尹錫悦大統領が内乱容疑でようやく逮捕されました。これで韓国の政情が収まるかどうかは判りませんが、酷い惨劇は起こらずにすみそうです。
韓江さんの『別れを告げない』をこの年始に読み終えました。この小説は1948年に起きた四・三事件とよばれているおそるべき悲劇が通奏低音となっています。私がこの事件を多少詳しく知ったのは司馬遼太郎さんの『街道をゆく28 耽羅紀行』を読んだ時でした。その中で済州島を戦前から調査した文化人類学者の泉靖一氏の文章を以下のように引用しています。
…事件で済州島は荒廃に帰した。さきにも述べたように、総人口の四分の一が殺され、山(さん)、陽村(ようそん)のほとんどが焼かれて一時は、全部が海岸におりていたのである…『済州島・泉靖一』。
そしてもっと詳しく知りたいのであればと、金石範氏の名著『火山島』も紹介しています。
韓江さんの小説は、主人公の作家キョンハがみた “何千本もの不揃いの黒い丸木(墓標の諭か)が山の尾根から裾野へと植えられている” 夢から始まります。結晶、鳥、雪、残光、炎などなど、視覚に訴える象徴的な “ことば” がちりばめられ展開されていきます。この本も、読み進めるには抵抗を感じるかもしれませんが、ぜひ、一読をお薦めします。
黒い丸木に触発された訳ではないのですが、この年始に家の墓参りにでかけました。家の墓は大田区にあります。S寺という浄土真宗本願寺派のお寺ですが、昭和初期までは築地にあったそうです。築地市場が建設された時に築地本願寺の末寺数軒の敷地が没収され、代替え地として大田区に移ったそうです。この寺には親族の墓が私の家の墓も含め三基あります。
お参りのためのお花とお線香を扱っている建物に行き、三つ購入しようとしたところ、それを扱っているご婦人から大叔父の墓が墓じまいされたことを知らされました。本家筋の墓は私の従弟が守っているのですが、ここ数年お参りがないともご婦人から伝えられました。大叔父も娘一人でしたし、従弟と私も娘一人なので「家」の墓は私たちの代でなくなり「家」も解体していくのだと、つくづく感じました。
ところで、今月の15日の朝日新聞の一面の書籍広告欄に岩波書店の歌集『ゆふすげ』が載っていました( 『ゆふすげ』書影 )。じつにシンプルな表紙で、著者が「美智子」とだけひっそりと記してあり、不思議な気がしましたが、そうか天皇家には苗字が無いのだと、あらためて思い知らされました。
天皇家の「家」は解体しないのです。