『海賊と呼ばれた男』を読んで

*風のメルマガ「つむじかぜ」642号より転載

8月は、戦争に関係する本を読むことにしている。今年は『海賊と呼ばれた男』(百田尚樹著 講談社文庫)を読んだ。戦争の話というより、一企業家の話だが、話の中で語られている輸送船の悲劇が印象に残った。

太平洋戦争も終盤になると物資を補給する輸送船は、護衛艦も何も一切つかずに輸送任務を命じられたが、物資補給を断つために米軍がこれを狙い撃ちにし、多くの徴用民間人が命を落とした。この話は、『虜人日記』(小松 真一著 ちくま学芸文庫)にも出てきたので知ってはいたが改めてその虚しさを感じた。加えて、インドネシアの石油などを確保するために、多くの日本人技術者が徴用され、これまた沢山の命が失われたことを知った。戦争には、隠された悲話がまだまだいっぱいある。

それにしても、凄い日本人がいたものだ。日本が戦争に負け、会社の全ての資産をなくし食うにも困った時に、一人も馘首することなく、逞しく会社を再興させていった出光興産の店主、出光佐三(小説では、国岡商店の店主、国岡鐵蔵)という人のスケールの大きさには驚嘆させられる。

特に、世界を牛耳る7シスターズ(7人の魔女)と呼ばれる石油メジャーと、徹底的に闘うその姿は、四面楚歌どころか周囲の同業者や国の肝いりの統制機関全部を敵に回しても、絶対におもねることなく堂々としたものだった。しかも「黄金の奴隷となるなかれ」と豪語し、誰はばかることなく、一商店の利益のためではない。日本のためだ。と堂々と言ってのけた。

イランが英国のメジャーに牛耳られ、激しく搾取されていた時、国有化を図ったイラン国王に、世界で唯一協力し、日本からタンカーを派遣した国岡鐵蔵は、世界中をあっと驚かせた。メジャーと闘う心意気を感じ取っての行動である。

もちろん、タンカーは英国に拿捕されるかもしれないという危険な任務を船長や乗組員に負わせることになったが、その任務を正面から堂々と受ける船長の豪胆さと船中で任務を聞かされ歓喜する乗組員たちの姿は、日本の復興は必ずや成る。と実感させるものであったに違いない。黄金の奴隷では、こんなことができるはずもない。

こういう本を読むと、つい自分の人生と比べてしまう。当然だが、自分の器の小ささを思い知らされる。私は、残念かな、大学を出るときに「志」と呼べるようなものを何ももっていなかった。当時は、社会のために何をなすべきか。などということには考えが及ばなかった。

しかし、今までのことを後悔しても仕方がない。これから何ができるかが問題である。少なくとも、そんな気分にさせてくれた一冊であった。


★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。


シェアする