前に進む勇気

*風のメルマガ「つむじかぜ」555号より転載


「人の目は気にしない」石田言行(いあん)氏は、学生に向かって何回もそのことを強調した。「そんなこと気にしていたら自分が損するだけです」彼は、自分が高校時代に周りの目を気にして好きなことをやめてしまった経験があり今でもそれを後悔している、と本当に悔しそうに語ってくれた。

「迷ったら前に進む」これも彼の原則のひとつである。立ち止まらない。立ち止まって何もしないでやり過ごすことは逃げているも同じ。前に進めば何かが見えてくる。そう眠そうに欠伸を繰り返す学生たちに力説する。「そうだ。その通り!」と、拍手をしたくなったのは私だけだったかもしれない。

ただ、彼の若さを羨ましく思う。最近、私は立ち止まって考えるようにしている。早計な判断は無用な混乱を招くと冷静さを装うことができるようになった。が、しかし、年を取って臆病になったことの証かもしれない。年配者は“保守的”だというが、正にその通りである。

彼に、亜細亜大学での講師をお願いしたのは半年ほど前である。何度か会って彼には哲学があると感じた。この春に、中野の会社にも来て貰ってスタッフたちとあれこれ2時間ほど話をしていただいたことがある。スタッフたちにはよい刺激になったようだ。(このことは、過日、ここに書かせて頂いた)

インターネット上で、trippiece(トリッピース)という話題の旅のサイトを運営する会社の代表取締役として活躍しているから、周囲からは、一歩距離をおいて見られるようだが、Tシャツ姿でデイパックを担いだ姿は、キャンパスを歩いている学生と区別がつかない。気さくで自戒的で実に爽やかな26歳の青年である。

授業の終わりに、この授業で『臨3311に乗れ』(城山三郎著、新潮文庫)という近畿日本ツーリストをつくった馬場勇氏の話を学生に読ませ感想文を提出させたところ、今ならブラック企業といわれるような馬場や社員たちの働き方に、多くの学生たちは、“昔は大変だった。今では考えられない”と書いてきた。石田さんはどう思うか、と私から彼に尋ねてみた。

思った以上にシビアな答えが返ってきた。「甘いんじゃあないですか。今は、厳しい競争社会。生き残っていくのは大変なこと。ブラック云々も捉え方によって違ってくる」。当然である。その厳しい答えに、学生は少々驚いた様子だった。実は、彼ら自身、そんなに甘くないことは、うすうす判っているが、今は、学生生活の“ゆるい”世界に浸っていたいということなのかもしれない。

「今は、厳しい競争社会」と石田氏はひしひしと感じているのだろう。それが少しは学生に伝わったとは思うが、私にとっても、とても良い刺激になった。「人の目は気にしない」、「迷ったら前に進む」この年齢になっても、程度の問題はあるにしろ、この勇気を失ったら終わりである。

★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。

シェアする