冷夏

*風のメルマガ「つむじかぜ」731号より転載

こんなに涼しい7月は、記憶にない。暑いのが苦手な私にはありがたいことだが、冷害が心配だ。調べてみたら、1993年が冷夏で、東北や関東の太平洋側を中心に米の被害が相次ぎ、タイや米国などからコメを輸入して「平成の米騒動」と言われたという。確かに定食屋でも、タイ米が提供された記憶がある。
ことしは、野菜に関しては懸念されているが、米は今のところ心配されていない。何故なら、1993年に被害を出したのは、主にササニシキ。ササニシキは寒さに弱い。その後、品種改良が進み、寒さにつよい“ひとめぼれ”がサニシキにとって代わったからだ。
そういえば、ササニシキの名をしばらく聞かない。実は、米に関しては寒冷地に強い品種が次々と出てきて、今では北海道が日本第二位の産地になっている。主な品種は、“ななつぼし”。なんだか妙だ。ななつぼしは、JR九州のクルーズトレインの名称としても使われている。
冷害という響きは、「出稼ぎ」という暗いイメージに重なる。小学校の5年生の社会の勉強だったろうか。授業で扱われた冷害は、比較的温暖な南信州の商家に育った私には、実感が伴わなかったが、その結果、出稼ぎで家族が離れ離れになるという現実には、暗澹たるものを感じた。
台風とか地震とかの災害と違って、本来、南国の作物のコメを寒冷地でも作れるようにしようという自然の摂理に逆らった人間の無茶な行いを、嘲り笑われているような印象を受けた。しかし、同時に、じっと耐えながら品種改良で自然に立ち向かう農業改良委員たちの話も強く印象に残った。農業は、それほどに日本人の生活を支える大切な営みであったはずだ。
今日はだいぶ気温が上がってきた。東京も30度まではいかないものの蒸し暑い。そう思っていたら、今度は台風が沖縄に迫ってきた。九州は今年は雨にたたられているが、どうやら、今度の台風も九州に大雨をもたらすらしい。
日本は、本当に災害の多い国だ。梅雨や台風は、毎年来るものだと分かっていても、毎年、死者が出るような被害が出る。堤防を強固にし更に高くして、“百年に一度の大雨”となると空しい抵抗に思えてならない。何かいい方法はないものだろうか。

★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。

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