聴く力

ことわざには、戒めや我慢を諭すものが多い。“口は災いの元”、“過ぎたるは猶及ばざるが如し”、”出る杭は打たれる”、“残り物には福がある”。経験を積んだ者が経験の浅い者に教え諭すのがことわざだから当然かもしれない。一方、“鉄は熱いうちに打て“、“一点突破・全面展開”、“何もやらないで失敗するよりやって失敗するほうが良い”といった挑戦を促す言葉もある。私は、こちらの方が好きだ。

大江健三郎の小説に『見る前に飛べ』(新潮文庫)というのがある。大学生の頃に読んだきりだから殆ど内容は忘れてしまったが、“やる前からあれこれ考えて結局やらないのは卑怯だ。見る前に飛ぼう”と強く思った。もちろん、大江健三郎だからそんな単純な内容でもないし、まして教訓めいた話などではなかったと思う。

私は、もちろん、どんな時でも飛んできたわけではないが、結構そういうことが多かった。お陰で、後悔すること甚だしい。団塊の世代と議論することが多かった所為か、それが癖になってしまっている。人の話を最後まで聞かないで、つい反論し相手を説き伏せようとしてしまう。会議などでも、プレゼンへのお礼を述べ、大変参考になったと申し上げてから、質問をし、反論とはならないように違う意見を併行的に提示するのが礼儀のようだが、つい、まどろっこしくて、すぐ本題に入って反論してしまったりする。

『ゴッド・ファーザーPART2』でドン・ヴィトー・コルレオーネの青年期を演じたロバート・デ・ニーロが、歳を取り、とても温厚で素敵な老紳士“ベン”を演じている『マイ・インターン』という映画を観た。電話帳の印刷会社で実直に40年間勤めあげ引退し趣味に明け暮れたがもの足らず、Eコマースで衣料品を売って1年半で従業員200人を超える急成長を遂げた会社のシニアインターン制度に応募して採用される。アン・ハサウェイ演じる若い社長の運転手となるが、最初は、その行き届いた気配りが逆に疎まれたが、次第に心が通じ合い、社長のよき相談相手・友人となっていく。

ベンは、人が話し終わるまででじっと聞いていて、けっして相手の言葉に自分の言葉をかぶせたりしない。聴き終わった後に発する一言が思慮深く相手の心をぐっと掴むが説教はしない。いつも笑顔を絶やさないが喜怒哀楽を優しく表現するからみんなから好かれる。私には、一生なれそうにない素敵で格好いい大人である。

最近は、仕事でも業界の関係団体でも私が最年長ということが多くなってきた。自分ではそんなつもりがなくても、自分の発言が、否応なく相手を封じてしまうこともあるようだ。これはまずい。まずは相手の話を聴く力をつけないといけないと反省している。

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