ラサからカイラス、そしてイスラム圏へ [LHASA・TIBET]

偉大なる宮殿ティセ(カイラス山)を一回巡れば、一生にわたって積んだ罪の汚れを浄めることができる。
十回巡れば、一カルパ(天文学的に長い時間)にわたって積んだ罪の汚れを浄めることができる。
百回巡れば、十の徴に八の性質を完成し、この生において仏の位を得ることができる。

『カイラス巡礼案内』 (19世紀)

と言われれば、チベット人だけでなく、世界中のあらゆる仏教徒、そして仏教に少しでも関心のある人ならだれでも訪れたくなる。 聖地・カイラス— 

カイラス巡礼には、バスやランクルで行くチベタンもいる中で、昔ながらに五体投地で進んでいく巡礼者もまだかなりいる。 その距離数千キロ。 途方もない距離だ。 歩くのでなく、地面に体を投げ出し、聖地へ繋がる道中で、いっぱいの砂埃と聖なるオーラを吸いながら。

現代文明に取り込まれすぎてしまった我々は、そこまでできない。 でももしできることなら、一目拝みたい。 観るだけでなく、その聖地のエネルギーを肌でじかに感じ、深呼吸をし、心身をその土地の気のながれ(神様仏様の息吹)に浸し、感じ入る。 それが聖地三昧というものだ。

そもそも聖地三昧にかけては、チベット人は天才的といえる。 
五体投地はその真骨頂ともいえる。 五体投地をするその対象は、土地神や密教の神々が住まう山や湖だったり、昔聖者が修行した洞窟だったり、「自然発生」(ランジュン)した仏岩だったりいろいろだが、チベット人はその(仏教的)聖を放射するものすべてに、物理的または肉体的に近づき跪く。 それが聖地の味わい方であり、礼儀でもあり、功徳を積める最も単純かつパワフルなやり方なのだ。

カイラスはチベット人にとって、聖地中の聖地。 
数年前、シャンシュン研究者の飯田泰也氏に教示を受けたことだが、たくさん聖地に訪れれば訪れるほど、聖地に対する感性が磨かれる— 
この指摘はおそらく正しい。 そしてカイラスは僕ら凡庸な人間でも、十分にその美しさ、荘厳さ、そしてありがたさをおしみなく体現しているらしい。

ああ、カイラスにぜひ一度でいいから行ってみたい。 
学術書や一般書でカイラスのことを知り、そして、チベット人からいろいろ話をきき、頭でっかちになってしまった。 「心でっかち」といっていいかもしれぬ。 今年9月に風のカイラスツアーがあるが、僕も同行することになった。 風の東京本社の英断(?)に謝辞をここに表明する。

実はこのツアー、もうひとつの魅力がある。
それはカイラスをぬけて、一気に車でイスラム圏へ走破するのだ。 新疆ウイグル自治区。 古くはシルクロード、そして広くイスラム文化が根付くところだ。 
チベットはよくインドや中国から多大な影響を受けたことはよく知られるところだが、イスラム圏、古くはペルシアからチベット医療や鳥葬の儀礼、(果てはチベット文字も含む)などの習慣が伝播した説はあまり知られていない。 そもそも隣接した文化圏同士なのだから、交流がないはずがない。 

9月のカイラスツアーは、仏教の聖地、そしてチベットとイスラムが遠くにいてお互い敬遠しあっていたものが、実は意外な近さでせめぎあっていることを体感する旅である。 歴史的にチベットはイスラムを敵対視する傾向にあったが、現代は現代。 インドに亡命されているあのお方もおっしゃるように、困難を承知で宗教的対話を進めていくことは非常に大切だ。 今回の旅は、チベット仏教の「最」聖地巡礼、そして世界の二大宗教の極みを体験できる、あのお方も羨まれるようなものとなろう。 

ぜひみなさん、一緒に行きませんか?

Daisuke Murakami
7月28日 
天気 曇りのち雨
気温 10〜22度 (雨のおかげで最近涼しいです。)
服装 シャツ/Tシャツ+長ズボンが一般的。 紫外線がかなり強いので、日焼け対策は必須。 異常乾燥注意報も引き続き発令。 あと、雨具は必ず持ってきてください。