ジャパン・ブランド

つむじかぜ462号より


「ジャパン・ブランド」を扱う番組を、最近立て続けに目にした。嘗て、メイド・イン・ジャパンで世界を席巻したときは、工業製品であった。しかし、ここでいう「ジャパン・ブランド」とは、“食であったり”、“農”、更には“鉄道の運行システム”や“駅ナカ”というJRが持つ商店街のノウハウだったり、“水の浄化システム”だったりする。

昨年、JR東日本、丸紅、東芝の3社が、バンコクの都市鉄道路線「パープルライン」の車両や信号・運行監視、変電・通信設備などの鉄道システム一式と10年間のメンテナンス(保守)事業を受注したという。受注項目には入っていないそうだが、「駅ナカ」のノウハウも提供することが盛り込まれているそうだ。受注が成功したとき「これから一緒にタイの鉄道システムをつくりましょう」と相手からから言われたそうだ。売りっぱなしではない関係が生まれたということだ。

北九州市は、自治体であるにもかかわらず、長年、公害に対処してきた浄水技術をベトナム・ハイフォン市水道公社に売り込み、更には、アジア各国に水に限らず、様々な公害対処技術を“輸出”している。

同市は、商社からスタッフを招いたりして人材を確保し、且つ、戦略的に取り組んでいるが、実に興味深いことには、現地の人たちを北九州市に招き実物を見学させ、納得させた上で、モノだけでなく、その管理システムも一緒に販売していることだ。タイの鉄道のケースとよく似ている。

上海には日本のスーパー銭湯チェーン「極楽湯」が上陸。水が透き通っていて気持ちがいいと大評判だという。たかが銭湯だが、その水の管理システムは、日本にしかない。まして、場内を綺麗に保ちきめ細かなサービスをする仕組みは、そう簡単には真似できない。ハードは真似できても、ソフトは簡単には真似できない。

考えてみたら、工業製品は、売りっぱなしである。システムや仕組みには、必ず維持管理が伴い、改善が必要である。番組の中でも扱っていたが、東京のあの複雑な地下鉄が、時間通り動く。このこと自体が驚異である。日本人は、時間通り動かそうと努力するが、日本以外では、それは無駄な努力と言われてきた。それが、少しずつ変わって来た。日本は、今「ジャパン・ブランド」という新たな武器をもったと大いに期待されている。

確かに素晴らしい。ただ、私は少々違うことを考えた。「バンコクの鉄道が、日本と同じように時間通り正確に動き、それが、バンコクの標準になる日が来るのだろうか。否、バンコクだけじゃなく、世界中が日本のようになるのだろうか?」

「ジャパン・ブランド」が「ジャパン・スタンダード」になって、それが世界に広がることは、経済発展云々は別にして、あまり好ましいものとは思えない。社会は、ある程度アバウトな方が生き易いと私は思う。

★弊社代表取締役原優二の「風の向くまま、気の向くまま」は弊社メールマガジン「つむじかぜ」にて好評連載中です。

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