[民族・宗教]禊の滝行と新年を迎える門松作り -富山県・上市町-


門松の竹は、斜めに切る「そぎ」や横に切る「寸胴」など地域や用途によって、切り口は様々


地元出身の造園家・山崎さんに教わる─富山県・上市町─禊の滝行と新年を迎える門松作り
滝行や写仏で今年一年の禊をし、翌日は地元の方々に交じって、講師から門松作りを教わり、完成品を自宅用としてお持ち帰り。清々しい新年を迎えましょう!


[開講日]2017年12月9日(土)~10日(日)
[講 師]山崎 直樹
 
報告者●竹嶋 友

舞台は、厳寒期の越中・上市町───。
行基菩薩が巨石に不動明王像を彫り上げ開いたのが始まりと伝わる、大岩山日石寺。この寺では、寒修行で知られる六本瀧の滝打ちで心身を清め、不動明王を写し描き精神を研ぎ澄ます写仏など、一般人でも国籍や宗教、年齢、性別を超え、修行体験ができます。
一方、町の山間部に位置し、「谷」が訛って「種」になったと伝わる種地区は、かつて湧き水の多い沼地を水田として開拓し、泥水に胸まで浸かりながら稲作をした「湶田(あわらだ)」の里として知られています。

この講座では、日石寺での滝修行や写仏で今年一年の穢れを落として、翌日は種地区出身の講師の指導のもと、地元の方々に交じって自分だけの門松を作りました。

<1日目> 今年の穢れを、「滝行」や「写仏」で祓い、
<2日目> 来る新年を、講師の指導のもと作った「自作の門松」で迎える



◆まずは大岩山日石寺へ

集合場所の上市駅で集合。上市町観光協会の澤井さんと合流し、昼食を済ませた後、一行は禊の舞台である大岩山日石寺へ移動。ここ数日の降雪で足元が心配されましたが、幸いにも積雪はほぼありませんでした。参加者の女性が「晴れ女」だそうで、おかげ様で幸先の良いスタートです!


前面にせり出すように彫られている不動明王磨崖仏

大日堂から見上げる三重塔


真言密宗大本山大岩山日石寺は不動明王を本尊とし、「大岩のお不動さん」の呼称で親しまれているお寺であり、北陸随一の霊場としても知られています。
冬のキリッと澄んだ空気が張りつめた日石寺では、数組の参拝客がいる程度で落ち着いて見学ができました。国指定重要文化財の不動明王磨崖仏、大日堂、地蔵堂などを見学した後、滝行の舞台である「六本瀧」とご対面。いよいよか…という実感が湧いてきたところで、「寒さ厳しい厳冬期に受ける滝行こそ、禊に深い意味がありますよね!」と滝行を受ける参加者と、添乗員はお互いに気持ちを高めて行くのでありました。


精神を整える……が、すでに寒い!



白装束に着替え、滝や不動明王像と対峙し祈りを捧げた後、滝の下に入り打たれます。打たれ始めは、寒さと想像以上の水の衝撃により息苦しくなるのですが、それを乗り越えると少しだけ余裕がでてきます。余裕と言っても、吹けば飛んでしまうような微々たる物で、打たれながら様々な願いや思いを頭にめぐらせようと努めるのですが、余計な雑念は削ぎ落とされ本当に大事な思いしか頭に残らず、それだけを必死に強い思いで念じるというところが現実でした。まさに精神修行そのもの!


見た目では想像できない、上から肩や首を押し込んでくるかのような水の力!


滝行後には「写仏」が待っています。「写経」をご存知の方は多いと思いますが、写仏は書き写すものが経典ではなく、仏画だとお考え頂くと分かり易いかと思います。日石寺では、紙に描かれた不動明王のお姿を願いを込めながら丁寧になぞっていく事で、精神修行と功徳をいただくものです。参加者は数十分の間、集中して臨まれていました。


写仏し不動明王像は、護摩祈祷を行った後、後日特製のお守りにして渡されます


◆夜は宿にて、講師による講義

写仏のあとは、近くの天然温泉で冷えた身体を温め、この日の宿「料理旅館 大岩館」へ。日石寺本堂から階段を下りてすぐの場所にあり、明るくチャーミングな人柄の女将さんを慕ったリピーターも多い、築90年を超える木造3階建ての旅館です。禊を済ませ、心身ともに清らかな気持ちで美味しい夕食をいただきます。


夏は名物のそうめんを求める人で賑わう



夕食には翌日の門松作りの講師・山崎直樹さんが合流。山崎さんは門松作りの会場となる種地区のご出身。門松について講義の他、その土地の風土や自然、人々の暮らしについても興味深いお話をしていただきました。


門松の試作品を見ながら講師から説明を受ける

講師: 山崎 直樹(やまざき なおき)

1965年、富山県上市町東種出身。造園業に身をおくこと30年。町出身者で組織し『上市町をもっと好きになろう』をテーマに活動する団体「e’conte(エコンテ)」メンバーとして、門松や竹細工作りの講師を務めるなど活躍中。また、里山愛好家として、地元ケーブルTVの番組にて、地元の里山から3,000m級の山々を紹介するガイドとして出演している。


◆2日目はMy門松づくり!

2日目の朝食後、優しい女将さんに見送られ、いざ種地区へ。この日はなんと快晴! いやー、疑っていたわけではありませんが「晴れ女」は本当でした! 種は上市町でも剱岳の麓に位置する場所。到着すると、清々しい朝の冷たい空気の中、ドドーンと鎮座する雪を戴いた剱岳が! 一同ただただ「うわぁぁ…!」とうう感嘆の声をあげるのでした。


ガイドの澤井さんも「これが見せたかった!」と興奮気味


種において門松作りは、地元の方たちにとってこの時期の恒例行事。高齢化が進む集落で各家庭がそれぞれ作るよりも、みんなで集まって顔を合わせて今年一年の事などを話題にしながらワイワイ作業する方が、効率も楽しみも倍増ということで毎年集まっているそうです。この門松作りの指導的立場を担っているのが、今回のツアー講師であり、地元出身の造園家でもある山崎さんです。以前この地区を視察で訪れた際、この年間行事の門松作りのお話をうかがい、今回のツアー企画に繋がったわけです。

さて、会場の公民館(休校中の小学校校舎)に到着すると、既に地元の方々が門松作りを始められていました。皆さんにご挨拶しながら作業工程を見学したり、講師の山崎さんよりこれからの作業の説明を受けました。


種の朝は早い。集まる行事があればなおさらだ

講師から説明を受ける一同


会場には、地元の方々の他にも、最近種に移住して来られた若い赤ちゃん連れのご夫婦、ボーイスカウトの子どもたち、さらに取材のために地元の新聞社やケーブルテレビも来られていました。
地元の方々は毎年の事なので、それぞれの方がそれぞの作業分担を担い、協力し合いながらながらスムーズにかつ和やかに作業を進められています。門松作りを一通り見学させていただいたところで、地元の方々に手伝ったいただきながら、いよいよ私たちも門松作り開始です!


竹の表情が決まる大事な行程



参加者が覚えられるまで、丁寧に教えてくれる講師



男結び実践中!


「門松」はそもそも、実りと幸福をもたらしてくれる歳神様(新年の神様)の依台(よりしろ)として自宅の門に飾り付けられるものです。門松という名前の通り、あくまで「松」が主役なのですが、使われる竹の表情によってその門松の印象が大きく変わってきます。今回も竹を切ったり縛ったりという作業が中心となりました。


こちらでは地元のお父さんたちがしめ縄作り



作業の合間に、地元ケーブルテレビから取材を受ける参加者


竹は表面がツルツルしていて尚且つ1本1本が微妙に歪んでいるので、3本をまとめて縛るのが以外にも難しく苦労します。一方、わら縄を結び留める結び方”男結び”を教えていただいたのは、今後様々な場面で(?)活用できそうです。作業は「見学やレクチャーを含めて約3時間半で終了。もともとは小学校の職員室として使われていたお部屋で、お弁当と地元のお母さんたちが作った鍋料理の差し入れをいただきます。参加者女性は食事の合間に、公民館の館長さんから、かつてこの土地に存在した胸まで泥に浸かって田植えをした「湶田(あわらだ)」のお話などをうかがっていました。


地元の方たちは、やっぱり作業後のこの宴会が楽しみだそう!

湶田の資料映像に見入る、館長と参加者


そもそも今回のツアーで作るMy門松は、お持ち帰りできるようミニサイズを想定していましたが、今回参加者が作られたのは1m以上の小さくないサイズ…(笑)。どうやって持って帰ろうかという悩みが発生しました。

このツアーの為の打ち合わせにも参加した、上市町観光協会にインターンシップしていた学生さんの活動紹介

添乗報告記●富山県 滝行・写仏・森林セラピー エコツーリズムの町・上市で観光協会インターンシップ4日間(2017年9月)


しかし、さすがは造園家の講師山崎さん、手際よく布で梱包→わら縄で固定→手持ちしやすいよう竹製の取っ手まで装着! 持ち運ぶ際の重さはとにかく(参加者は根性で運びます!と気合十分)、これで持ち帰りの悩みは解決です。

いや~さすがにリュックでは持ち帰れないかと…
いや~さすがにリュックでは持ち帰れないかと…
これなら持ち帰ることができますね!
これなら持ち帰ることができますね!





いかがでしたでしょうか。

初日は「滝行」と「写仏」で今年一年の穢れを落とす禊をし、2日目は清らかな心身で自作の門松を地元の方々に交じって作り、それを持ち帰って自宅に飾り付け新年を迎える。

毎年12月になると「もう12月か…ということはあっという間に正月だな…」と受身で新年を迎えるのではなく、心身を清めて門松を自らの手で作り「よーし準備は整った、新年よ…早く私のもとに来い!」と、前向きに“迎えに行く”新年もなかなか楽しそうです。というよりも私自身も、持ち帰った門松を自宅で仕上げて飾り付ける楽しみがまだ続いています!

この企画は来年(2018年12月)も設定予定です。残念ながら今年参加できなかった方、もしくは「それじゃあ来年はやったろうじゃないかぁ!」という方、ぜひご検討ください。