埼玉県小川町へ

サドルの高さ調整をし、ハンドル中央の下部にある電源ボタンを押す。電源ONを示す赤いランプが点灯したらあとは漕ぎ出すだけだ。最初は、グイッと前方に引っ張られるように加速。「オー!」思わず声がでてしまったがすぐに慣れた。ちょっとした坂道も軽くペダルを踏むだけで楽に登っていく。30代くらいに若返ったような気分だ。

この日は、(株)風カルチャークラブの嶋田京一代表に誘われ、弊社の水野恭一と3人で「有機の里・埼玉県小川町の豊かな食と暮らしに触れるサイクリング」を試してみた。小川町の駅から徒歩5分ほどの「石蔵コワーキングロビーNESTо(ネスト)」を出発。ここに自転車が置いてある。通常3時間のコースを西紗耶香さんにガイドをお願いし2時間半ほどで回った。一か所だけ急な登りが5分ほど続く坂があったが、電動アシストのおかげで、さほどキツさを感じることもなく登りきることができた。

コースの主要な部分は、環境省が「生物多様性保全上重要な里地里山」に指定している下小川・下里地区である。人の手が入った里山は自転車から田んぼ越しに見ても美しい。目の前の緑の田んぼに視線を落とすと意外なほど草が茂っている。有機農法が故に草が取り切れないらしいがそれも想定内。有機農法でも全国的に有名なこの地区には霜里農場がある。西さんの解説では、当主の金子美登さんが有機農法を始めたころは、周囲からは変人扱いされたそうだ。そのうちに“あそこには若い人が集まりみんな楽しそうに農業をしている。それに比べたら、こっちでは若い連中は農業なんか見向きもしない。俺たちもやってみるか”。ということになったそうだ。とても分かりやすくて腑に落ちる解説だ。

私は、南信州の田舎で育った。下小川・下里のような里地里山は幼いころから見慣れた風景である。今、私は東京の多摩地区にある東大和市に住んでいる。青梅市や奥多摩町も近い。だから、取り立てて下小川・下里が珍しいというわけではないのだが、今回は、とても懐かしく感じ、心穏やかな気分を味わえた。これもコロナ禍の影響かと妙なことを考えてしまったが、サイクリングツアーの良さに違いない。嶋田京一君は、「もっと町の人たちと自然に触れ合える場面を作りたいんです。野菜の直売所での農家の人とのちょっとした会話とか、、、」。なるほど、今まで海外での自転車ツアーでやってきたことだ。不思議なもので、日本だから言葉の壁もないから簡単にできそうだが、かえって気を使ってしまうのかもしれない。

西さんは、隣の東秩父村在住で、6年ほど前にUターンし村の地域おこし協力隊で2年間活動し、5年前に始まったアムチ小川さんの「村のくすり塾」のコーディネーターとして活躍してくれた。今は、週4日は小川町駅前の観光案内所で働きながら、自転車ツアーのガイドもしてくれている。まだ30歳そこそこだろうか。自分の生まれた村にすっかり根をおろした安定感が伝わってくる。

田舎では、「週3日は○○で、後は△△。家にいるときは□□もしています」。そんな答えが多数返ってくる。西さんもその一人だ。一つの仕事にこだわらず、積極的にあれもこれも同時にやっているように私には見える。少々不安もあるのだろうが、こういう働き方が、地域の多様性を支えていくのかもしれない。

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