添乗報告記●モンゴルはどうなっているか 北西の端っこをたしかめにいく

ホテルの部屋にもハーブの香り
草原の香りがしてきませんか?
素敵なプレゼント

2013年8月10日~8月17日
文・写真●嶋田京一(東京本社)

一見単調に見える広大な草原も、よーく見てみれば、草が違い、花もある。放牧されている馬、家畜のヤギ、ヒツジ以外にも、草原には様々な小動物、鳥もいる。あそこに見えるのは何? あの丘の向こうはどうなっているのだろう? と思ったらたしかめにいく。何気ない風景から自然にまつわる物語を展開してくれる三木さんとモンゴルの自然を何でも見て確かめよう、という旅。
3回目の今回は、西北の辺境、ウブス県をたしかめに行きました。

ウブス県はモンゴルの北西に位置し、北はロシア連邦・トゥバ共和国と国境を接しています。この地域について事前に調べてわかったことは、殆ど情報がないという事実くらい。某有名ガイドブックの記載では、2ページにも満たない記述しかありません。風のウランバートル支店から得た、モンゴル最大の湖・ウブス湖、岩塩の山、世界で最も北にあるといヒャルガス砂漠、草原から望む万年雪の山、などのキーワードを抱えつつ、とにかく見に行ってみよう。自分達の目で耳で、体で確かめてみようと旅立ちました。

そんな意気込み(私だけかもしれませんが)で到着した私たちが、ウランバートル空港に降り立つと、事前にモンゴル入りしていた三木さんが、ウエルカムハーブと共に出迎えてくれたのでした。おそらく周辺の草原から材料を得たのでしょう。ひょいひょいとこうしたものを作ってしまうのも三木さんの魅力。ホテルまで移動するバスの車内では、この草は何? ヨモギの香りに似てるね、と皆さん盛り上がっておりました。
ウランバートル空港に降り立つとすでに草原の香りがするのですが、その香りの記憶が到着時の思い出として皆さんの鼻に、いや心に残ることでしょう。


何か面白いものはあるかいな
駐車場の脇だって見逃さない

遠くにいる皆さんが見えるでしょうか。国内線でウブス県に向かう日、搭乗前のほんのわずか時間なのですが、ちょっと見て来ていい? という三木さんの声に負けて、ほんの少しだけ時間をとり、皆さんで空港周辺がどうなっているか、たしかめている姿です。

国内線の機内食
けっこう美味しい
自由に流れる川
自由に流れる川


ウブス県に降り立つ width=
ウブス県に着いた!
広い! 広すぎる…
広い! 広すぎる…



モンゴルの広さを知るには、移動距離を体感距離として認識できる陸路移動も良いのですが、空路移動の良さは、空から地形が見えること。特に、今回のような趣旨のツアーでは、機上からの眺めが我々の心を鷲掴みにします。西に向かうに連れて地面の茶色い部分が多くなり、乾燥度合いが進んでいくことが見てとれます。空から見る川の様子も、砂場遊びで水を流したときのスケールが巨大になったものといった感じで、川がまるで生き物のように好き勝手に蛇行しながら、生き生きと流れているように感じられました。
水を含んだところだけ緑がある様子もよく見えます。モロッコでもアトラス山脈を越えた南側の砂漠地帯もこうした景色だったことを思い出しました。緑の部分はさしずめオアシスといったところでしょうか。

見渡す限り岩塩
見渡す限り岩塩
色とりどりの岩塩たち
色とりどりの岩塩たち



空港から早速その足で向かったのは、岩塩の山。毎回ウランバートルでお土産として購入していた岩塩のほとんどの産地がここだと聞いていたので、原産地を訪ねる喜びに浸りつつ、お客様にはその気持ちを隠しながら向ったのでした。途中、投げた石がロシア側に着地するほど国境沿いの道を通り、辺境を守るモンゴル軍の検問も通過、夕暮れ迫ろうかという頃、ようやく到着しました。見渡す限り、踏みしめている地面もすべて岩塩。生成過程や成分の違いなのか、色もさまざま。よく見ると水晶かと見まごうような塩の単結晶(必ずしも正六面体ではない)も混じっていました。

海のようなウブス湖
海のように広がるウブス湖
イイ感じに出来上がっています
途中に寄った遊牧民のお宅。突如訪問しても気負い無く迎えいれてくれる草原文化の懐の深さ


翌日は、モンゴル最大の湖・ウブス湖ヘ。まるで海のように広く、海同様にしょっぱいです。陸に閉ざされているため、蒸発により塩分濃度が高くなったためなのでしょう塩湖です。昨日訪れた岩塩の山の塩分も関係していることでしょう。


あの紅い部分は何? と近寄る一同
あの紅い部分は何? と近寄る一同
アッケシソウではないか
アッケシソウではないか


湖畔に車を停め、昼食をとった後に周囲を散策しました。水際はヘドロ状になっており、ずぶりと足を踏み入れると、大量の水鳥たちの糞が堆積した匂いと塩分の潮臭さが混じった、なんともいえない匂いが鼻をつきます。今回、周囲には水鳥の姿はほとんどありませんでした。まるで海岸線のように広がる岸辺を見渡すと遠くに赤っぽく見える部分があります。三木さんが、「あの紅いところ、気になるよね。行ってみよう…」ということで、皆さんに声をかけて近づいていくと、「サンゴ草(アッケシソウ)かも」と三木さん。で、赤い草むらに到着してみたら、やはりサンゴ草だそうで、北海道の厚岸で発見されたことにちなんで命名されたこの草が、北海道がホームグランドの三木さんと、モンゴルの最果てともいってもいい湖で邂逅する姿はなかなかに良い物語なのでした。葉と茎が食用であることを教わり、齧ってみると案の定、塩味。でも、塩加減がいい感じで、本日のキャンプの食材に…などと、つい考えてしまうのでした。


お手伝い感謝です
草原でカレー
草原で食べるカレーは格別でした

ウブス湖を後にして、車はキャンプ宿営地を目指してひた走ります。キャンプ地といっても、キャンプ場などあるはずもなく、どこにキャンプするかは、着いてから場所を選ぶ(というか探す)という添乗員にとって胃の痛くなるような任務です。またしても夕暮れどき、周囲の景色がなんとなく寂しく見える頃、ようやく適地が見つかり、それっとばかりにテントの用意と食事の用意を始めました。時間に余裕がなくなったこともあり、参加者の皆さんにはこちらの想定外の様々な準備まで手伝っていただくことになってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。しかし、おかげさまで素晴らしい料理(カレーです)が完成。ルーは日本製でしたが、食材はウブスに来てから仕入れたニンジン、ジャガイモ、タマネギ、そして羊の肉。
モンゴルカレー、美味しかったです。よね?皆さん?

そして、この日の深夜… 激しい雷雨に見舞われることとなったのでした。朝にはうそのように晴れたものの、浸水したテントがあったり、食事用のテントが風でなぎ倒されたりしていました。そして、嵐とは関係なく、朝食のために煮込んでいたスープストックの鍋がひっくり返されており、鍋にあった羊の大腿骨はすっかり消えうせていたのでした。じつは、雷雨の合間に鍋が倒れる音がしたため、外に様子を見にいくと、暗がりからボリボリと骨を噛み砕く音が、、、姿は見えねど、旨そうに齧る音だけが闇夜に響きます。そうです、まんまと野犬(もしくは遊牧民の犬)の胃袋に収まってしまったのでした。


意外に楽しいビッフェスタイル
朝食はビッフェスタイルでございます
この穴は鳥によるものかな?
キャンプ地周辺をたしかめる
空と砂漠と草原と
空と砂漠と草原と


昨夜の嵐が夢かのような清々しい朝を迎え、朝食後はキャンプ地周辺を散策。砂漠、そして半砂漠状の周囲の自然はどうなっているんだろう? と、三木さんとともに歩きまわっておられました。好奇心旺盛な面々なので、出発時間までに帰ってくるか心配…

どうやってつけたのかな?
む、この電柱の木はどうなっているのだ?
遺跡にたつ三木さん約5,000年前の遺跡とのこと。
周囲には同様のがゴロゴロあるのだからモンゴル恐るべし、です


移動中もあらゆるものに目をとめては、三木さんと一緒に、「これはどうなってるんだろうねぇ」「おそらくこういうことなんじゃないの?」と、これまで旅で見聞きしてきたものや、日本のことと比較しながら、わいわいと旅が進みます。

ヒャルガス湖のツーリストキャンプ
ヒャルガス湖畔にたつツーリストキャンプ
白い岩肌が印象的
じつはここで泳ぎました


石切りしたくなる
湖面に投げたくなるこの形
平たい石がざくざく
平たい石がざくざくと集まる湖畔の岸辺


途中、ひとやま越えて、次の目的地ヒャルガス湖に到着。ここも薄い塩分の塩湖でした(舐めました)。

車のトラブルで休憩中
車のトラブルの合間にも
なにやら見ています
羊と山羊の一団
羊と山羊の一団が次から次へと押し寄せる
家財道具一式を積んだラクダ
家財道具一式を積んだラクダたち


広大なウブス県を駆け足でたしかめるため、ここ(ヒャルガス湖畔のツーリストキャンプ)で何泊かゆっくりしたいわね、という声にごめんなさいと心で詫びつつ、次の目的地に向かいます。万年雪を抱くテグリーンツァガーン山を望む峠を越えて、山岳地帯のツーリストキャンプへ。
途中、山を降りて平原に家畜を移動させる遊牧民の一団と何度もすれ違いました。また、峠では、家財道具一式を何頭ものラグダに積んだ引っ越し中の遊牧民の一家にも出会いました。ラクダの背中に積んだ大きな子供のオモチャが、親の愛情を象徴的に現しているように感じ、遠く離れた異国の家族の姿につい感傷的になり、ジーンときてしまいました。

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僕はあの山で放牧してたんだと
うれしそうに語るガイドのプージェー
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あの雪山の方角へ向かう


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次回はここで乗馬したいなぁ
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カスピ海から祖先の地に来たカルムイク共和国の皆さん


ウブス県では、隣接しているトゥバ共和国の影響や、文化的なつながりを感じたり、遥か西のカスピ海に面したカルムイク共和国から、かつてこの地に暮らしていた民族の末裔が、祖先の地を訪れに来たりと、広大なユーラシア大陸に繰り広げられた歴史絵巻の生の姿に触れているなあという場面が随所にありました。モンゴルを見たというよりは、今、ここに暮らす人々と祖先の歴史、それを取り巻く自然を見た。そんな旅だったような気がします。

また、今回の旅は、日々移動に次ぐ移動で、参加された皆様は大変なことだったかと思います。なかなか行くことのできない土地、情報もほとんどなかった土地を巡るにあたり、つい欲張った企画となってしまったことをこの場を借りてお詫びいたします。ここに、載せ切れなかった写真、書ききれなかったことが、まだまだたくさんあり、それらを紹介していかねばならない責務を感じつつ、でも本当は、ぜひ皆さんの目で耳で、そして体で感じ、たしかめてほしいとも思っています。

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