風ものがたり -ポリシー編-

5月後半に、若手スタッフを中心に社員のモンゴル研修を行いました。2班に分かれ、期間はそれぞれ一週間。6名がこれに参加し、自社で作っているコースの下見と、乗馬の際の注意事項の確認や添乗員として身につけておきたい乗馬技術の向上を計ってきました。モンゴルは夏の7、8月にお客様が集中されます。その前に、風のスタッフが現地の実体験を少しでも多く積み、お客様により適切なご案内をしたい。そんな思いで、今回の研修を行いました。また、スタッフが現地の事情に精通し、現地での手配の流れを知ることは、普段の予約業務に欠かせない要素です。そして、こうしてスタッフを育てていくことが風のポリシーでもあります。

■商品作りのポリシー
風の旅行社では、現在モンゴル、ネパール、チベット、ブータン、南米、中央アジアに力を入れ、ツアー造成及び、個人手配を行っています。基本原則は「自家製造自家販売」です。勿論、現地の手配は、提携先の現地旅行会社が行うわけですが、私たちと一緒に、よりよい商品をつくりたいという意向を持ったところと深くおつき合いをしています。

1 現地の下見をスタッフが足を運び綿密に行う
商品作りの大原則です。お客様からしたら、「え?そんなの当然でしょう」とおっしゃるかと思いますが、実際のところ、現在の旅行業界は分業が進み、企画担当者が現地に赴いて下見までして商品作りをするということは、むしろ少なくなってきています。

2 現地旅行会社と直接取引を行い、共同で商品を開発する
お客様を現地で実際に受け入れる旅行会社のスタッフや、ガイドの人たちと直接話し、どんな旅行を作り、どんな風にお客様を迎えるかをじっくり話します。日本からの予約も、直接、この現地の旅行会社に行います。従ってお客様と風の旅行社、そして、現地旅行会がそれぞれ直接関係を持つことになります。こうなると、現地の問題点やお客様からのアンケートでのご指摘をそのまま現地に伝え改善していくことができます。また、万一のトラブルに対しても迅速な対応ができます。そして何よりも重要なことは、現地のスタッフと共同して商品作りをしていくことで、信頼関係が生まれ、お客様を心から大切にすることの重要性を共有できるのです。

3 可能ならば現地に支店を開設し、自社オペレーションを目指す
現在、カトマンズ、ウランバートル、バンコクに支店があります。風の旅行社では、添乗が付かなくても、極端に言えば一人参加でも、ツアーに行って頂きたいと考えております。そのためには、現地の受け入れ態勢をより充実させる必要があります。その国、その地域の事情により支店を開設することが困難な場合もありますし、マンパワーにも限界があり取り扱う地域すべてに置くことは不可能ですが、可能な限り現地拠点を持つことで、オンリーワンのホスピタリティーを確立したいと考えています。

4 支店の運営は現地スタッフが責任をもって行う
現在、各支店は現地スタッフが責任をもって運営する態勢をとっています。日本人スタッフは、ピーク時に臨時駐在として出かけることはありますが、常時日本人スタッフを置いて運営を日本人が行うということはしていません。前号で詳しく書きましたが、ネパールは、現在では20人のスタッフが各自の責任をきちんと果たし、お客様のお世話を最後まで責任をもって行う態勢が採れています。モンゴルはまだスタートしたばかりですが、社長のハグワは、一年半東京の風の旅行社の事務所で働いておりました。彼との信頼関係があって初めて支店開設までこぎ着けることができました。
私たちは、旅行という仕事を通して現地スタッフとの対等な関係を築き、彼らとの信頼関係を作って行くことが、大きな意味での国際交流だと考えています。彼らに、経済的な自立を自らの力で勝ち取り、その国の人間としての誇りを大きくもって欲しいと思っています。日本とは経済的な格差がかなりあります。日本人もアジアの人々を下に見る傾向があります。私たちは、ビジネスパートナーとして、きちんとした仕事をすることで結びついています。こうした、対等な関係ができお互いが責任を果 たして初めてお客様に満足いただける商品になると確信しております。

5 専門性の向上と初心
全員のスタッフが全コースを実地踏査していること。これが理想ですが、実際は不可能です。前述しました「モンゴル研修」のように、なるべく現地体験を踏み、併せて日頃の学習を積んでいます。また、現地からの新しい情報の収集に努めております。弊社にいますと、一年中ネパール、モンゴル、チベット、ブータン等々の情報が飛び交います。専門性の向上のあまり、初めてその国に行かれるお客様の不安を、お客様の目線に立って一緒に考えられるか、自分だって初めての時は不安だったはず。そんな初心を忘れず日々努力してまいります。

6 自社添乗
可能な限り、自社のスタッフが添乗いたします。決して、専業の添乗員の方が良くないとは思いませんが、お客様に直に接し、お客様からおしかりを受けることもありましょうが、それを商品作りに活かしよりよいものにしていくことが大切と考えております。またスタッフ自身も、旅行業の仕事に付いたからには、一貫してお客様と接したいと考えております。

■旅行を作る喜びと責任
「風の旅行社は旅行を作るメーカーたれ」と私はよくスタッフに向かって言います。街のラーメン屋さんのように、素材にこだわり、目の前のお客様の反応を感じながら、よりよい商品を手作りで作っていく。これが信条です。
私は、旅行は、「商品」だと思っています。本当に、その国のことをお知りになりたければ、長期に亘って陸路で旅行し滞在をして現地の友人を作れば良いでしょう。しかし、現実にはそうしたことができる方は少ないし、そうした旅行のお手伝いを旅行会社がするとすれば、航空券の手配ぐらいになってしまいます。それはそれで勿論良いわけですが、私どもが手がけているツアーは、その国のいろいろなエッセンスを、私どもが組み合わせ演出をした「商品」なのです。どう演出できるか、それが私どもの仕事であり喜びでもあるわけです。「商品」というとなんだか作られた架空の世界と受け取られがちですが、短い時間ながらもよりその国らしさを体感できる内容にし、現地の人との交流ができるか、それがテーマになっています。
また、旅行の作り手としての責任をどう果たすかも大き課題です。特に安全管理上の問題が大切です。私どもが扱う地域には、高度3,000m以上の地域が数多く存在します。ネパール、チベット、ペルー、ボリビア等々です。高山病対策は絶対に欠かせません。そのために、緊急加圧器、血中酸素濃度測定機、酸素ボンベなどを用意しています。また、風のスタッフや現地のガイドの高山病講習を実施したり、夏のピーク時には、チベットに日本人及びネパール人の駐在員を派遣しております。また、高所に行かれるお客様には、小冊子「高山病傾向と対策(遠藤晴行氏監修)」をお配りし、事前のご説明を行っております。
モンゴルにおいては、乗馬に於ける落馬事故が予想されます。お客様2人に対し、1人の遊牧民をつけて、馬の暴走を防ぐ対策を採っています。(通 常は5人に1人の割合です。)また、海外旅行傷害保険への加入を極力お願いし、「チベット安心プラン」「モンゴル安心プラン」を作成しお薦めしています。また、旅行業者の責任を果 たすために、事故の際に弊社からの補償や、救援活動に必要なお金が一定の範囲ですが手当できるようにしております。勿論、「事故を起こさない」が基本ですが、旅行にリスクは付き物です。万全の対策を講じるよう努めて参ります。

風の旅行社が目指すもの
弊社の商品をご覧になったお客様から、「秘境を扱われているんですね」とよく言われます。客観的に見るとそうかもしれません。しかし、私たちは、パンフレットでも「秘境ならお任せ」のような表現は使いません。取り立てて明確な理由があるわけではないのですが、どうも抵抗があります。ネパールなどは、世界中から、一年間に約35万人の観光客が訪れます。とても秘境とは言えないし、なんか、現地の人々のことを考えるととても失礼な感じがします。もし逆の立場にたたされて、「秘境日本の……」と言われたらどうでしょう。なんだかとてもプライドを傷つけられた感じがします。
弊社は、一地域に絞った専門店でもないし、山登りなどの一つの目的に特化した旅行会社でもありません。戦略的に、大手旅行会社と同じことをやっていても生き残れないから、大手があまりやらないところをやろう。という発想はあります。しかし、実はスタッフが好きな地域で、自分たちにしかできないオリジナルなツアーが作りたいという思いの結果なのです。ですから、今後も、好きな地域で、自分たちで面白いことができ、収益性が見込めれば、いろいろ挑戦してみたいと考えています。お客様に楽しんで頂くためには、まず自分たちが好きになり、楽しめなければだめです。現に様々な試みをしております。しかし、何せ上記のような商品作りをして行きますので、なかなかそう簡単には進みません。でも、是非ご期待を頂きたいと思います。

※風通信No4(2000年7月号)より加筆転載

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