モンゴルの大地の音色、馬頭琴とドンブラ

馬頭琴

モンゴルの伝統的な弦楽器「馬頭琴」

モンゴル語でモリンホールと言い、直訳すると「馬の弦楽器」。日本ではモンゴル民話「スーホの白い馬」でその名を知られました。
馬を家族のように愛するモンゴル人にとって、馬頭琴は深い愛着のある特別な楽器です。
馬頭琴の持つたった2本の弦を用いた演奏方法も独特で、下から弦を押し上げるようにして音階を作るのですが、奏でるのは音楽だけではなく、動物の鳴き声や風の音などモンゴルの大自然が生みだすさまざまな音を表現できるのがその最大の魅力かもしれません。
現在、モンゴルには大小さまざまな楽団があり、日本はもとより世界中でコンサートが開催されていますが、馬頭琴独特の、土臭い、素朴な音色は、モンゴルの大地で聞いてこそ。馬頭琴は近代楽器の音色とは異なる、まさに大地の音色です。

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白い馬の尾が馬頭琴の弦や弓に使われる

馬頭琴の由来といわれる話

その1「スーホの白い馬」

モンゴルの草原に、スーホという心の優しい少年が、おぱあさんと二人で住んでいました。ある日、少年スーホは生まれたばかりの白い子馬を拾い、心を込めて立派に育て上げました。やがて月日がたち、立派な駿馬となった白馬は王様の競馬大会に参加し、優勝します。
ところが悪い国王はこの馬を横取りしてしまいます。白馬と別れたスーホは、毎日白馬のことを思い出しては、悲しみの涙にくれていました。また、同じようにスーホに会いたい白馬は、王様から逃げ出すのですが、追っ手におわれ、血まみれになりながらもようやくスーホのもとへ帰りつくと息絶えてしまいます。
深い悲しみにくれるスーホ。ある夜、白馬は、スーホの夢に出て語りかけます。「悲しまないでスーホ。私の骨や皮や毛を使って、楽器を作って下さい。そうすればいつまでも一緒にいられます」スーホは、いわれた通りに白馬の体から楽器をつくりました。

この楽器が現在モンゴルで伝わっている馬頭琴といわれています。
悲しくも美しいこの話はモンゴル人と馬との絆の深さを伝えます。
が、実は、モンゴルでは意外にこの「スーホ」の話は知られていなくて、フフナムジルという若者とお姫様のお話が有名です。

その2「フフナムジル」

昔、フフナムジルという歌が上手な青年がいました。
18歳で徴兵されたある日の事、草原にある湖のほとりで歌っていたフフナムジルの歌声に王様のお姫様が聞きほれ、それがきっかけで二人は恋に落ちました。
フフナムジルが故郷に帰る事になり、別れを惜しんだお姫様は、フフナムジルに翼の生えた黒い馬をプレゼントしました。名前はジョノンといいました。ジョノンは風のごとく速く、フフナムジルは遠く離れたお姫様がいる街まですぐに行けました。フフナムジルは夜中にジョノンに乗ってお姫様に逢いに行き、朝家に帰る日を3年間も続けていました。3年間近く夜家にいないフフナムジルを不審に思ったある人が、黒い翼のある馬の存在をつきとめ、素晴らしい馬を持つフフナムジルに嫉妬し、ジョノンの翼をはさみで切ってしまいました。翼を切られたジョノンはすぐに死んでしまいました。愛馬ジョノンを奪われたフフナムジルは、悲しみに暮れました。しかし愛馬の存在を記念に残したいと思ったフフナムジルは、ジョノンの毛皮や尻尾を使って弦と弓を、木彫りで馬の頭を作り、楽器を作りました。これが馬頭琴といわれています。

※モンゴルでとても人気の高い馬頭琴の楽曲の中に「ジョノンハル」という曲があります。この曲の演奏で奏者の腕前がわかるといわれていますが、愛馬ジョノンの名前が由来です。「ハル」はモンゴル語で「黒」。黒い馬のジョノンが風のごとく駆ける様が、躍動感たっぷりに表現されている楽曲です。

ふたつの伝説からも、馬頭琴はモンゴル人の心とともにある伝統楽器であり、誇りだといえるでしょう。


各部の名前とその構造

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a. 馬頭
ネックの一番上にはまさにこの楽器のシンボルとも言うべき馬の頭の彫刻がついています。この部分は楽器ごとに工夫を凝らした意匠が加えられることが多く、目に翡翠をはめ込んだり、顔の白斑の部分に螺鈿(らでん)を埋め込んだりと、持ち主のこだわりが表現されます。
 
b. 共鳴箱(ボディ)
現在手にすることの出来る馬頭琴のボディはほとんどが木製で、モンゴルの場合はシラカバを用いることが多いです。旧来は共鳴箱の表にヤギや子ラクダ、子馬などの皮革を張っていました。
 
c. 弦軸
木で作られていて、弦をしめたり、ゆるめたりして音を調弦します。
 
d. 弦
内弦は高音用で、外弦は低音用です。伝統的な馬頭琴は馬の尻尾の毛を使用していますが、ナイロン弦の馬頭琴も増えてきています。いずれにしても細い弦を多数(馬の尾の毛の場合は70~80本以上、ナイロンの場合は100本以上)、束にして作られています。

e. 弓
弓も馬の尻尾の毛でつくられています。


ドンブラ

もうひとつのモンゴルの伝統的な弦楽器
古くからカザフ民族に伝わる「ドンブラ」

ドンブラは、古くからカザフ民族に伝わる伝統楽器です。
全長は1mほどで、果物の梨のような形状が日本は中国で使われている琵琶を連想させます。弦は2本の撥弦楽器で、昔はヤギの腸でつくった弦を使っていましたが、いまはナイロン製が主流になりました。
元々は古の吟遊詩人たちが抒情詩・叙事詩を弾き語っていたドンブラの旋律ですが、現在もカザフ族の日々の生活の中で即興の歌詞や愛する人への思いをメロディーに載せた弾き語りという形で愛され、受け継がれています。


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馬頭琴の練習(イメージ)

2013年はゴールデンウィークに特別企画として予定している「馬頭琴にふれる5日間」、8月31日発にスタディツアーとして募集を開始している「伝統楽器・馬頭琴を届けに行く旅8日間」と馬頭琴に関係するツアーを2本用意しています。名前は知っていても日本ではなかなかふれることのない馬頭琴の世界。以前から馬頭琴に興味はあっても、なかなかふれる機会のなかった方!ぜひこの機会に馬頭琴の世界をのぞいてみませんか?

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