランチタイム
やがて道がコンクリートに変わり、ゴールであるイシククル湖の湖岸の村に入ると、村人の姿を見かける羽陽になり、村中が果樹園と言ってもいいくらい、杏や林檎などの実のなる木が植えられているのを目にします。

美しい野ばらが咲いていました

柵の向こうは果樹園
シトシトと霧雨の降る中をイシククル湖の湖岸まで到着したところでゴールです。4日間お世話になった馬方さん、コックさん、サブガイドなどと別れを惜しみつつ、タムガのユルタキャンプへと向かうのでした。
ユルタキャンプでは、久々のシャワーと冷たいビール&ワインを楽しみ、翌日はブラナの塔の観光や民家でのキルギス料理、ビシュケクでバザールやお土産物のお買い物、と最後まで旅は楽しみました。
しかし、せっかくキルギスまで行くなら、どっぷりと自然に浸り、絶景を楽しみキルギスの騎馬文化をはじめとした「アラトーの恵み」について、思いを馳せて頂きたいと感じました。それが風流・キルギスツアーの1つの回答なんだと思います。

イシククル湖の湖畔の村に到着

イシククル湖畔でゴール お疲れ様でした