<神武東征あれこれ>
★第6回「古事記の神々をめぐる旅」は「神武東征」の物語を追って、奥大和・吉野・宇陀界隈を歩いてみます。「東征の事実はない。ゆえに欠史八代は架空の天皇たちだ」という学者たちの「文献になければ認めない」態度はずっと続いていますし、記録にある古代天皇の不自然な長命ゆえに「紀元二千六百年」を信奉するものもいれば、陳寿の「魏志」倭人伝のみを資料とみなす学者もいます。
古事記・日本書紀において、かなりの詳述を割いて記録される「神武東征」。この部分にこだわって、今回も旅をすすめてまいります。
戦前、津田左右吉が神武の出発地が南九州で「豊かではない地域だから」ということにより、東征の事実を否定しました。しかし本当に九州南部は「貧しい」地域だったのでしょうか。
★記紀によれば「天孫」として南九州に降臨した軍事勢力は、北上し、宇佐神宮に寄り(=在来勢力と合同し)、瀬戸内海を通過して、大阪湾から上陸します。そこで「トミのナガスネヒコ」と一戦を交えますが、この新興武装勢力は、ヤマトの在来勢力に敗北し、武装集団の指揮官「イツセの命」は戦死してしまいます。
このような「事実」を後世に残していることこそ、記紀の「正直さ」(真実という意味ではない)をあらわしているように思えます。記紀は敗戦、しかも総指揮官を失うという完敗を描きます。
大阪湾岸において決定的な敗北を喫した南九州東征軍はリーダーを失いました。本来ならば雲散霧消したはずなのに、名も無き男が、残りの軍団を統率して半島の西から再上陸し、ヤマトを目指します。ヤマトには、「クメ」という地名が存在し、今も宮中に伝えられる歌舞から、南九州の軍事勢力「クメ」(熊襲あるいは隼人)が大きな力を発揮したことも読み取れます。そして書紀はきちんと書き残します。「道の臣」という称号をもらった「クメ」の指揮官が女性であったこと。そして当時ヤマトにも「女軍(めいくさ)」なる女性軍団が存在したことを。イツセ彦が戦死したことを正直に語り、東征記録を残しているところをみれば、イワレヒコを名乗る「神武」こそがヤマトのあたらしい「大王」として在来勢力を駆逐し、男王支配の政権を開始し、のちの数代は、ヤマトの政治形態であった「女王」支配を「男王」支配に変えていったのではないでしょうか。
すなわち、ヤマトの巫女は、あいかわらず「女王」としての地位を保ちますが、領土がかつてなく広大になるにつれ、当初ヒメミコの「弟王」として国内行政を支配していた「男王」の地位は強大になり、やがて国家の実権を握ります。
その「移行」時期こそが欠史八代の時間だったのではないか。
★ほぼ同時期に朝鮮半島で新羅、百済が自立したように、極東地域の列島においては「倭人」の独立国家が生まれます。その後、大陸からの騎馬軍団をとりこみ、ユニークな墳墓のデザイン(前方後円墳)をシンボルとして、「大和」政権の統一に成功し、周囲に旧豪族を配して、全国的な覇権を完成させた「ヤマト朝廷」。
今回の「古事記の旅」では、この「イワレヒコ」のヤマト攻略戦を、吉野や、宇陀など「東征」における重要ポイントと目される古跡をめぐって考えます。そこには、イワレヒコ以前の「ヤマト」の古代からのすがたも立ちあらわれることと思います。
千八百年前。イワレヒコが率いた「天孫軍団」の孤独なたたかいと、かれらに力を寄せた古代からの「ヤマト」勢力のあとをたどってみようではありませんか。
★今回の旅の中心は、奈良県「宇陀市」です。室生、榛原、宇陀野、大宇陀の平地を山々が囲み、大半が森林となります。今は「女人高野」として有名な室生寺界隈も、じつは神武以前のヤマトの勢力範囲だったことでしょう。やがて仏教の伝来とともに、さまざまに移り変わる吉野かいわいは、朝廷の隠れた「裏庭」でした。往時の時間と、その経過を体感してみましょう。

ファンタジー作家
芝田 勝茂 (しばた かつも)
石川県羽咋市生まれ。児童文学作家。著書にファンタジー『ふるさとは、夏』(福音館文庫・産経児童出版文化賞)『ドーム郡シリーズ三部作』(『ドーム郡ものがたり』『虹への旅』『真実の種、うその種』日本児童文芸家協会賞他・小峰書店)古典に題材をとった『サラシナ』『虫めずる姫の冒険』(あかね書房)。また近未来を描く『進化論』『星の砦』(講談社)がある。編訳に『ガリバー旅行記』『西遊記』『ロビンソン・クルーソー』子ども向けリライトに『銀河鉄道の夜』『坊っちゃん』(学研)伝記『葛飾北斎』(あかね書房2016)『織田信長』(学研2018)など。『空母せたたま小学校』シリーズ(そうえん社2015-2016)や『ぼくの同志はカグヤ姫』(ポプラ社・2018)では近未来と古典文学が融合する、ユニークなファンタジー世界を描く。日本ぺンクラブ会員。
2013年から2018年まで『縄文サマーキャンプ』を山梨県で個人主催で実施した。
HP『時間の木』http://home.u01.itscom.net/shibata/index.html





