チベットツアー再開に向けて

終わらないチベット問題

北京オリンピック期間中、純粋に競技に集中することが出来ず、絶えず中国関係のニュースが気になりました。もし、北京オリンピックで深刻なテロが発生すれば、その影響は早々には払拭できないと予測されたからです。
3月にチベットで大規模な騒乱が起きて以来、チベットのツアーが出来なくなり、長年お付き合いしてきた西蔵那曲雲珠探検旅行社(TNY)は開店休業状態でした。それでも6月25日、チベット自治区旅遊局が外国人の受け入れを再開したので、ヨーロッパからお客様が来るようになり、少し仕事が入り始めました。しかし、経営的なしんどさに変わりはありません。何とか早くツアーを再開して彼らを元気にしてあげたい。そう思い、オリンピックが終るのを待ちました。
7月16日から10日間、3月までチベットに駐在していた弊社の駐在員がチベットに入り、その様子を見てきました。既に落ち着きを取り戻し、ツアーを行う上での支障はないと報告を受けましたが、それでもオリンピックが終るまでは待とうということになりました。外務省も、オリンピックが無事終われば、チベット自治区に対する海外危険情報を「渡航の延期をお勧めします」から「渡航の是非を検討してください」以下にレベルダウンさせるだろう。と考えたからです。しかし、 9月1日現在、その気配はありません。
外務省の海外危険情報は、「十分注意」「渡航の是非検討」「渡航延期勧告」「退避勧告」の4段階で出されます。 2001年の9.11米国同時多発テロまでは、この危険情報は現在の十分注意を「危険度1」として数字でレベル分けされていて、「危険度2」(現在の渡航の是非検討)が出されるとツアーは実施できないという国土交通省の通達がありました。しかし現在は、ツアーを実施するか否かは各旅行会社の判断に委ねられています。何事も国は責任を取らない。自己責任でやりなさい。ということになったのです。また、日本旅行業協会は内規を作っており、渡航の延期勧告以上はツアーは実施しないとしています。弊社もこれに従ってきました。しかしこの内規は、会員を強制するものではないと明記されており、あくまで一つの基準を示したものです。

チベットツアー再開の決断

弊社は毎日現地と連絡を取り合い情報を交換していますが、現在チベットは治安上ツアーができないような条件はないと判断しています。もし懸念されるとしたら、何かあった場合に日本人が混乱に巻き込まれるということです。しかしそれは突発的に大規模なデモが起きるわけではないので、事前の情報収集を怠らなければ十分回避できるはずです。また、日本人や外国人を狙ったテロや無差別のテロは全く起きていませんし、それを宣言している団体もありません。にも拘らず、外務省の危険情報が渡航延期勧告のまま変わらないのは、政治的な問題としか考えられません。

弊社は、駐在員を早々に再派遣し、もう一度チベットの現状を調べ、ツアー実行に必要な弊社の下記条件を満たしていれば、実施に踏み切ることにしました。

風の旅行社募集型及び受注型企画旅行実施基準(ツアー実施基準)
1)航空機が通常通り運行していること
2)現地のライフラインが機能していること
3)ホテル、レストラン、観光地が通常通り営業していること
4)交通機関、チャーターバス・車等の運行に大きな支障がないこと
5)外国人をねらったテロまたは、無差別テロが起きる可能性が予見されないこと
6)危険とされる日時(デモや集会など)を避けることができる
7)危険とされる場所(デモや集会など)を避けることができる
8)宿泊場所や、コースの変更で、危険回避が可能であること

もちろん、万一何かあった場合に備えて、利用ホテルはデモなどが起きそうな街の中心街を避ける。また、お客様と常に連絡が取れる手段、環境を確保することが当然必要です。そして最も肝心なことは情報収集を更に徹底させることです。また、お客様には外務省から危険情報が出ている旨お伝えし、弊社の対応を提示し納得して頂くことが実施の条件になります。夜間の外出や単独での行動はできないので、その点お客様にもご協力を仰ぐことになります。

旅行会社判断の難しさ

過去、弊社もツアーを中止したことがあります。9.11米国同時テロ直後に、パキスタンへ行くお客様を成田空港で止めました。SARSの時には現地の大混乱が予想され、ゴールデンウィークのチベットツアーを出発前日に止めたこともあります。いずれも現地の情報を直接収集し、弊社のツアー実施基準に照らして判断してきました。旅行代金は全額返金しなくてはなりませんから経営的には苦しい判断です。しかし、お客様の安全確保を第一に考えれば当然のことです。今回は逆に実施すると判断するので、より一層慎重に準備をし対応して参りたいと思います。きっとこの原稿が風通信に掲載される頃は、チベットのツアーを再開していると思います。どうぞ、ご理解下さい。

※風通信No35(2008年10月発行)より転載

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