「てるみくらぶ」の倒産と弁済業務保証金制度

*風のメルマガ「つむじかぜ」620号より転載


モロッコのツアーで添乗する弊社のスタッフは、ドバイの空港で「てるみくらぶ」の団体によく遭遇していた。旅行代金は1人10万円。しかも新聞広告を頻繁に打ってこの値段である。弊社の原価よりもはるかに安い。どうやったらあんな値段になるんだ、と首を傾げることしきりだった。

財務内容が悪化した原因を、「昨年春から新聞広告を始めたが媒体コスト、経費がかさんだから。」と同社の山田千賀子社長は説明している。しかし、あの激安ツアーで新聞広告費用がペイされるはずがない。誰が考えても判る。

同社の新聞広告を見て「何故、そこまで安くする?」そんな疑問が業界内では投げかけられ、「経営は大丈夫か?」そんな言葉も囁かれていた。「何かカラクリがあるに違いない。ランドオペレーター(現地手配先旅行会社)に広告料を出させているのでは?」などという噂も飛んでいた。

結局、そんなカラクリもなく、ただただ博打を打ち続けていたということなのか。新聞広告は前受金を増やすための手段であり、足りない分は借入金でカバーするかランドオペレーターへの未払金を増やすかという構造だったように思う。恐るべき自転車操業だ。

山田千賀子社長は「こんなことになるとは全く思わなかった。資金調達を最後まで銀行等と交渉したが折り合わなかった。」とも語った。まるで突然倒産してしまったような語り振りだが、絶対にありえない。自分の会社がどんな状態かわからない経営者はいないし、倒産は決して突然やってくるものではない。

会社が債務超過に陥り立て直さなくてはならないときに、この社長は、採算を無視した激安ツアーを、新聞広告を増やして売りまくった。お客様には、申し込んだら3日以内に全額振込を要求し、カード決済は落ちないから現金で支払えと連絡した。最近は「現金一括払いキャンペーン」などと広告していたという。どう考えても金集めをしていたとしか思えない。

通常、経営者は、業績悪化に伴い経費を減らして不採算事業を縮小し、収支のバランスを取ろうと努力する。この人は、全く逆のことをした。その結果被害を大幅に拡大させてしまったが、そのことに対する反省の弁はなかった。憶測でものを言ってはいけないが、もし、単なる経営の失敗ではなく、詐欺的行為を意図して行い、個人的な蓄財等を行っていたとしたら絶対に許されない。

もう20年近く前になるが、1998年2月3日に「ジェットツアー」が倒産した時のことを思い出す。この年は、他に「四季の旅社」など次々と旅行会社の倒産が相次ぎ、成田空港で出発できないお客様が多数出て社会問題となった。旅行会社への不信感が募り、それの対応として「ボンド保証制度」が導入された。当然かもしれないが「てるみくらぶ」はボンド制度に加入していなかった。「何のための制度だ?」という議論も出てくるだろう。

「てるみくらぶ」の弁済限度額は1億2000万円で、旅行代金の1%程度しか戻らないとテレビで報じられ、制度そのものの不備も取りざたされている。しかし、この10年間、ほとんどの旅行会社の倒産は「弁済業務保証金制度」で100%弁済されている。悪いのは制度ではない。この山田千賀子という経営者である。どんな制度も犯罪まがいの行為を想定して設計すれば、誠実に事業に取り組んでいる99,9%の人々に大きな負担を強いることになる。絶対にそうなってはならない。

但し、登録制度にも財務要件があるのに、このような経営状態の会社を放置して被害を大きくしてしまったという管理上の不備はあるように思う。随時立ち入り検査行い財務状況の把握・対応を適宜行うことこそが必要だろう。中小の経営者からは、それはそれで大変だという声も聞こえてきそうだが、消費者の信用を回復させるためには何らかの手を打たねばならない。

経営者の一番やってはならないことは、会社を倒産させることだ。取引先にもお客様にもご迷惑をかけ従業員の生活をも奪うことになる。そうならないために必死に努力する。それが経営者である。それでも、倒産してしまうことだってある。しかし、そこに至るまでには経営者は多くの眠れぬ夜を過ごすはずだ。

私は、経営がどんなに大変か身に染みて感じている。だから同じ立場にある経営者を責めたくはない。しかし、どうにも今回は腹が立つ。まじめに苦しんで日々格闘している経営者が大勢いる。そのことをどうかお分かりいただきたい。

果たして、この山田千賀子社長は何のために旅行会社を経営していたのだろうか。疑問だらけである。


★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。


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