シルクロードの旅 ラマダンなどのイスラム文化の影響は?

新疆最大のイスラム寺院エイティガール(カシュガル)は旧市街のはずれにある

新疆最大のイスラム寺院エイティガール(カシュガル)は旧市街のはずれにある


「ラマダン(断食月)」という言葉、多くの方は耳にしたことがあると思います。「イスラム教に関係していて、日中はお店も閉まっていて、みんなが断食しているんでしょ?」と思っている方も多いと思いますが、全世界に約15億人もの教徒がいるといわれているイスラム教では、この慣習が非常に色濃い地域も、そうでない地域も様々です。

シルクロード、中央アジアの旅行でも、ラマダン(断食月)の影響を心配する声が聞かれますが、この地域に関して言えば、観光に支障がでるほどの影響はあまりないと思っていいでしょう。
なぜかというと、実際中央アジアや中国の新疆ウイグル自治区などは、様々な民族が、それぞれ信仰する宗教に則って暮らしを営んでおり、イスラム教徒だけではないからです。

ラマダン入りの日というのは新月を望遠鏡で目視確認して決めます。その観測結果によって国や宗派ごとにラマダン入りの日がずれることがありますが、ご旅行に際し、ラマダンの日程を知っておきたいという方は、ご自身が旅行される国(エリア)のラマダンの日を個別に確認する必要があります。ニュースや新聞で「今日からラマダン入り」と報道されていても、実際にご旅行されるエリアでも同じ日程とは限りません。

ここでおさらい-ラマダンとは?

イスラム暦(ヒジュラ暦)の9月のことです。宗教上の命令に対して、責任を負うイスラム教徒の崇拝行為のひとつです。期間中、未明から日没まで一切飲食をしない「断食」をします。といっても、絶対に全員が断食をしなければいけないわけではなく、断食をするかどうかは個人の宗教意識にゆだねられています。(周りの人がみんなやっているからやる、という場合もあります。)ただし共同体によってはそれで宗教性やモラルが問われることもあり、特に田舎などでは村の誰もがラマダンをしているのに、ひとつの家から日中かまどの煙が上がっていると、非難の対象となるというようなことはあります。また、病気や仕事の都合で食事が必要な場合や、妊婦や小さな子どもは、断食しなくても咎められません。

シルクロードのラマダン

シルクロードは多宗教・多民族国家が多く、ラマダンらしさはあまり感じられません。中央アジアではロシア人、中国では漢民族はラマダンと関係がなく、そうした色々な民族と一緒に暮らしている都合上、特に都市部では断食をするイスラム教徒はそんなに多くないのです。
「じいちゃん、今年こそは断食するって言ってたな」とか、「嫁がダイエットのために断食を始めた」とか、実際に土地の人の言葉を聞くと、日本で報道されているような「断食月は宗教意識が高揚してイスラムの一体感が高まる」というような厳粛さとは違った印象を受けることも少なくありません。ただし、そんなシルクロードでもあくまでも断食というのは個人の宗教意識に委ねられているのですから、イスラムに敬虔な人々に出会ったらこのような戯言は禁物です・・・。真剣にイスラムと向き合っている方への配慮はお忘れなく。

ラマダン中のご旅行で注意すること

シルクロードの都市部(タシケント、アルマトイ、ビシュケク、サマルカンド、ブハラ、ヒヴァ、カシュガル、トルファンなど)ではほとんどラマダンの影響を感じません。日中レストランが軒並み閉まっていて食事ができないとか、お酒が飲めるレストランが見つからない、ということはまずありません。ご旅行への支障はほとんどないと言っていいと思います。

また私たちがシルクロードの旅で出会うガイドさんの中にもイスラム教徒がいますが、ラマダンだからと言ってツアー中も断食をする人はとても少ないです。断食をするかどうかは聞いても失礼にはあたりませんので、イスラム教徒のガイドさんであればはじめに断食をしていますか?と聞いてみるのもよいでしょう。もし断食をしているガイドさんであれば飴やお菓子をすすめることは避けたほうがよいですが、こちらの飲食には遠慮は要りません。断食をするかどうかは個人の問題なので、ツーリストが飲食をすることで周りの人の気分を害するということはめったにありません。ちなみに、都市部では、勤務先や学校などでランチを取ることを基本としたタイムスケジュールが組まれることもあり、断食を1ヶ月間やり遂げることはより難しくなっているようです。

イスラム教徒が多い田舎では、レストランが見つからなかったり、普段はお酒があるのにラマダン中は置いてなかったりする場合もあります。イスラム系のレストランを見分けるには、ウェイトレスさんがスカーフを巻いているかを見るのが一番分かりやすいです。スカーフを巻いていたら「お酒はありますか?」と聞かないほうが良いでしょう。普通はお酒はありますか?と聞いて「ない」と言われれば何のトラブルにもなりませんが、外から持ち込んでお酒を召し上がるような場合(たとえば日中にワイナリーで買ったワインを夕食に飲みたいなど)には、栓を抜く前に一言問題がないか聞いておいたほうが無難です。

とはいえ、現地のお酒を飲むことを楽しみにされている方も多いと思いますので、食事中にアルコールが飲みたい方はあらかじめガイドにその旨をお伝え下さい。なるべくそのようなレストランを探してくれます。

また、田舎の観光地では管理人が断食をしている場合、「もうすぐ日の入りだから閉館します」と言われてしまうことがあります。日没後は待ちに待った食事タイム。彼もお腹がすいているのです。田舎では楽しみにしている観光地や時間をかけたい観光地は夕暮れ時ではなく、なるべく午前中などがいいかもしれませんね。(都市部では問題ありません)こちらも心配な場合はガイドに確認をして下さい。

ラマダン明けの祭 ローズ祭(イード・アルフィトル)

ラマダンが明けると、お祭りです。祭りと言っても、何か特別な出し物があるわけではなく、その雰囲気は日本のお正月に似ています。断食をした人もしなかった人もこの日は親戚や友人の家に挨拶に回り、ご馳走を食べたり、ご先祖様のお墓参りに出かけます。この時期を狙って結婚式を挙げるカップルも多く、街ではバラやリボンで幸せそうに飾り立てた高級車の列を見かけます。

また祭りの日には特別な礼拝が行われます。普段1日5回の礼拝をしないけれどもこの日だけはなるべく礼拝に参加するという人もたくさんいますし(日本の初詣みたいですね)、普段は近所の小さなモスクで礼拝をしているけれども、この日ばかりは地区の大きなモスクにお祈りに行く、という人も多く、有名モスクの周りは礼拝に来た人々で賑わいます。なお、礼拝中は礼拝目的でなければモスクの中には入場できませんのでご注意を。

***************

シルクロードの国々では、様々な民族が独自の文化、風習を大切に暮らしています。イスラム文化圏のお祭や、ラマダンなど特別な期間では、いつもとは少し違った人々の暮らしを垣間見ることができるかもしれませんね。