2/21(金)イベント報告記:大自然と生きる遊牧民の知恵 -モンゴル、カザフ、トゥバに学ぶ-

解説中の西村さん
会場の「6次元」
本とアートに囲まれた濃密な空間でした

◇日 時:2014年2月21日(金)19:00~21:00
◇会 場:6次元(東京・荻窪)
◇内 容:しゃがぁ西村氏が長年フィールドワークで訪れたモンゴルについてお話しするスライドトークイベント

●報告者:小塩 茜(東京本社)

「モンゴル」あるいは「モンゴル人」。
ひと口にモンゴルと言っても、その中には、じつに豊かな民族、そして多様な暮らしが内包されています。首都ウランバートルを中心として、大多数を占めるのが「モンゴル民族」ですが、今回のイベントでは「カザフ民族」「トゥバ民族」「ツァータン」など、一般にはイメージされにくいモンゴルの人々にスポットを当てました。語り手は、NPO法人北方アジア文化交流センターしゃがぁ理事長・西村幹也さん。長年モンゴルにおいてフィールドワークを続け、モンゴル周辺諸民族の暮らしを紹介するために、日本全国で様々な活動を展開されています。

今回は、大きく4つのテーマに区切ってお話を伺いました。その一端を少しご紹介しましょう。

タイガの森に暮らす「ツァータン」のお話

ツァータンの住居
ツァータンの住居

まずはモンゴル北部、ロシア国境付近に暮らす民族「ツァータン」の登場です。ツァータンとは「トナカイを飼う者」という意。また、タイガとは「トナカイの暮らす場所」という意との解説がありました。トナカイ=サンタさんの橇をひく動物・・・そう連想しがちかもしれませんが、モンゴルのフブスグル県には、家畜として、移動手段として、トナカイと共に暮らす人々がいるのです。
ツァータンが暮らすオルツ(インディアンのティピーに似ている)や、タイガの風景など、西村さんが撮りためた貴重な写真をスクリーンに映し出し、話は進みます。その中でも、うるんだ瞳の仔トナカイの愛らしさには、会場の皆さんの表情が、和らいでいたように見えました。私も、仔トナカイに骨抜きです…。出産シーズンである春にフブスグルを旅すれば、生まれたての仔トナカイに出会えるかもしれないそうです。

バヤンウルギーに暮らすカザフ民族のお話

カザフ民族の刺繍
ひと針、ひと針縫い進められた刺繍は
目を見張るほど

さて、モンゴル最西端、バヤンウルギー県に暮らすカザフ民族、カザフ人についての話に移ります。モンゴルの西に位置するカザフスタンは、同じくカザフ民族が暮らす国です。
カザフ民族といえば、印象的なのはイヌワシと暮らす鷹匠たち、その猛々しさ。ウイ(ゲルに類似した住居)の中を明るく彩る女性たちの手仕事、刺繍。そしてアルタイ山脈が育む美しく、厳しい自然環境―。
西村さんがお話いただいたこと全ては、とても書ききれないのですが、このあたりはぜひ、西村さんにご寄稿いただいたこちらの文章と写真をご覧いただければと思います。

気高きアルタイ山脈に住む誇り高き民族
カザフ民族とバヤンウルギー

野生馬タヒ(モウコノウマ)のお話

タヒ
タヒ(モウコノウマ)

テレビでも取り上げられることのある「タヒ」は、ウランバートルから120km、モンゴルホスタイノロー国立公園内にて保護管理されています。どこか、のんびり優しい表情をして、モンゴル乗馬でお見かけする馬とは、雰囲気が違います。それもそのはず、タヒと馬とではそもそも染色体数が違い、交配しても子供は生まれないのだそうです。シマウマと馬では交配が進まない、とは聞いたことがありますが、なるほど、タヒも馬とはまったく違う動物なんですね。
そんなのんびり顔のタヒですが、縄張り意識がつよく、時に頭突きをし合ったりと気性の荒いところがある、という話が意外でした。

馬頭琴と遊牧文化のお話

最後に、モンゴルの伝統楽器「馬頭琴」のお話です。西村さんが2本の馬頭琴を見せてくれました。ひとつは皮張り、もうひとつは木製です。弾き比べてみると、木製のほうが、どちらかというと澄んだ音に感じられます。これはチェロをお手本に改良が加えられた結果なのだとか。皮張りは、雑味というか、複雑な味わいのある響きがします。革張りの方がモンゴルの草原に似合うかな、と私は感じました。

馬頭琴を解説する西村さん
木製の馬頭琴を手に解説する西村さん
遊牧民の伝統楽器・馬頭琴、と聞くと草原やゲルの中で、風の音にまぎれて悠々と奏でられる、といった映像が思い浮かぶかもしれません。しかし、1970年代以降、遊牧民の音楽から舞台音楽へと変化していった馬頭琴には、都会の専門学校へ優秀な奏者が流れ、いつのまにか草原に馬頭琴がなくなっていった、という事実があります。即興で奏でられてきた旋律も、楽譜がつくられ、固定化されてきました。常に生み出され変化しつづけきた遊牧民の音楽の担い手は、今ではごく、僅かになってきているそうです。そのような状況から、西村さんは近年、草原に馬頭琴を届ける活動をされており、その様子も伺いました。



今回は、モンゴルの民族や伝統、そして動物たちについて、そのルーツや現状を、短い時間にぎゅっと詰め込んでお話いただいたので、話が終わったときには、私の頭もメモ帳も、いっぱいになっていました。
こうして、モンゴルの北端、西端をじっくり眺めていると“いつのまにか、後から引かれた国境線”というものは、じつにあやふやになってきます。
一方で、その線が社会体制を変え、線の向こう側、こっち側で暮らす人々に異なった影響を与えているということも、西村さんのお話を聞いて改めて感じることとなりました。

西村さんの目線で、モンゴルや周辺諸国を見渡してみると、また新しいモンゴル、アジアの姿が現れてきそうです。
たいへん刺激激なトークイベントでした。