「はなのいえ」ができるまで

文・写真●比田井博

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自然の恵みを大切にした、環境にやさしい有機農場併設リゾート「はなのいえ」。ここでは随所に生かされたコダワリをご紹介していきます。


土地

自然有機農場併設リゾート『はなのいえ』は、ネパール・ポカラの北西10キロ、標高1,500メートルのアスタムコットの村にあります。全体の敷地は、約4ヘクタール。そのうち、農場は3ヘクタール、リゾート部分は、1ヘクタール、メインビルと5つのゲストルーム(10部屋、20人)。ですので、一人あたり10,000平方メートル/20人=500平方メートルの居住空間を持ちます。

建物


1:石を積み重ねた
伝統の建築

ネパールの伝統的な石造りの家を、整えた石を使ってつくっていきます。壁のところどころには、鉄筋の柱が隠されています。これらは家をがっちり補強する役割を果 たしています。(写真1)


2:コダワリの屋根

屋根の部分、窓枠には木が使われます。天井、ココナッツファイバーの断熱材、そして石の瓦。建物には、例えば塗料はビーワックス等、できうるかぎり自然素材が使われます。(写真2)


3:ゲストルームの
座椅子と机

家具、調度類にもネパールの伝統民芸のなかの最良質なものを使っています。それは、ネパールの民芸の水準を引き上げることにも役立ちます(写 真3)。また、ネパールの伝統工芸の世界に、日本、ヨーロッパのデザイン性を持ちこみたいとも考えています。

アスタムは、明るさより暗さを楽しんでもらいたい。星も満天です。月夜には、ヒマラヤがシルエットで見えます。ろうそくも、自家製の蜜蝋を使います。(写真右)


4:土壁の材料づくり

赤土、おがくず、石灰、牛糞を混ぜて、土壁の原料をつくり、1ヶ月以上発酵させます。この発酵した土を使うと、硬くしまり、自然の色彩 の美しさがでます。(写真4)

農場


5:マメ科の垣根(右)
ハーブ(左)

農場には、多く、マメ科の植物を植えてあります。垣根、暴風の役割と同時に、土をよくする役目を果たします。農場は以前草地であったため、土壌をよくすることが重要になっています。ハーブも驚くほどたくさん栽培されています。(写 真5)ゲストは、自家製のハーブティを楽しむことができます。奥の小屋は、牛小屋。ミルク、ヨーグルトも自家製。それに、有機肥料の主要な供給が、牛です。

果物の木も、たくさん植えられています。全部で、500本以上。りんご、梨、プラム、杏、梅、もも、ブラックベリー等々。その全ては、ネパールの台木に日本の果物を接木したものです。これは、梨。根元に、土を耕作するというコーンフリー、そして土を肥やすマメ科のクローバーが見えます。シンビジウムは、虫除けの花です。このように、農場では、生態系を利用した農業=パーマカルチャーの考えが取り入れられています。


6:日本からの陸稲

山地のため水の確保が難しく、水も流しつづけなければ枯れてしまう(底が抜けた水田)ため、水が冷たく、有機肥料も流されてしまいます。それを解決するのが陸稲と考え、陸稲を栽培実験中。間には大豆―土に窒素を供給します。 (写真6)


7:バイオガスシステム

そして、この農場を特徴付けるのが、バイオガスプラント(写真7)。牛の糞(大きな円筒状のものが投入口)、人のトイレ(トイレが見える)を発酵させ(手前の地下に発酵漕)、炊事用のガスを取り出します(ガスの取り出しパイプが見える)。でも、一番は、これで完熟した有機肥料が手に入ること。これは、スタッフ用。ゲスト用にも、大きなプラントが別のところに建設中。このリゾートは、no-emmision(とりだしたゴミを敷地外に出さない)の、リサイクルシステムを配置しています。


8:野菜畑とハーブ畑の
予定地

野菜畑は、混裁です。1つの畑に、数種の野菜が植えられています。これは、害虫を避けるためにも有効です。(例えば、キャベツが他の野菜の間に植えられていると、蝶は、これがキャベツ畑と認識できず、その結果 、卵を産み付けることが減少します。)それに、収穫時期が異なりますので、いつも緑の野菜畑が続きます。私達は、これを、ベジタブルガーデンと読んでいます。 (写真8)


9:好評のハーブ茶

1ヘクタールのハーブガーデンでは、ハーブ茶を作ります。(写真9)これは、試作品。とても好評です。来年の5月から日本への輸出開始。果物が収穫される3年後には、ジャムの生産、輸出も開始します。もちろん、無添加、無農薬。


農園に囲まれた
はなのいえ

この『はなのいえ』は、農業の生産で、経済が成り立つようにするつもりです。豊かな農場は、滞在するゲストに素敵な空間を保証できるでしょう。でも、それよりも、村の人々に与えるインパクトは、リゾート主体より、農場主体のほうが、遥かに健全なものになるのでは、と期待もしています。

「農業」に込められた意味


自然の恵み満載

アスタムのプロジェクトの主要テーマは、農業です。「農業」には、2つの意味があります。

1つは、有機農業に取り組むこと。ネパールは、家畜がたくさんいます。それゆえ、有機農業が行われていると考えられがちですが、実際は、有機物が有効利用されていません。有機物の完熟堆肥づくりの方法を知らないからです。完熟しない有機物は、 むしろ、その分、害虫、病気の発生の多発をもたらします。
2つには、その有機農業が、事業的に成り立つことを証明することです。どんな素敵な農法も、それが事業的に成立すること、すなわち、村人の生計を十分に成り立たせるものでなければ意味がありません。

志を同じくする


アスタム眼下に広がる村

ネパールにいて、感じることがあります。仕事をしっかりやれば、報われる。それは、日本人には当たり前の前提の如くに存在しています。それゆえ、日本人は、何かの働く力を自らに備えれば、社会が活用して くれることにほとんど疑いをもちません。

しかし、その前提は、本当に「日本的」であり、ネパールには存在しません。故にでしょう、ネパール人は、社会、国家あるいは、小さな村のコミュニティさえ信頼していません。個人とある集団との間に信頼関係が存在しないとき、社会的行為に導くような内的動機づけも存在しません。それは、村人のレベルから首相までそうです。このことが、ネパールの発展を阻害している真の原因だとの思いを強くしています。ネパールの首相は、海外へ出るときも、国営のロイヤルネパール航空を利用しない。タイ航空を使います。まず自らの利害ありき、それが「恥」とならないのです。


ゲストエリア全景

そんなネパールの社会に対して、アスタムのプロジェクトは、農業を通じて、1つの提案をしてみたいのです。具体的に言うと、事業としてのプロジェクトと農場で働く人々の間に「志を同じくする」という意味でのカンパニー(会社)を成立させることです。農場では、今、4人の女性が働いています。ネパールでは、「女性」がキーポイントです。

アスタムに来たら、農場で働く女性の姿、顔を見てください。ちょっと自信に溢れた顔をしているのに気がつくでしょう。そんな人々が働く空間があってこそ、初めて、ヒマラヤや流れ出る川、そして、眼下に広がる村々を一望できるアスタムが、豊穣な意見を持つのではないでしょうか。アスタムのプロジェクトが一応完成し、皆さんが来る頃には、きっと10人を超える女性が農場で働いていると思います。

体にやさしい生産物


はなのいえで採れる農作物

アスタムの生産は、すでに出ているBワックスリップクリーム、1年後のハーブ茶(すでに試作品完成)、2年後の果物のジャム―500本を越える果樹があります―を予定しています。もちろん、皆さんが食べる食材は、全て自給できる体制になっています。

アスタムリゾートの3つの特徴


清潔なトイレットも循環型

アスタムのリゾートは、これまでに述べたように、農業主体のプロジェクトですが、リゾート自体にも特徴をいくつか持っています。

1つは、ヒマラヤとそこから流れ出る2つの川が望めることです。ヒマラヤが地球の体だとすると、川は血液の流れだと、私は感じます。それに、眼下には、村の集落と畑が広がっています。生きたヒマラヤの姿とそこに生きる人々を、まるごと感じることができます。
2つには、広いスペースです。約4万平方メ―トルの敷地に、ハーブ園、野菜畑に田、果樹園が配置されています。そこに、5戸、10部屋のゲストルームが浮かんでいるようにあります。素敵で十分に広いスペースが、最高のもてなしだと思っています。
3つには、リゾートは、循環型を目指しています。バイオガスシステムがその中心。人のトイレも、炊事ガスのもとになり、その後は、完熟した有機肥料の液肥になります。

アスタムは、従来のリゾートとは、大きく異なるものを内包しているように思えます。このホームページでは、完成したはなのいえの今を伝え続け、多くの人に利用していただけるきっかけづくりをしていこうと思います。

※風・通信No.5(2000年5月号)より抜粋及び加筆