三文の得

*風のメルマガ「つむじかぜ」722号より転載

2階にある改札につながるエスカレーターの入り口のシャッターがまだ降りていた。駅前のバス停のベンチに座り待っていると、すぐに背後でガラガラと音がしてシャッターが開いた。シャッターの前で待っていた数人が、開けてくれた駅員に“おはようございます”と一様に挨拶してエスカレーターを上がって行った。夜が明けたばかりの爽やかな朝が、きっとそうさせるのだろう。私も、“おはようございます”と挨拶し、改札に向かった。流石に朝一番の電車に乗る人は少ない。一車両に数人である。こんな気持ちのいい穏やかな気分は久々だ。

NHKが、『始発物語』という15分間の番組を3月に始めた。始発に乗る人に、何故始発にのるのかと、つぎつぎとインタビューしていく。ただそれだけの内容だ。たまたま、第2回目の都電荒川線の三ノ輪橋駅を見た。都電の始発駅である。都電はあまり乗ったことはないが、南千住、三ノ輪は、足立区に住んでいたころ何度かいった。

「仕事!」「早いですねえ」「朝早い仕事だからね!」「どんなお仕事ですか?」「清掃! もう30年。ずっとやってる」「いつも始発ですか?」「そう!」こんな感じである。始発に毎日乗る人同士は顔見知りになっていて、乗車までの少しの時間に何気なく声を掛け合う。

小平で高田馬場行きに乗り換えた。ラッシュとはいわないが、もう座れない。一挙に朝の清々しさが吹き飛んだ。朝早く起きることが苦にならず、夜遅いことに疲れを感じるようになった。早起きは三文の得というが、得はなくてもいいから穏やかな気分になれる場所に住みたいものだ。

★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。

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