希望へ歩み出すネパール

1月末、GOOD NEWSが飛び込んできました。1月29日にネパール政府とマオイストが停戦に合意したというのです。以前にも和平交渉に入ろうとしたことはあったが、具体的な条件が十分に話し合われなかったため、双方の信頼感が醸成されず、マオイストが一方的に停戦を破棄した経緯があります。今度は大丈夫か? 半信半疑のまま「今度こそ成功を」と祈る思いが続きました。

ネパールの新たな平和の光

3 月13日、ネパール政府とマオイストは22項目に登る和平交渉開始のための条件(停戦期間中の行動規範)について合意を見ました。同日、カトマンズ市内のホテルで、政府側のプン公共事業大臣とマオイスト側のマハラの2氏が共同記者会見を行いその内容を発表しました。これで和平交渉の前提が整いました。今度こそ期待して間違いはないだろうと私は思います。何故なら、この22項目には、双方が、話し合いによって和平的に解決に努め、暴力的活動と治安部隊出動の停止、拘束された人間の解放、ストライキや交通ストを行わないことなどが具体的に明記され、しかも、マオイストナンバー2のバッタライ氏とプン公共事業大臣が署名し記者会見まで開いて公にした経緯を見ると、この間の話し合いである程度合意の目処が付いたのではないかと推測されるからです。

やっと光明が見えてきました。本当に嬉しいことです。ネパールの貧困の問題が一挙に解決されるわけではないと思いますが、少しでも良くなってほしいと思います。
一昨年の11月「非常事態宣言」が出され、ネパール全体が不安に打ちひしがれてきました。観光客がめっきり減り、ホテル、レストラン、お土産物屋、旅行会社など観光業は言うに及ばす、ネパール全体の経済が大きな打撃を受け、庶民の暮らしは厳しさを増していきました。そんな中、風の旅行社では、マオイストは無差別テロの方針はとっておらず、通常の観光ルートであれば争いに観光客が巻き込まれるようなことはないと判断しツアーを実施してきました。現に、そうしたことは一度も起こりませんでした。

ネパール支店スタッフの笑顔

こうした状況の中、2月19日から、私はネパールを訪れました。確かに観光客は少なく、ホテルもレストランも入りが悪いと嘆いていました。しかし、以前訪れた時のような「ネパールはどうなってしまうんでしょう」と落胆していた人々が「こんどこそ良い方向に向かう」と期待を膨らませ元気になっていたのが感じられ安堵しました。
この2年間、風の旅行社を利用してネパールへ行ったお客様は、嘗ての約40%減と収益面から考えて大きな打撃を受けました。しかし、それでも、400人以上のお客様が今シーズンでもネパールに行ってくださっています。弊社の支店NEPAL KAZE TRAVEL (NKT) も経営的に余裕はないかも知れませんが、心配するほどの数字ではありません。むしろ、私は彼らの精神的な不安や動揺を心配してきました。というのも人間、「忙しい」とぼやいている時の方が元気なものだからです。仕事が少なくなって暇になれば楽になるかというと決してそんなことはないと思います。今まで、九分九厘なかったガイドに対するクレームも2件起きました。「どうしたんだNKTは! モンゴル、ブータン、チベット、タイなどの風グループのお手本であり、風の旅行社の原点のはず。しっかりしろ」と私もキツイ口調で現地にメールを流しましたが、そんな私の檄も彼らは、しっかりと受け止めてくれました。
今回の私の訪問の最終日前夜に スタッフと会食をしました。ガイドばかりではなく、経理のスタッフ4人まで顔を揃えました。総勢18名、現在NKTには 24名のスタッフが働いていますがガイドに出ている者の他はほとんど集まってくれました。司会が「みんな一言ずつ言おう」と水を向け、普段は、あまりそんな機会はなかなかないので流暢には行きませんでしたが、皆それぞれ気持ちがこもったトークが聞けました。NKTの自慢は発足メンバー以外にも、10年近く NKTで働き続けてきたベテランスタッフが大勢いることです。NKTは風グループの中では最もスタッフの定着率が良いのです。19歳から入社したスタッフも現在では結婚し、父親になっています。そんなスタッフが「大丈夫です。今まで10年以上この仕事をしてきたんですから、これからも頑張れます。もっともっと良くしていきます。心配しないで下さい。」と私の杞憂を吹き飛ばしてくれました。2,3年目の会社なら、こうは行かないでしょうが、彼らの経験が将来への自信につながっていると感じました。なんと精神的に逞しいことか。逆に「日本は大丈夫ですか」と心配されてしまうくらいでした。
もちろん、彼らの心の中に不安がないと言ったら嘘になるでしょう。「今度の停戦交渉がだめになったらネパールは終わりだ」と彼ら自身も他のネパール人も言っています。しかし、彼らは「ネパール人は最終的には手を結ぶんだ。徹底的に戦うことはしないよ。」とも言います。そこら辺にネパールという国の曖昧ながらも融和していく国民性が表現されているように思います。合理的な思考でも米国流のプラグマチズムでも到底図れない。それがネパールという国です。ネパールの伝統と文化は、ネパール人の心の中に脈々と生き続けていると感じました。

昨日(3/20)イラク攻撃が始まりました。北朝鮮の問題もあります。ネパールで折角光明が見えてきたのに、とんでもない世界情勢が目の前に迫ってきました。人間の歴史は人と人との争いの歴史でも在ります。何時になったら人間の愚行は終わるのか。我々もネパール人に敗けず劣らず精神的にタフにならなければやっていけない時代と思います。
平和を祈り自分たちにできることを最大限やって行くだけと改めて肝に銘じました。

※風・通信No15(2003年夏号)より転載

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