カラ・テパ遺跡で仏教を紐解く

以下の記事は2005年夏に発行した風・通信No.23から転載したものです。最新の情報についてはお問合せ下さい。
シルクロードは中国ばかりではありません。中央アジアにも様々な見どころがありますが、今回はウズベキスタンにある仏教遺跡に注目してみました。

ウズベキスタンで古代仏教遺跡に出会う

ウズベキスタンでウズベキスタンというと、モスクやメドレセが立ち並ぶイスラムの世界、というイメージが強いですね。でも、ウズベキスタンの南部、アムダリア河を隔てて隣国と接するテルメズの街に行くと、多くの仏教遺跡があります。今回は中国のシルクロード地域(新疆ウイグル自治区など)に負けるとも劣らないその魅力をお伝えしたいと思います。中央アジアで仏教? とは、ちょっとヘンな感じがしますので、まず仏教伝播の流れを振り返ってみましょう。
ご存知仏教は紀元前5世紀、インドで生まれました。インドの東北部は山が連なっているために、その後仏教はパキスタンにあるインダス河上流(ガンダーラ地方)へと伝播。それから、西は今のウズベキスタン(中央アジア南部)方面 へ、東はカラコルム連峰を越え、中国西部(シルクロード方面)から、中国東部、韓国を経て6〜7世紀ごろ日本へとやってきました。その後7〜8世紀頃ヒマラヤ山脈を越えチベットへ、またもう少し遅れてから海を渡りセイロン(スリランカ)やインドシナ方面 へと、時代と共にアジア全域へと広がっていったのです。

テルメズの仏教文化を代表する「カラ・テパ」遺跡


カラ・テパ遺跡

テルメズの郊外に、「カラ・テパ」という遺跡があります。「カラ」は黒い、「テパ」は丘の意味で、研究により、紀元3世紀頃に栄えたクシャン時代(カニシカ王で有名な国、紀元1〜4世紀)の仏教遺跡だと判明しています。その後衰退したので本当の寺院名などは判明せず、地元の人が「黒い丘」と呼んでいたのでその名前を便宜上つけています。中央アジアで15年に渡り現地調査を続けている加藤九祚先生が、今も手堀りでここ「カラ・テパ」遺跡の発掘作業を行っていらっしゃいます。実は日本とも縁が深い遺跡なのです。
カラ・テパは大きく南丘、中丘、北丘の3つの部分に分かれ、全体の広さは南北に約300m四方。南丘はソ連時代にロシアの学者により発掘されたので、主に中丘、北丘を発掘、研究中。発掘は「あと10年はかかるだろう」という代物です。そのうちのメインである北丘は大きく、大仏塔(現在は約15m×15mの基台のみ)と僧坊跡(壁の高さ約4m×東西約38m×南北約45m)の部分に分かれます。クシャン時代の仏教遺跡はいくつもありますが、その中でもカラ・テパは最大。いずれもテルメズ週辺に集中しているのは、アムダリア河の港として、交通の要衝にあったためでしょう。

これぞシルクロード 東西の文化がここで融合


おわん型の仏塔基壇部

今のウズベキスタンのテルメズ方面は、アレクサンダー東征(紀元前329年)時代からの遺跡のある街。ガンダーラの影響を受けたクシャン時代には遅くとも伝わったと言われています(一説にはもっと以前からとも)。クシャン時代というのは、仏教で言うと大乗仏教がほぼ成立した時代。実はこの地域が、後の仏教に非常に大きな影響を与えたのでした。
規模もさることながら、カラ・テパの歴史的意義は、その「場所」にあります。遺跡を調査されている加藤先生によると、ここの仏塔はおわん型。インドでもおわん型なのですが、途中のパキスタン(ガンダーラ)地方になると四角形になっています。もともとインドでは「円形=まわる(輪廻)」の概念であったのですが、地域柄、石をつみあげて四角形になったそうです。それがここで再び円形に戻っているのはインドの影響よりは、「地中海方面の神殿造りの影響」を受けていると見られています。
他に東西文化が出会った代表的な例は、「仏像崇拝」です。仏教はもともと「仏像」という概念がなく、信者は釈迦涅槃地の樹木や台を崇拝していたと言われています。その後仏塔崇拝に変わり、紀元前後に大乗仏教の影響で仏像崇拝へと変わっていきました。仏像崇拝は大乗仏教の影響ではあるのですが、もともとはギリシャ方面の影響が大乗仏教とぶつかり、仏像崇拝というものに変わったと言われています。つまり、この地で、西洋(地中海)のヘレニズム文化とぶつかって、融合していったのです。こういった仏教の変遷の過程から言ってもとても重要な地域であり、しかも東西を結ぶシルクロードの「文化の交差点」としても、とても興味深い役割を持っていた場所でもあるのです。その後、中央アジアから中国西部の新疆にかけて、楼蘭やその他古代王国にも。そして長安を経由し日本までに伝えられる仏教文化の変遷の歴史、その流れの一端をここも担っていたのでしょう。


遺跡で遊んでいた子どもたち

カラ・テパ遺跡の他にも、多くの仏教遺跡があります。今はタシケントの歴史博物館にある穏やかな顔をした「三尊仏」が発見されたファヤズ・テパ遺跡、48ヘクタールの広さを誇るダルヴェルジン・テパは仏教王国の宮殿跡と見られ、36kgもの黄金が発見されました。それにアイルタム遺跡、ザール・テパ遺跡など、あげればキリがないぐらい。また、テルメズには仏教遺跡だけでなく、見事なキャラバンサライ(隊商宿)跡やイスラム建築群などもあります。シルクロードファン、歴史ファンならずとも、ぜひ訪れていただきたいところです。

風の中央アジアのツアーコースも、この夏さらに充実しました。今回の特集で出てきたテルメズや、陶芸の里として有名なリシュタンなどがあるフェルガナ地方など、さらにその魅力を拡大させています。ぜひ、パンフレットをご請求下さい。

※風・通信No.23(2005年夏号)より転載(一部加筆)