ネワール文化どっぷり体感 カトマンズ盆地の魅力

カトマンズ盆地の魅力を知る旅   執筆●加藤亜里沙(東京本社)

学生時代に旅をしていた頃、ネパールの首都カトマンズに来ても観光客の集まるタメルや有名な寺院だけを回っていました。数年後、「パタン」のネワール族の家庭にホームステイする機会があり、「パタン」を見ずしてカトマンズを後にするなんて、なんてもったいない事をしていたのだろうと思いました。というのも、タメルから車でわずか20分ばかりの距離にある古都「パタン」には、ネワール族の人々が住む美術館のような街並みが広がっていたからです。さらに今回の出張では、ネパール支店のシティガイドであるラジェシュさんの詳細な解説付きで、「パタン」のみならず、別のネワール族の街「バクタプル」も巡り、ネワール文化の豊かさに改めて感じ入りました。何よりもびっくりしたのは、美術品のような建物の中に今も人が住んで生活しているということです。近年はカトマンズでも快適さを求めてアパートに住む人もいる中、そこには伝統に誇りを持ち、家業を脈々と受け継いできたネワール族の人々の暮らしがありました。では、ご一緒にネワールの街に迷い込んでみましょう!

カトマンズ盆地で独自の文化を開花させたネワール族


金属の仏像を作る職人

ネワール族は、カトマンズ盆地に2000年以上も前から住んでいると言われ、その木彫り技術や金属工芸は世界的にも有名です。15世紀、カトマンズ盆地にマッラ王朝の3つの王国がそれぞれ「カトマンズ」・「パタン」・「バクタプル」を首都として治めた頃、ネワール文化が開花し発展しました。現在も古都パタンやバクタプルではネワール族による手工芸品や美しい建築物が見られます。レンガ造りの赤茶けた街並みでは、あちこちでネワールの儀式や祭りが行われており、時を越えて受け継がれてきた伝統を感じる事ができます。また、これらの古都を歩くと、様々な場所で祈りの風景に出くわします。神々の国ネパールでもカトマンズ盆地は特に「人々の数より神様の数の方が多い」と言われ、いたるところに神が祭られており「こんなところにも?」と思うような場所にも祈りの跡が見られます。そんなカトマンズ盆地では、地面や建物の角等に祈りに使われる赤い粉(ティカ)を探して歩くのもネワールの街歩きの楽しみのひとつです。


ガイド曰く「信じれば神様、
信じなければただの石」

何本もの腕を持つ女神ドゥルガー



いたるところに祭られる神様


ネワール建築の三つ窓は裕福の証?


三つ窓から通りを見つめる
ネワール族の婦人

ネワール建築を特徴づける最も美しい部分が木彫りの窓枠です。3階の三つ窓に細やかな木彫りが施してあり、この窓が立派であればある程、裕福である事が伺えます。ネワールの街を歩いていると、よくこの窓から家の住人が通りの様子を覗いているのを目にします。その様は、あたかもお城に住むお姫様が外の世界を覗いているかのようです。

さて、ネワール建築は一般的に4階建てです。1階は商店・倉庫、2階は寝室+リビング、豪華な三つ窓がある3階は客間、4階は台所+ダイニングとなっており、不浄とされるトイレは1階に、神聖とされる台所は最上階に設けられます。

祭りの中心地「パタン」

タメルから車で20分南下しパタンに到着すると、まずダルバール広場が見渡せる場所に立って広場を一望します。17・18世紀に建てられた細かな装飾を施した寺院が連なる様子、人々が行き交う姿、そして晴れた日は遠くにそびえるランタン・リルンが見渡せるここからの眺めは圧巻です。パタンはサンスクリット語で「美の都」という意味で、まさに街自体が美術館のようです。さらに寺院の付近では木彫り職人、仏像職人、タンカ職人、お面職人が丹精込めて製作した作品の数々を並べた商店が並びます。特にパタンには仏像職人が多く、パタンに多い「サキャ」という苗字は「釈迦」が由来だそうです。ガイドのラジェシュさんによると、売られている仏像はただの置物で、お坊さんがお経を唱えて魂を入れて初めて「仏像」になるとの事。知らなかった!


高台からパタンの
ダルバール広場を見渡す

扉の上の彫刻を見れば中に
祭られている神様が分かるという



水場(マンガ・ヒティ)では
今も水がめに水を汲む風景が見られる


パタンには仏教やヒンドゥー教の寺院がいくつもあり、熱心に参拝する人々の姿が見られます。ヒンドゥー教寺院の境内では、生贄のヤギが見られたり、サドゥ(ヒンドゥー教僧・修行者)に祈ってもらっている人がいたり。寺院の建物もさることながら、色とりどりなお供え物やティカ(額に付ける祈りの粉)にも目を奪われます。仏教寺院とヒンドゥー教寺院には様々な類似点や相違点がありますが、人々の真摯な祈りの姿は仏教徒もヒンドゥー教徒も変わりません。


お供え物

聖なる祈りのアイテムを操る
サドゥにお祈りしてもらう



一昔前、カトマンズ盆地では毎日のようにお祭りが開かれていたと言います。特にパタンでは毎日ではないものの、今でも大きなお祭りが開催されます。例えば4月にはマッチェンドラナート祭(山鉾巡行祭)、9月にはインドラ祭(生き神クマリの山車巡行等)、10月にはダサイン(水牛やヤギを生贄として捧げる)が開催され、街は熱気に包まれます。大きな祭りの時は国の重要人物も出席し、テレビでも祭りの様子が放映されます。普段の落ちついたパタンもいいですが、お祭りの時は普段とは全然違った街の様子が見られるそうです。ネパール支店に戻り、インドラ祭の写真を見せてもらった時、京都の山鉾巡行を思い出しました。ネパールと日本はかなり離れていますが、ネパールに行くといつもなぜかほっとするのは意外と両国に類似点が多いからかもしれません。

「パタン」でネワールの家に泊まる―ネワ・チェン・シュレスタ・ハウス

ネワール族の街並みを歩いてみて、「家の中はどうなっているのだろう?」「一度ネワールのレンガ造りの家に泊まってみたい!」「あの豪華な三つ窓から通りを覗いてみたい!」そんな想いを抱いたことはありませんか?そんな想いを叶えられるのが、「ネワ・チェン・シュレスタ・ハウス」です。パタンのダルバール広場から北に徒歩3分というパタン観光には最適のロケーションにあり、周りもネワール建築が並びます。元々は個人が所有する家でしたが、ユネスコのネワール建築保存プロジェクトの下で改築され、2006年6月に宿泊施設としてオープンしました。美しい彫刻の窓枠に魅かれて足を止め、写真を撮る観光客も多いとか。レンガの優しい色使いや、細かな木彫りの柱に包まれると、中世の豪邸に紛れ込んだかのような感覚に陥ります。コの字型に造られた3階建ての建物が囲む中庭には、のんびりくつろげる6畳ほどの小屋(パティ)があり、タメルの喧騒から離れて本を読んだり、日向ぼっこをしたりできます。


きれいなレンガ建築のネワ・チェン

細かな木彫りが見事な三つ窓



中庭を望むパティで日向ぼっこ

さて、いよいよお部屋に向かいます。古い日本家屋のような急な階段上ると、小さな扉が待っています。靴を脱いで扉をくぐると、ちゃぶ台を囲んでクッションが敷き詰められた客間があります。間仕切りを経て奥にはふとんが敷いてあります。低い天井は何本もの茶色い柱が支えています。なによりもこの部屋の最大の特徴は、「光」かもしれません。昼間は格子状の窓枠から自然の光が差し込み、独特な空間を生み出しています。日が落ちると今度は、暖かな間接照明と蝋燭の光が幻想的な雰囲気を醸し出します。バスタブはデラックスルームにしかありませんが、洗面所・シャワールームはとても清潔です。ただ、エアコンがないので寒い日は暖かい服が必要です。


ネワールの家で迎える朝。格子状の窓枠から明るい光が差し込んできたら3階の三つ窓のあるお部屋での朝食に向かいます。朝食は毎日メニューが変わるので、連泊しても飽きる心配はありません。4階にはネワールの古い道具を集めたミニ展示場とコーヒールームを近々オープンする予定だそうです。現在は改装中ですが、希望すれば快く見せてくれます。食後はパタン寺院を見に行き、疲れたらまた静かなお部屋で一休み。大型ホテルのような設備はありませんが、友人の家を訪ねた時のように、家族のように温かく迎えてもらえます。あこがれの三つ窓のあるネワール建築の家で、伝統に包まれて静かなひとときを過ごしたい方にぜひお勧めしたい場所です。(弊社で手配を承ります。お気軽にお問い合わせくださいませ。)

赤レンガの街「バクタプル」

パタンから車で東に30分行くとバクタプルに到着します。途中、レンガ工場から煙が立ち昇っているのを目にしてバクタプルに到着すると、なるほど、石畳の道から家の壁まであらゆるところにレンガが使われています。バクタプルはパタンより人がまばらで、静かに心ゆくまでネワール建築を味わえます。ネワール族は商才にも優れていたと言われ、通りに面した家はほとんど1階が小さな商店となっており、2階以上が住居となっています。柱や窓枠に施された細かな木彫りは見事で、思わず足を止めて見入ってしまいます。寺院の周辺には土産物屋が並びますが、ほんの少し歩けばすぐに庶民の生活の場が広がっています。大通りから小道に入ると、水場で女性が洗濯をしていたり男性が集まってカードゲームにいそしんでいたり…。ニャタポラ寺院前には、高台から広場を見渡せるレストランがあり、広場を行き交う人々や寺院の鐘の音などに耳を傾けながらゆっくりと昼食を味わえます。食後に食べるバクタプル名物のヨーグルトは、酸味が少なく、まろやかな味でやみつきになりそうです。


五重の塔を持つニャタポラ寺院

レンガ造りの街並み



おはじきのようなゲームを
楽しむ子ども達


パレードに断髪?ネパール男児の成人式

私がバクタプルを訪れた日は、街のあちこちで男児が成人になる儀式が行われていました。ネパールの男児は12歳前後で成人式の主役となります。その日は、つむじあたりの髪の毛を残して丸坊主にし、親戚の人々を招いて祝います。家庭によっては楽団を呼んでパレードをしたり、神様に水牛の生贄を捧げたりすることもあり、私が訪れた日も色々な形の成人式を目にする事ができました。これに対して女児の成人式は初潮を迎えた時。近所の人も招いて盛大にお祝いします。女児の成人式の詳細は東京本社ウペの駐在日記をご覧下さいませ。


男児の成人式のパレード

断髪後の少年


お祝いの日は、特別なお菓子が並び、ネパール定食ダルバートのご飯も家庭によっては砂糖を加えて炊いてハレの日を祝います。ご近所さん皆で子どもの成長を喜ぶっていいですね!

焼き物の街「ティミ」

カトマンズとバクタプルの間にある焼き物の街ティミでは、素焼き職人が伝統的な手法で植物の鉢や水がめを作っている風景が見られます。街自体の歴史もとても古く、マッラ王朝以前からの古い建物を大事に守りながら人々が生活しています。ティミは野菜の産地としても有名で、早朝カトマンズへ向かう道では自転車の後ろにあふれんばかりの野菜をのせて運ぶ姿を目にする事ができます。小さな街だけに観光客も少なく、伝統を受け継ぐネワール素焼き職人の街をじっくりと堪能することができます。タヌキの置物やぐい飲み茶碗も作ればいいのに…と思うのは、信楽焼を誇る滋賀県出身の私だけでしょうか?


伝統の中に息づく街並み

通りでは素焼きの焼き物を
乾燥させている



若くても慣れた手つきで
鉢を作成


ネワール赤提灯へ!

「ネワール料理が食べたい!」との私のリクエストに応えて「まかせて!」とばかりに風のネパール支店スタッフが連れて行ってくれたのが、地元の人々で賑わう赤提灯でした。ネワールの飲み屋は、その殆どが普通に道を歩いているだけだとそこが居酒屋だとは分からないような造りになっています。外観は普通の家ですが、一歩中に入るとおつまみがずらりと並び湯気をたてています。狭い店内に足を踏み入れると、地元の若者が地酒を片手にやんややんやと酒盛りをしているところでした。

英語メニューはないので、地元の人にお勧め料理をオーダーしてもらいます。まずはおかみさん特製ロキシー(シコクビエから作られる蒸留酒)で乾杯。続いて、チウラ(乾燥した押し米)に水牛のカレー煮込みを注文。チウラに煮込んだカレーのタレをたっぷりかけて食べます。う~ん、美味!お米なだけに、お腹も膨れそう。その後はモツを中心に、おかみさんお手製おつまみを次々とオーダーしてもらいました。どれも美味しく、ロキシーとの相性抜群です。そして最後は、やっぱり蒸し餃子のモモをいただきました。チベットのモモは形が日本の餃子と同じ形をしていますが、ネワールのモモは小ぶりでシュウマイのような丸っこい形をしていて一口でぱくりと食べてしまうのにちょうどいい大きさです。店の内装は雑然としているものの、家庭の味をたっぷり味わえるお気に入りのお店になりました。


水牛のカレー煮込み

ネワールモモ


タメルのビジネスマンは、夜な夜なネワール赤提灯でエネルギーを充電しているとか。たくさん働いた日におでんの香りに誘われてのれんをくぐってしまう気持ちはどこも一緒ですね。今夜はネワールの赤提灯で一杯どうでしょう?

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