インドラ・ジャトラ

*風のメルマガ「つむじかぜ」692号より転載

9月24日17時過ぎ、 ビドヤ・デビ・バンダリ大統領が前後を警備の車に挟まれ、一際大きな黒塗りの車でダルバール広場に登場し、旧王宮の正面で車を降りて歩いて中に入っていった。21日の「柱立て」から始まったネパールの大祭「インドラ・ジャトラ」MAIN DAYのオープンセレモニーが始まる。

私はお客様と一緒にシヴァ・パールバティ寺院のあの2神が顔を出す窓の下の階段に午後3時前から陣取っている。既に午後5時を過ぎて立錐の余地もない。人混みでも圧し負けないお客様たちは既に会場の中に散らばっている。

左手奥100mほどの距離にクマリの館が見える。その左手のバサンタプル広場は旧王宮の陰になって見えないが、会場に入るときに通ったらクマリ、バイラブ、ガネーシャの3台の山車が控えていた。そろそろ山車の巡行に先立ち生贄が捧げられるころだ。

右方向には本来はシヴァ寺院とナラヤン寺院が望めるはずだが、2015年の地震で崩れ、今は10段ほどの階段だけが残っている。もちろんそこもネパール人の群衆で埋め尽くされていて、その前の広場には、100人ほどの兵士が整列し旧王宮のバルコニーに大統領が登場するのを待っている。

先ほどから、シンバルを打ち鳴らしながら数組の楽団が踊りを交えて整列した兵士たちの周囲を練り歩き、「ジャン、ジャン、ジャン、、、」とその音が大きくなっていく。セレモニーはいよいよ最高潮に向かって熱狂していく。

右手から象の絵が描かれた獅子舞のようなプルキシ、左後方からはラケ(仮面舞踏)も現れ大きな歓声が上がった。しばらくして大統領と閣僚たちが白い旧王宮のバルコニーに現れた。控えていた3台の山車がクマリの館の前に進み出た。セレモニーは佳境に達し群集から歓声が上がる。バルコニーからは硬貨が投げられる。

3台の山車は右奥に向かって出発して行く。これからカトマンズの市内の巡行が始まるのだ。山車の上からはマリーゴールドの花が投げら、それを群衆は争って取り合い、クマリの顔を一目見ようと山車に群がる。プルキシとラケが山車の前方で群衆にもみくちゃにされながら踊り、楽団がシンバルを鳴らしながら山車の後につづく。

約3時間、プログラムもアナウンスも一切なく何が何時始まるかも分からない。バルコニーに現れた大統領からは一言の挨拶もない。いつ始まったのかも分からず終わりもない。

熱狂とカオス、これがインドラ・ジャトラそのものだ。いやネパールそのものかもしれない。熱気に圧倒され会場を後にした。


★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。


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