第8話 ピャン村を行く[LADAKH]

ピヤン村は、レーから約24km、車で30分のところにある。レー−カリギル−スリナガル街道からも見える16世紀半ばに建てられたピヤン寺が渓谷のほぼ中心に位置している。ピヤン寺を過ぎて裏に回ると、道路脇に生えた木立が涼しい木陰をつくっている。この一帯からは、ピヤン寺の裏側を前景にして、レー周辺では最も高い雪山ストク・カンリ山が遠景に見える。レー近辺から見える風景の中では、絶景であるにもかかわらずよく知られていない。外国人ツーリストもあまりこの地域に来ることはなく、のどかな谷間の農村を風景を楽しみながら落ち着いて歩くことができる。

ふと立ち寄った農家でお茶に呼ばれた。家の名前は、バカチョ家!
家長のツェワン・ノルブさん(61才)に村での生活についていろいろ聞いてみた。

ピャン村の緑 ツェワンさん夫婦と孫のプンツォク君
ピャン村の緑 ツェワンさん夫婦と孫のプンツォク君
バカチョ家下から リグジン・ノルブ女将さん56歳
バカチョ家下から リグジン・ノルブ女将さん56歳

私 この村では、どんな穀物や野菜が獲れるのですか?
ツェワン・ノルブさん(以下ツ) 裸麦、菜種油用の菜の花、キャベツ、ジャガイモ、トマトなどじゃけん。

私 おじさんちでは、家畜は飼っていますか?
ツ 牛が2頭、ゾ(牛とヤクの交配種のオス)が2頭、ゾモ(ゾのメス)が一頭おるんけの。昔は、羊が4、50頭いたばってん、放牧に出るもんがおらんけん、いまじゃ羊はおらんわ。

私 農作物は、自分の家だけで消費しているのですか? 市場で売ったりしているのですか?
ツ そうよのお、ジャガイモなんかを売っちゃおるが、シーズン中でも月4000ルピーになるかならんかじゃな。 北の方の山脈を越えたヌプラ谷は、ここよりあったかくて昔は、玉ねぎをここまで持ってきたでのー。

私 下で新築の家が建っていますが、おじさんの家ですか?
ツ ありゃ娘と娘婿の家じゃ。わしにゃ娘が3人しかおらんけん、娘婿をとったんじゃ。娘夫婦にゃ二人の子供がおる。上は、ツェリン・チョゾム14才。下の子は、まだ1才半のプンツォク・ナムギャルじゃ。 娘婿は、トラックの運ちゃんで、軍隊さんと契約を結んどる。1日に3000ルピーも稼ぎよる。ええ婿をもらったもんじゃ。

娘と娘婿の新居 新居屋上からの眺め、ピャン寺裏側
娘と娘婿の新居 新居屋上からの眺め、ピャン寺の裏側

私 一日3000ルピーとはよい稼ぎですね。家を建てるのにどれくらいかかるんですか?
ツ よう知らんが出稼ぎ労働者の日当は、150ルピーからで、手に技を持つ大工にゃ300ルピーはらっとる。

私 冬は何しているんですか?
ツ おなごは、機織をしたりして、わしら男衆は、マニ車を回しとる。

私 正月には山の神様にお参りに行くんですか?
ツ この家の裏には、ユルハ・ミンゴ・ギャルモという女神が宿る聖なるミンゴ・ラトォ山があってのう、毎年正月には初詣に行くんばい。ダライ・ラマ法王もここら辺に来たときには、お祈りする尊い山でごわす。ほかにも、北の方には、ツェリン・チェンガという聖なる山があっての。そこにゃ太鼓の形をした岩があって、それをたたくと雨が降るちゅう噂じゃ。

私 この家の近くに赤く塗った岩がありますが、あれは何ですか?
ツ ありゃ数十年前、まだ中国がチベットを占領する前に、先代のディグン・キャブゴン・リンポチェ様がこの地方にいらっしゃって、あの岩は、ミンゴ・ラトォ山の秘密の入り口じゃとおっしゃったんじゃ。だからその後で岩を赤く塗っておる。

聖なるミンゴ・ラトォ 秘密の入口?
聖なるミンゴ・ラトォ 秘密の入口?

私 ピヤン村は、景色がよくていい村ですね。レーに住む気は、ないですか?
ツ わしゃここで生まれ、ここの暮らしが気にいっとる。レーにもちょこちょこ行くし、テレビで世界各国のことを見とるが、孫と遊んでいるこの村の暮らしが一番じゃ。

静かな農村の、のんびりしたひと時でした。