とびきりのワカメ

蕎麦通の人は、“ざる”ではなく“もり”を選ぶ、と私は思う。海苔が蕎麦の風味を台無しにしてしまうからだ。海苔は想像以上に香りが強い。しかし、風味を楽しめるほどの蕎麦には普段は巡り合えないから、海苔でもかけて誤魔化してしまおうと私も思う。

しかし、海苔をほんの少し載せただけであの料金の違いには、東京へ来で初めて、ざる蕎麦を食べたときには驚いた。実は、南信州の飯田市で育ったころは、蕎麦などほとんど食べたことがなかった。外食をしない我が家は、祖母が作る料理か、母が祖母の顔色を伺いながら作る料理しか、大晦日以外は食卓に上らなかった。そうめんは時々出てきたが蕎麦はついぞ見たことがない。思うに、祖母が蕎麦嫌いだったのかもしれない。

明治生まれの祖母は、自分の好きなものしか作らない頑固な人だった。ご飯はおこわのように固く、そうめんのつゆは温かいものを祖母は好んだ。友人の家で冷えたつゆでそうめんを初めて食べたときは、こんなに美味しいものだったのかとショックを受けたほどだ。

蕎麦と同じように、ワカメも意外と香りが強い。立ち食いの蕎麦屋さんでも、ワカメが必ず入る店がある。あえて外すという“贅沢”を、元来の性分がケチにできている私には、どうしてもできないが、ワカメの香りが他を圧倒してしまう。しかも、最近は、つゆが少なくても丼の淵近くまでつゆが満ちて一杯に見える逆三角錐形の丼を使う店が多い。以前、つゆを多めにしてほしいと頼んだら断られた立ち食い蕎麦屋さんの話を本稿で書いたが、つゆを少なくするのもコスト管理の一つなのだろう。しかし、天玉蕎麦にワカメが入ってつゆが少ないと、少しつゆをすすると、それこそ煮物のようになってしまう。立ち食い蕎麦屋ファンの私にとってはなんともやるせない。

先週より、風の縁shopで栗山さんの猿島のワカメと昆布の販売を始めたら、随分前だが一緒にモンゴルへ行ったお客様から電話があった。「久々に触手が動いたよ。よくぞ見つけてきたねえ。この猿島のワカメは、以前は、わざわざ車で猿島まで買いに行っていたよ。美味いんだよ、これ! みそ汁に入れるなんてもったいないね。肉厚だから、戻したらそのまま食べなきゃ。1月には例年、生のワカメが出るからそれも扱ってくれたら買うよ」。やはり知る人ぞ知るワカメだったのかと改めて知り嬉しくなった。商品のことを褒められると、自分は生産者でもないのに心浮き立つ。

そんなわけで、すっかりワカメ好きになってしまいました。塩蔵ワカメを戻して、醬油を掛けるだけで充分です。美味しい酒肴になります。今週中にも、国内旅行のパンフレットと風の縁shopカタログvol.4が皆さんのもとに届きます。DM送付先になっておらず届かない方は、風の縁shopのHPからリクエストを頂ければお送りいたします。

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