チベット・ラサ自転車ツアー
スローに走って、ディープな発見

風のツアーや講座に欠かせない各方面の専門家や各地に精通した達人の皆さんに自分のフィールドの魅力を語っていただく連載の第11弾。今回は、ゴールデンウィークに催行したチベット・ラサ自転車ツアーに講師として同行、日本国内でも自転車の楽しさを多くの人に伝えるべく、日夜活動している丹羽隆志(にわ・たかし)さんに自転車で旅する魅力と知られざる機能(?)について語っていただきます。

右の写真、何の匂いを嗅いでいるか分かりますか?

ヒント1 場所はチベット
ヒント2 生活に欠かせないもの


答えは、ウ・ン・コ!
ヤクや牛、馬などの家畜のウンコに、刈り取った後の麦の茎を混ぜて水で練って、直径30cmくらいの円盤にして、壁などにペターンと貼り付けて乾燥させる。チベットの農村では当たり前の風景です。チベタンたちはこれを、日々の暮らしの燃料として(多分、何百年も?)使っています。木がないところだからこうするしかないといえばそうですが、いつかは枯渇する、石油などの化石燃料を使うことを思えば、完璧なリサイクルですよね。
ボクは1986年に初めてチベットを訪れ、その後も自転車で(クルマが入れないのです)、とある村のひとつの家族のもとに通 い続け、ウンコ練りも20年近くのキャリヤとなりました! というと多くの人は顔をしかめますが、そんな人にこそ、一緒に練って欲しい。草食動物のウンコって、実は臭くないのです。臭いのは雑食のヒトやイヌなど・・・。

自転車に乗ると、村人との交流機会が多いのです

と、ウンコネタで引っ張ってスミマセン。でも、ボクの思うチベットの魅力は、やっぱりそういう生活からにじみ出てくるものなのです。2005年のゴールデンウィークに行った自転車ツアーでは、そんな体験をしながら村々を訪ねることがテーマでした。
これを読んでいる皆さんの中には、チベットに行ったことがある人も多いかと思います。バター茶は飲みましたか? ツァンパは食べましたか? バター茶もツァンパも、彼らの暮らしに欠かせないもの。日本でそれを出されると、ちょっと躊躇してしまいますが、でもせっかくチベットにいるのだから、中華じゃなくって、彼らの日々の食べ物を口にしてみましょう。
この自転車ツアーでは、あちこちで出会った村人に招かれて、バター茶をご馳走になりました。ツァンパを振舞われ、「こうやって練るんだよ」といわれながら(言葉は推測!)、バター茶と混ぜて練って食する。そのうちに自分たちの持っているナッツなどを混ぜてオリジナルツァンパを作って、チベタン達に味見させ、大爆笑(ウマイのかマズイのか?)。そんな村人との交流の日々でした。

自転車に乗ると、新しい発見がドドーッとやってくる

ボクはペダルを踏んで、風を受けながら、いつもそう感じます。上に書いたラサの郊外の村は、ラサのちょっと郊外。秘境でもなんでもないところです。でも観光客が足を踏み入れるようなエリアではないので、恐らく村人たちにとっては初めてのガイジン(?)。好奇心いっぱいで、寄ってきたのでしょう。
そして自転車に乗っているということは、言い換えればカラダをさらけ出して村を通 過しているわけで、だからこそ、オバアチャンに手を振れば、照れながら手を振り返してくれるし、子供たちは束になって追っかけてくる。とにかくチベタンたちとのコミュニケーションのきっかけが多いのが、自転車の旅の魅力といえるでしょう。
でもアプローチが自転車というだけで、こんなに発見がいっぱいのは、チベットに限ったことではないのです。住んでいる家の近所でも同じ。東京だって、自転車に乗ると違って顔が見えてくるのです。
例えば国会議事堂の前って、坂道ですよね? クルマでは気にも留めないことですが、坂があれば自転車では気になる。実は江戸以前、坂の上は陸、下は海だったのですが、埋め立てて辺りを陸地にした名残がそこにあるというわけです。
あるいは住宅地の裏山のような里山にも、細い道が続いています。そんなところはマウンテンバイクで楽しむのにピッタリ。かつてこの道は、里の人々が、生活物資を背負って歩いたのかと思うと、想像力がかき立てられてワクワクドキドキ。その意味でボクは自転車のことを「タイムマシーン」と呼んでしまいます。
走る楽しさ、風を受ける気持ちよさはもちろんですが、想像力を膨らませ、好奇心をかき立ててくれることが、自転車の楽しいところじゃないかと思うわけです。


道ばたでの交流も
思いのまま

ラサのちょっと郊外
子供たちの好奇心が
“スイッチオン”
たまらず一緒に走ってきます

東京を自転車で走ると、
いろいろな発見が
いっぱいなのです